2026年9月
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    本賞は、『Business History Review』に前年掲載された論文の中から、編集諮問委員会の投票により最も優れた論文1本に授与される賞です。受賞論文では、これまで大企業や男性技術者が中心と考えられてきた日本の家電産業の発展において、家庭の主婦が製品改良に重要な役割を果たしていたことを明らかにしました。

    高度経済成長期の日本では、家電産業の発展は、大企業や男性技術者による技術革新によって実現したと考えられてきました。一方で、家電製品を日常的に使用する消費者、とりわけ家庭で家事を担っていた主婦は、企業が開発した製品を受け入れる「受け身の存在」として捉えられることがほとんどでした。

    しかし、家電は実際に使う人の声によって改良されてきた側面があります。それにもかかわらず、家電の開発や普及において主婦が果たした役割については十分に明らかにされていませんでした。そこで本研究では、企業だけでなく、消費者である主婦が日本の家電産業の発展にどのような役割を果たしたのかを検証しました。

    本研究では、『暮しの手帖』をはじめとする女性向け雑誌や企業の社内資料、関係者への聞き取りなど、多様な資料を分析しました。その結果、高度経済成長期の主婦は単なる消費者ではなく、家電製品の使い勝手や改善点を雑誌へ積極的に投稿し、その声が雑誌を通じて企業へ届けられていたことを明らかにしました。たとえば洗濯機です。『暮しの手帖』の商品テストは「立ったままではダイヤルが見えにくい」と指摘しました。メーカーは主婦の声を受けて設計を変更し、翌年には立ったままダイヤルが見える形に改めています。

    同誌は284名の主婦から使用報告を集めるなど、生活者の視点を丹念に集めて企業へ伝えていました。企業側もそうした意見を製品開発に取り入れ、より使いやすい家電へと改良を重ねていました。つまり、日本の家電産業の発展は、企業や技術者だけで実現したものではなく、実際に製品を使う主婦と企業との対話によって支えられていたことを示した点が、本研究の大きな成果です。これは、日本の高度経済成長を支えたイノベーションの歴史を、消費者やジェンダーの視点から捉え直す新たな研究成果となっています。

    本研究は、武蔵野大学図書館が所蔵する生活雑誌『暮しの手帖』との出会いをきっかけに着想を得たものであり、同誌の記事や読者投稿を分析することで、これまで見過ごされてきた主婦の役割を明らかにしました。また、女性誌が主婦の声を企業へ届ける橋渡し役を果たし、その意見が製品開発に反映されていたことも明らかにしました。

    現在は『暮しの手帖』の商品テスト自体を対象に、製品を変えた「主婦の声」はどのように形づくられたのか、その過程を追っています。2026年7月にはトロント大学で開催された第3回世界経営史会議で成果の一部を報告したほか、科学研究費助成事業の共同研究「Design and value creation in the Japanese manufacturing industry (1950–2025)」にも参画し、産業の歴史をつくる側とつかう側の2つの視点で描き直そうと試みています。

    ■経営学部 経営学科 平野 貴士准教授

    賞の名称

    The Henrietta Larson Article Award(ヘンリエッタ・ラーソン論文賞)

    授与機関

    Business History Review誌(ハーバード・ビジネス・スクール発行、1926年創刊の経営史分野の専門誌)

    内容

    同誌に掲載された論文のうち最も優れた1本に対し、編集諮問委員会の投票により毎年授与される賞

    受賞対象

    Vol. 98(2024年)掲載論文

    受賞論文

    “Housewives and the Growth of the Japanese Electrical Appliance Industry, 1950–1990,”

    Business History Review, Volume 98, Issue 2, Summer 2024, pp. 389–416.

    著者

    ・平野 貴士 准教授(武蔵野大学 経営学部 経営学科)※筆頭著者

    ・酒井 健 准教授(一橋大学・東北大学)

    ・ピエール=イヴ・ドンゼ 教授(大阪大学)

    『Business History Review』は、1926年創刊、ハーバード・ビジネス・スクールが発行する経営史分野を代表する国際的な学術誌です。「The Henrietta Larson Article Award」は、同誌に前年掲載された論文の中から、編集諮問委員会の投票により年間で最も優れた論文1本に授与される賞です。

    ・受賞ページ(Business History Review):

    https://www.cambridge.org/core/journals/business-history-review/announcements/prizes-and-awards/the-henrietta-larson-article-award

    ・受賞告知(ハーバード・ビジネス・スクール Business History Initiative):

    https://www.hbs.edu/businesshistory

    ・論文ページ(DOI):

    https://doi.org/10.1017/S000768052400028X

    ■経営学部経営学科:

    https://www.musashino-u.ac.jp/academics/faculty/business_administration/

    ■経営学科特設ページ:https://musashino-u-ka.com/

    ■学問の地平から 教員が語る、研究の最前線

    ~第89回 経営学(イノベーション) 経営学部 経営学科 平野 貴士准教授~:

    https://www.musashino-u.ac.jp/research/interview/89_hirano/index.html

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