ジョージ・マーシャル元国務長官(中央)と握手するハリー・トルーマン大統領(左、1949年10月3日撮影、写真:AP/アフロ)
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2026年9月2日付)
ドナルド・トランプは8月16日、韓国との合同軍事演習の大幅縮小を発表した。
8月19日には、5日後に「経済的追放作戦」と呼ばれるようになったイランへの経済制裁を発表し、「イランの現体制を維持している経済的命綱を断つ」取り組みと位置づけた。
8月21日には米国とカナダの通商交渉が決裂した。
カナダがほかの国と貿易協定を結んだりフランス語を保護するルールを維持したりする自由を米国が制限できるような要求を新たに突き付けた後のことだ。
8月28日にはトランプが「世界史上最大の石油取引!」なるものを発表した。
「確認埋蔵量」が計650億バレルに上る17の油田を新設のベネズエラ企業が開発し、生産された原油の55%の支配権を米国が握るという内容だ。
2週間の行動に見るトランプの世界観
わずか2週間でよくもここまでできるものだ。行動自体に意外感はない。だが、トランプが信じる世界がどんなものかを明らかにしている。
その世界では米国は同盟国を持たず、あるのは衛星国だけだ。
米国は自分が望むことを何でも、いつでも好きな時に、誰に対しても行うことができる。この世界で重要なのは力だけ。その力を持っているのは米国だけだ。
そして、その力を振るう権限はたった一人の男の手に集中しており、それが弱い者いじめをする男であることは決して偶然ではない。
昔はそうではなかった。ハリー・S・トルーマンの政権で1949~53年に国務長官を務めたディーン・アチソンは1969年に出版した回顧録『Present at the Creation(創造に立ち会って)』(邦訳『アチソン回顧録』)で、第2次世界大戦後に米国が取った政策のロジックを披露している。
同書の序文でアチソンは「雄大な構想と大いなる達成、そしていくつかの失敗・・・その英雄とは、トルーマン大統領とマーシャル将軍という類い希なる資質を備えた2人に率いられた米国民である」と述べた。
そして「全国民の前に立ちはだかった課題の重大さ」とは、「世界全体を粉々に吹き飛ばすことなく」、戦後の混沌のなかから「世界の半分、自由な半分を創造すること」だと説明し、「あれほどのことが成し遂げられたのはまさに奇跡だ」と付け加えた。そう、本当にそうだった。
彼らが創造したもののおかげで、そのころ窮地に陥っていた「自由世界」は冷戦に勝利し、欧州最後の大帝国だったソビエト連邦が崩壊し、世界の大部分が平和と繁栄を夢見た。
トランプが自伝を書く時には、そのタイトルを『Present at the Destruction(破壊に立ち会って)』にしてくれることを筆者は願う。
上記の夢が潰えたことの責任がトランプ個人にあるからではない。だが、その夢に最後のとどめを刺しているのがトランプ本人であることは間違いない。
