領空侵犯、無人機、破壊工作――NATOを揺さぶるロシアの手法から考える日本の備え
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2026.9.1(火)
「やった後に怒る」だけでは抑止にならない
抑止とは何か。
相手が行動を起こした後で、強い言葉で非難することではない。行動を起こす前に、「それをやれば割に合わない」と相手に計算させることである。
そのためには、まずグレーゾーンにおいて、どの線を越えれば日本が対応を一段引き上げるのかを考えておかなければならない。
すべてを公表する必要はない。
だが、何をされても最後は同じ抗議声明で終わると相手に思われれば、抑止力は弱くなる。
次に必要なのは、破壊工作やサイバー攻撃について、その実行主体を迅速に特定する能力である。
十分な証拠が得られれば、国家として「誰がやったのか」を明らかにする。帰属を公表できれば、相手は匿名性という盾を失う。
外交、経済、司法、サイバー、安全保障上の対抗措置を取る際にも、国民や国際社会に説明しやすくなる。
さらに、欧州で現実に使われている「代理人型」の工作にも備えなければならない。
外国の情報機関が、自国の工作員を送り込むとは限らない。SNSや通信アプリを通じて現地の人間を募集し、カネを渡して放火や破壊工作を請け負わせる。
日本で同じことが起きない保証はない。防諜能力や治安法制を含め、平時から備えておく必要がある。
戦闘機を上げた「その後」が問われている
そして何より重要なのは、「日米同盟があるから大丈夫だ」と思考を止めないことである。
同盟の抑止力を強くするのは、条約の文章だけではない。日本自身に、自国を守る意思と能力があることを相手に見せることである。
元戦闘機操縦者として言えば、外国軍機が日本の領空へ接近すれば、戦闘機をスクランブル発進させるのは当然である。
問題は、その後だ。
何度接近しても、何度侵犯しても、その都度戦闘機が上がり、最後に外交ルートで抗議声明が出て終わる。
もし相手がそう学習したらどうなるか。
次は、もう少し近くまで来るかもしれない。次は、もう少し長く留まるかもしれない。次は有人機ではなく無人機かもしれない。
あるいは、海底ケーブルが切れる。倉庫が燃える。空港の近くに爆薬を積んだドローンが現れる。
その時、「事故なのか」「犯罪なのか」「国家による攻撃なのか」という議論をしている間にも、相手は次の一手を考えている。
欧州がこの4年余りで経験してきたのは、まさにそういう世界である。
日本が学ぶべきなのは、事件が起きた後に、いかに強い非難声明を書くかではない。
事件を起こす前に、「やれば割に合わない」と相手に理解させる方法である。
それが抑止である。
