2026年7月に仏パリで開催された「Japan Expo Paris 2026」は、漫画やアニメに加えて、ゲームなどのポップカルチャーを中心に日本文化を幅広く紹介する欧州最大規模の展示会だ。その始まりは2000年に遡る。Japan Expoが始まった経緯や意義について共同創設者に話を聞いた。

Japan Expoの共同創設者であるThomas Sirdey(トマ・シルデ)氏
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「Japan Expo」は、漫画、アニメ、ゲームなどのポップカルチャーを中心に、さまざまな日本文化を紹介する欧州最大級のイベントだ。今年も2026年7月9~13日、仏パリで「Japan Expo Paris 2026」が開催された。Japan Expoは2000年に始まり、新型コロナウイルス禍などでの中止期間を経て、今回で第25回目を迎えた。
欧州における日本文化の普及に、Japan Expoが与えた影響力は小さくない。Japan Expoもアニメ、漫画に加えて、今ではゲームなど日本のポップカルチャー全般を取り扱う。さらには空手や柔道、古武道などで指導者が教える実演エリアなどもある。
そもそも、なぜ日本文化を取り上げるようになったのか。また、海外でもフランスなどを中心に日本文化が根付いていると言われているが、それが一部のマニア層に限られるのか、あるいは一般層まで広がっているのか。Japan Expoの共同創設者で、25年以上にわたり日本の文化を欧州に伝えてきたThomas Sirdey(トマ・シルデ)氏に話を聞いた。
──26年前にJapan Expoを開催した経緯は?
Thomas Sirdey氏(以下、Sirdey) 日本のアニメーションに強い感動を覚え、その素晴らしさを多くの人と共有したいと考えたからです。アニメを入り口に日本を知り、漫画や伝統芸能、工芸、武道など幅広い文化に触れるうちに、「あらゆる日本文化を紹介したい」という思いが強くなりました。
そのためには展示会の形が最適だと判断し、Japan Expoを立ち上げました。Japan Expoを開催する前は、フランスでは日本の認知度は今ほど高くはありませんでした。アニメや漫画に限らず、日本をもっと広く取り扱う場を作りたいと考えたのです。

フランスでは日本の数多くのアニメーションが放映されてきた。永井豪原作の『UFOロボ グレンダイザー』はフランスでは『Goldorak(ゴルドラック)』として放送され大人気に
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──最初は日本のアニメに影響され、後に漫画や他の文化に関心が広がっていったのですか。
Sirdey 私が子供の頃はテレビをつけると、多くのアニメが放映されていました。夢中になって見ていましたが、当時はそれらの多くが日本で作られたアニメだとは知りませんでした。
1980年代には、さらに日本のアニメがたくさん入ってきましたが、フランスの規制により、一定割合でフランスのアニメ作品を放映しなくてはならなくなり、日本のアニメが激減しました。
そこで多くのフランス人はアニメの代わりに漫画を読むようになったんです。日本の場合だと「漫画ばかり読んで」みたいに親に疎まれると聞きますが、フランスの場合は「漫画も本だから本を読んでいるならよいのではないか」という感覚があり、それで漫画が多くの人に受け入れられました。
漫画の中には日本のことがいっぱい描かれていて、それで日本を知るようになった人がたくさんいます。もちろん分からないことも多いわけですが、それが余計に好奇心をかき立てました。

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Japan Expoは漫画の展示が充実。多数の来場者が集まる
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──Japan Expoの会場のフードコートでは、おにぎりや鯛焼きを売っていて、みなさん当たり前のように食べていました。これも漫画やアニメで日本の食べ物として興味を持った結果なんでしょうか。
Sirdey すでにフランスでは日本の文化が広く行き渡っています。楽しんで受け入れている原点になったのは80年代にアニメの人気が高く、フランスに浸透したからだと思っています。
例えばお刺身。我々の祖父母の世代の人に刺身の話をすると「生の魚を食べるの?」と受け入れられないことが少なくありません。若い世代にもそういう人もいるとは思いますが、アニメや漫画から興味を持った人は受け入れている人が多いんです。

Japan Expoのフードコート。おにぎりなどを販売している
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──日本文化を自国文化とは違う変なものと捉えず、興味の対象となったわけですね。しかし、日本の漫画やアニメはもともと日本国内で消費されるローカルな文化として展開してきました。それは現在でも基本的には同じだと思います。例えば、ハリウッド映画やAAAタイトルのゲームのようにグローバル市場を目指しているわけではない中、それでもフランスを始め、欧米、東南アジアなど世界で受け入れられていることについてはどう見ていますか?
Sirdey 確かに日本の漫画やアニメは、世界の誰もが共感し、理解できるユニバーサルな作品づくりにはなっていません。ただ、漫画やアニメの主題となるスポ根や友情などは、世界の誰にでも通じると思います。
あと、現在は多様性がうたわれる世の中なので、ローカル文化を尊重する動きもあると思います。日本のアニメなどは、そういった状況にない当時から世界基準に合わせたり、下手にローカライズしたりせず、日本ローカルを貫いていて、そこにこそ力があるのだと思います。
アニメの中には私たちの知らない世界があります。そこで理解できないと思わず、文化を享受していく。日本では学校や家に入れば靴を脱ぐことを知ります。フランスには靴を脱ぐようなことはありません。「この行為は何だろう」と疑問に思い、興味につながって日本のことを知るようになるわけです。
アニメに出てきた侍や忍者を見れば、その時代や歴史を知らずにはいられなくなります。「NARUTO」には主人公のナルトがラーメンが大好きな描写が出てきますが、ラーメンを食べずして彼の気持ちは分かりません。日本の漫画やアニメは、それ自体のクオリティーの高さや独自性のある作品としての高い価値がありますが、それ以上に日本の文化を幅広く知れるアイテムとしての存在価値も大きいんです。
──Sirdeyさんのように日本のアニメや漫画を受け入れた人は多いと思いますが、いわゆるマニア的ではなく、一般的なフランス、欧州の方々はアニメや漫画をどう捉えていますか?
Sirdey 日本文化はいわゆる“オタク”だけじゃなくても受け入れられています。アニメや漫画以外でも、フランスにはラーメン屋もたくさんありますよ。まあ、あまりおいしくありませんけど(笑)。ラーメン屋は昔はパリに限った話でしたが、今はフランス全土でラーメンを食べられるようになりました。
あとユニクロも人気です。食やファッションなどのソフトパワーは十分にフランスに浸透していて、その先には日本に行ってみたいと思う人が多くいます。フランス人が旅行に行きたい国の上位に日本は常に入っていると思います。
──日本もフランスに対しては憧れを持っている人も多く、フランス料理やワインを始め、さまざまなフランス文化が日本に浸透しています。それと同じ感覚なのかもしれません。
Sirdey 歴史的には、日本とフランスは長年良好な関係を築いてきました。芸術や美術はもちろん、料理などもそうです。フランス料理も日本料理もユネスコの国際文化遺産になっていますし、両国の文化はまったく違いますが、共通点もたくさんあります。互いに尊重して仲良くしてきたところがあると思っています。
