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    哲学者 内田樹
    哲学者 内田樹
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     哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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     楽天がドイツの兵器会社ヘルシングと提携して、ドローン兵器の導入・国産化を進めるという報道を受けて、通販生活は、企業理念とは相いれないという理由で楽天市場への出店を中止した。そのすぐあとに通販生活主催の憲法をめぐるシンポジウムに呼ばれた。ものものしい警備だったが通販生活への批判の電話やメールが殺到しているので、何かあったらいけないということでの配慮だと聴いた。「非戦」を公言すると攻撃されるとは、嫌な時代になったものである。登壇したのは防衛ジャーナリストの半田滋さん、新外交イニシアティブの猿田佐世さんと私。私はICCの赤根智子所長への制裁をトランプ大統領が発令した後だったので、トランプはなぜ「法の支配」を嫌うかについて私見を述べた。

     一人一人が自己利益の最大化を求めて「万人の万人に対する戦い」を展開する野蛮状態では誰一人安定的に生命財産を確保できない。「生活は孤独で、貧しく、きたならしく、残忍で、しかも短い」(ホッブズ)。自然状態の社会には法律がなく、裁判官がおらず、判決を執行できる実力装置もない。「万人を畏怖させるような共通の権力」が出現しない限り、この戦争状態は終わらない。だからホッブズは公権力を想像上の海獣リヴァイアサンに比したのである。

     今の国際社会は「万国の万国に対する戦い」状態にある。国連も国際法もICCも国際的な紛争について理非の判定を下せても、その決定を物質化できるだけの実力を持っていない。世界はいわば「半野蛮」状態にある。この過渡期を「法の支配」に向けて進化させるか、「力の支配」に向けて後退させるか、その分岐点に私たちはいるというのが私の仮説である。

     人類が生き延びるためには「法の支配」に向けて進化するしかない。だが、それは80億の人間の上に巨大な「リヴァイアサン」が君臨する制度を打ち立てることを意味する。一個人と世界的公権力の圧倒的な力の非対称性を想像すると「恐怖を感じる」という(トランプのような)人がいることに不思議はない。どうしたらいいのか。誰も正解を知らない。果たして「怖くないリヴァイアサン」を人類は着想できるだろうか。

    ※AERA 2026年9月7日号

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    内田樹

    内田樹

    内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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