今大会の最高標高地点となる標高2,153mの1級山岳にフィニッシュしたブエルタ・ア・エスパーニャ第12ステージ。弱冠20歳の元スロベニア王者、ヤコブ・オムルゼル(バーレーン・ヴィクトリアス)が逃げ切ってグランツール初勝利を決め、エンリク・マス(スペイン、モビスター)がマイヨロホのリードを拡大した。
第12ステージ 9月3日(木)
ベラ〜カラール・アルト 166.6km(山岳)
カラール・アルト天文台のある1級山岳カラール・アルトにフィニッシュするブエルタ第12ステージ photo:CorVos
第12ステージ ベラ〜カラール・アルト image:A.S.O.スプリンターが主役となった2日間を終え、ブエルタ・ア・エスパーニャは第12ステージから再びマイヨロホ争いが動き出す。その舞台はアンダルシア地方の地中海に面したベラから内陸を進んでいく166.6kmで、徐々に標高を上げていく典型的な山岳ステージ。4つのカテゴリー山岳を越え、最後に駆け上がるのは今大会最も標高の高いフィニッシュ地点である標高2,153mの1級山岳カラール・アルト(距離16.9km/平均5.6%)だ。
獲得標高4,568mに達する過酷なステージは、前日も逃げたイーサン・ヘイター(イギリス、スーダル・クイックステップ)のアタックから幕を開けた。逃げ切りのチャンスでもあるこの日は激しいアタック合戦が繰り広げられ、大会6日目のスタート前に今季限りの現役引退を発表したアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、NSNサイクリングチーム)ら3名が一時先頭集団を形成する。そんな最中、メイン集団ではラウンドアバウトで集団落車が発生し、オスカー・オンリー(イギリス、ネットカンパニー・イネオス)が巻き込まれた。
大所帯の逃げ集団が形成された photo:A.S.O.
落車したものの、プロトンに復帰したオスカー・オンリー(イギリス、ネットカンパニー・イネオス) photo:A.S.O.
逃げに乗り、中間スプリントだけでなくカテゴリー山岳もトップ通過したワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) photo:A.S.O.
2分20秒差で総合4位につけ、マイヨブランコ(ヤングライダー賞ジャージ)を着るオンリーはすぐさま立ち上がり、擦過傷を負いながらもプロトンへと復帰した。レース先頭では3名にワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)らが合流。ウノエックス・モビリティなどが3名を送り込む、約30名の大所帯の逃げ集団となった。
ファンアールトはマイヨモンターニャ(山岳賞ジャージ)を着るサンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス)を退け、最初の3つのカテゴリー山岳をトップ通過し、この日山岳賞ランキングの2位に浮上する。そして中間スプリントポイントも先頭を取り、最大20ポイントを加算。一方のプロトンはリーダーチームであるモビスターが先導し、逃げとの差は最大7分40秒まで広がった。
続く最後から2つ目の山岳、1級ベレフィケ峠(距離13.1km/平均7.2%)でファンアールトは遅れ、頂上はブイトラゴが先頭通過。下りを経て続く最終1級山岳カラール・アルト(距離16.9km/平均5.6%)では、その麓からブイトラゴがチームメイトであり、プロトン最年少の20歳ヤコブ・オムルゼル(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)のために先頭集団を牽引した。そのため残り15kmを切った時点で、先頭にはバーレーン・ヴィクトリアスの2名の他に、レオ・ビジオー(フランス、デカトロンCMA CGM)とウルコ・ベラーデ(スペイン、エキポ・ケルンファルマ)の2名しか残っていなかった。
その5分後方では総合3位フェリックス・ガル(オーストリア)のため、デカトロンCMA CGMが3名のアシストを投入し、ライバルたちのアシストを引き剥がす。そして残り15km地点でガルが仕掛け、反応できたのはマイヨロホを着るエンリク・マス(スペイン、モビスター)と総合2位プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)の2名だけ。落車の影響かオンリーが遅れ、他の総合勢もデカトロンCMA CGMによる強烈な牽引で集団から遅れていた。
1級山岳でベラーデを引き離し、単独先頭に立ったヤコブ・オムルゼル(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos
ブイトラゴが役割を終えた先頭集団からは、ガルをアシストするべくビジオーが遅れたため、オムルゼルとベラーデの2名に絞られる。仲間のアシストに結果で応えたいオムルゼルは何度もアタックを繰り返し、残り12km地点でついにベラーデを引き離す。育成チームから今年プロデビューし、これがグランツールデビューとなるオムルゼルは冷静に沿道のスタッフからボトルを受け取り、前を見据えて淡々と脚を回していく。
森林限界を越えてもオムルゼルのペースは変わることなく、ヨーロッパ大陸最大の光学望遠鏡を擁するカラール・アルト天文台のある頂上に到着。笑顔を見せながら後方を確認すると、両手を挙げてから頭を抱え、最後は雄叫びを上げながらフィニッシュ。ワールドツアー初勝利をブエルタという大舞台で手に入れた。
12km独走でグランツール初勝利を手に入れたヤコブ・オムルゼル(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos
勝利を喜ぶヤコブ・オムルゼル(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos
「(この勝利に)驚いてはいない。自分がどれだけ努力してきたか分かっているし、こういう日が遅かれ早かれ来るとは思っていた。ただ、もちろん初めてのグランツールでそれが実現するとは100%思っていなかった。自分がやったことをまだ信じられないけれど、今日は本当に調子が良かった。今もまだ元気だし、疲れてもいない。ただ、この瞬間を楽しんでいるよ」と喜んだオムルゼル。ステージ優勝だけでなく、総合でも6位に順位を上げ、またマイヨブランコではオンリーに30秒差まで迫った。
スロベニア選手権ではジュニアロード連覇を達成した後、バーレーン・ヴィクトリアスの育成チームに加入した昨年はジロ・デ・イタリア・ネクストジェンで総合優勝。直後のスロベニア選手権ではエリートで優勝し、プロ初勝利を飾った。そして2006年3月21日生まれのオムルゼルは、20歳5ヶ月13日でのグランツール区間優勝を果たし、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG)のスロベニア人記録(20歳11か月10日)を更新。本人は「ただの記録でそれ以上の意味はない」と語りながらも、その将来を期待せずにはいられない新たな才能が、またスロベニアから現れた。
総合のライバルたちを引き離したエンリク・マス(スペイン、モビスター) photo:A.S.O.
ガルとログリッチ、カラパスの3名がフィニッシュを目指す photo:CorVos
総合勢による争いでは、フィニッシュまで10km以上を残した地点からマスが仕掛ける。その鋭い加速にガルとログリッチはついていけず、マスは逃げ集団から遅れたラウル・ガルシア(スペイン、モビスター)の力も借りながら、トップから2分56秒遅れの区間6位でフィニッシュ。リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)も加えた3名で追走したログリッチたちはマスから27秒遅れだったため、マスの総合リードは1分18秒から1分45秒に拡大した。
マイヨロホのリードを拡大させたエンリク・マス(スペイン、モビスター) photo:CorVos
