SpaceXの「ファルコン9」の使用済みロケットの上段が、2026年8月5日に月面に衝突した。これにより月面に幅約18m、深さ3m未満の新たなクレーターができたことを、米航空宇宙局(NASA)の月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」が8月11〜12日に現場を撮影して確認している。
この機体は25年1月15日に打ち上げられたもので、米国のFirefly Aerospaceの月着陸船「ブルーゴースト」と、日本のispaceの月着陸船「RESILIENCE」を運んだ機体だった。打ち上げから約1年半を経て、太陽活動と重力の影響で軌道が変化し、月面に落下したとNASAは説明している。
NASAの記者会見に出席したSpaceXディレクターのジュリアナ・シャイマンによると、高エネルギーのミッションでは上段を安全な状態にするために通常とは異なる処置が必要で、今回も「適切な規則にのっとって処置を実施した」という。「月へ向かうような高エネルギーのミッションにとって、将来どのような処分の道筋が最適なのか。これはNASAやほかの関係機関と協力して取り組んでいることのひとつでもあります」

月面の様子。ファルコン9」の使用済みロケットの上段によって新たにクレーターができたことがわかる。
Photographs: NASA/GSFC/Intuitive Machines
衝突の兆候を最初につかんだのは在野の天文家だった。公開データから割り出した軌道情報をもとに、NASAの地球近傍天体研究センター(CNEOS)が落下地点を精密化。これを受けて、韓国の月探査機「ダヌリ」が数時間後に現場を撮影し、予測位置との誤差が約1kmに収まっていたことを確認した。
その後、座標情報がLROのチームに伝えられ、追跡撮影が実現したという経緯だ。月周辺には地球低軌道のような継続的な監視網がまだ整っていない現実が、改めて浮き彫りになったといえるだろう。
実際、22年3月にも別の使用済みロケットの上段が月に衝突する事案があり、この機体は当初「ファルコン9」の上段であるとみられていた。ところが、実際は中国の「長征3号C」の上段だったことが、衝突から約1年8カ月後に研究で裏付けられた。地球と月の間に広がる宇宙空間(シスルナ空間)における物体の追跡が、まだ困難であることを示す先例として知られている。
月にはすでに人工物があふれている
月に人工物が残されたのは、今回が初めてではない。1959年に旧ソ連の探査機「ルナ2号」が到達して以来、70年近くにわたって探査機や使用済みロケット、着陸船、月面車、科学機器、宇宙飛行士が残した廃棄物などが月面に蓄積している。
その総数は、細かな装備品まで含めるとおよそ3,000個、総質量は200トン前後になると推計されている。ただし、これはNASAが公式に集計した数値ではなく、大型の探査機から工具や記念品までを幅広く含んだ概算にすぎない。
これらすべてを単純に「宇宙ゴミ」と呼べるわけではない。歴史的な価値をもつ遺産もあれば、いまなお科学的意義をもつ観測機器も含まれている。何を廃棄物とみなすのか、その線引き自体は曖昧なままだ。
それでは不要になった機体を、なぜ地球へ持ち帰らないのか。月面から物を打ち上げるには、推進剤や機体そのものを月まで運ぶ必要がある。だが限られた輸送能力の大半は、ミッション本来の目的に費やされる。そのため使い終えた装備を現地に残すことは、宇宙開発の構造上、長年にわたって合理的な選択とされてきた。
