2026年F1第6戦モナコGPのリザルトが再び覆り、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)が3位表彰台を失った。マクラーレンとレッドブル・レーシングによる控訴が認められ、当初ガスリーに科されていたピットレーン速度違反による2件の5秒ペナルティーが復活した。
FIA国際控訴裁判所(ICA)は9月4日(金)、第13戦イタリアGPのフリー走行1回目(FP1)開始直後、ガスリーへのペナルティーを取り消したスチュワードの決定を覆したことを明らかにした。
一連の審理で争点となったのは、ピットレーンの平均速度を算出するために使われた距離パラメーターだった。F1の公式タイムキーパーを務めるフォーミュラ・ワン・マネジメント(FOM)は、公式タイミング・システム(OTS)に入力した2692cmより短い距離を使用すべきだったと認めていた。
だがICAは、全車が2692cmという同じ公式基準のもとでレースを行った以上、事後にガスリーだけ異なる距離を用いて再判定することは、「スポーティング・フェアネスと平等待遇に反する」と判断した。
結果への影響:ガスリー7位、ハジャー3位復帰
今回の決定により、ガスリーは3位から7位へ降格した。3位にはアイザック・ハジャー(レッドブル・レーシング)が復帰し、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が4位となった。
レーシング・ブルズのリアム・ローソンとアーヴィッド・リンブラッドも、それぞれ5位と6位へ繰り上がった。
これにより、3カ月近く続いたモナコGPの順位を巡る争いは、当初の決勝結果へ戻ることになった。
ガスリーは3位と7位の差にあたる9ポイントを失い、アルピーヌのコンストラクターズ選手権のポイントにも影響が及んだ。
アルピーヌはICAの決定を受け、苛立ちと失望を表明した。裁定は受け入れるとする一方、ガスリー自身はピットレーンの60km/h制限を実際には超えていなかったとの立場を維持している。
さらにエグゼクティブ・アドバイザーを務めるフラビオ・ブリアトーレは、本審査の判事の一人がマクラーレンと関係する人物であったと主張し、審理の公平性に強い疑義を呈した。
経緯:3ヶ月続いたモナコGPの争い
モナコGPのピットレーン速度制限は60km/hに設定されていた。F1ではピットレーンを複数の区間に分割し、路面に埋め込まれたタイミングループ間を通過する時間と、あらかじめOTSに入力された距離を使って平均速度を算出する。
ガスリーは決勝中、ピット入口付近の対象区間で速度制限を2度超えたとして、それぞれ5秒ペナルティーを科された。アルピーヌはレース中にこれを消化せず、チェッカーフラッグ後に合計10秒をレースタイムへ加算する方法を選び、3位フィニッシュしたガスリーは7位へ降格した。
レース後、アルピーヌは再審査を請求した。
FOMは対象となるタイミングループ間の距離として2692cmという数値をOTSに入力していた。だがレース後にコース形状を改めて検証した結果、タイミングループが進行方向に対して垂直ではなかったため、より短いラインを選択できたことが判明した。
FOMは後に、理論上の最短距離として2615cmという数値を算出した。これを受け、スチュワードは6月12日、ガスリーが実際には60km/hを超えていなかったと判断し、2件のペナルティーを取り消した。
一方、同じく速度超過ペナルティーを受けた他のドライバーは、レース中にすでに制裁を消化していた。スチュワードには消化済みのペナルティーを遡って取り消す権限がなく、ガスリーへのペナルティのみが撤回された。
マクラーレンとレッドブルは、ガスリーだけが異なる扱いを受けることは「平等待遇とスポーティング・フェアネスに反する」と主張し、ICAへ控訴した。
ICAは8月25日、フランス・パリのFIA本部で非公開審理を実施。アルピーヌとレーシング・ブルズも第三者として手続きに参加した。
ICA:共通基準の事後変更は「不公正」
ICAが最終的に重視したのは、2692cmという距離が単純な計測ミスによって生じた数字ではなく、公式タイムキーパーが週末を通じて全車に適用した共通のパラメーターだったという点だ。
FOM側の証言によれば、2692cmという実測値自体は「正確」だった。問題は、タイミングループ間の距離としてどのラインを選ぶべきだったかという「幾何学的な判断」にあった。さらにF1レギュレーションには、そのラインをどのような方法で選定するかを定めた規定が存在していなかった。
2692cmという数値は競技前にFOMが採用したものであり、各チームはこれに基づきピットレーン速度リミッターを調整した。レース週末中に一部チームから測定値への疑問が示された際にもFOMは確認を行い、システムに問題はないとの判断を維持していた。
ICAは、競技終了後に別の測定方法から得られた数字を用い、ガスリーだけを再判定することは認められないと判断した。
「決勝後に異なるパラメーターを10号車[※ガスリー]だけに選択的に適用すれば、共通の基準に合わせて較正し競技した競技者がひとつの基準で判断される一方、10号車だけは最終的に別の基準で判断されることになる」
さらにICAは、公式タイムキーパーが採用した距離を基準として全車がレースに臨んだ以上、公平性を維持するためには、その数字を競技期間中の共通基準として固定する必要があるとの考えを示した。
「公式計時担当者が競技に使用するOTSの距離パラメーターを設定・採用し、競技者がその共通パラメーターを基準にマシンを較正して競技を行うことを求められた以上、スポーティング・フェアネスおよび平等待遇の観点から、そのパラメーターは競技期間中、固定されなければならない」
実測データの欠如:「最善の推定」では不十分
ICAは公平性の問題に加え、仮にレース後に異なる距離を採用できるとしても、ガスリーが実際に60km/h以下だったと認定するには証拠不十分だと判断した。
FOMがレース後に算出した2615cmは、通常OTSに入力する際に用いる現地での実測値ではなく、GNSS(全球測位衛星システム)データなどから導き出された数字だった。またFOMは、問題となった2回の違反に関して、ガスリーが実際に走った距離そのものを測定していなかった。
アルピーヌも、映像やデータ、CADモデルからガスリーの走行軌跡を再現したが、それは実際の走行距離ではなく「最善の推定」にとどまるものであり、cm単位の精度で実際の走行距離を証明できるものではなかった。
そのためICAは、モナコGPで公式に使われた2692cmを基準としてガスリーの速度を評価。OTSが記録した60.4km/hと60.5km/hはいずれも60km/hの上限を超えていたとして、2件の5秒ペナルティーを復活させた。
一方でICAは、タイミングループの故障や通過時間の誤記録、入力ミスなどが確認された場合には、再審査によって裁定を修正する余地があるとした。
今回認められなかったのは、全車が競技中に使用した共通の測定基準そのものを、レース後に別の方法で算出した数字へ置き換え、それを特定の競技者にのみ適用することだった。
FIAは一連の問題を受け、現行のF1タイミングシステムの測定方法と運用、それに関連するレギュレーションを見直すと発表した。再審査請求や控訴を含む司法手続きについても検証する方針を示している。
