
「宿泊旅行統計調査」は、観光庁が毎月公表する国内唯一の全国規模の宿泊需要統計である。延べ宿泊者数と客室稼働率の月次推移は、ホテルの予算策定から金融機関の与信判断まで幅広く参照されるが、その数値がどの母集団から、どの回収率で、どの改定サイクルを経て出てきたものかまで踏み込んで読まれることは少ない。本稿では調査要領と用語の解説という一次資料で定義を確認したうえで、直近7か月の第1次速報と第2次速報を突き合わせ、「速報段階の数字をどこまで信じてよいか」を実測値で示す。
Key Takeaways
— 第1次速報の有効回収率は32.9%(2026年7月分)。客室数20室以上が40.1%、20室未満が20.4%と、施設規模で2倍近い開きがある。
— 客室稼働率の改定幅は平均0.6pt、延べ宿泊者数の前年同月比は平均1.8pt・最大2.9pt動く(2025年12月分〜2026年6月分、N=7か月)。
— 業態差は2.6倍。ビジネスホテル0.46ptに対し旅館1.20pt。小規模施設の回答が第2次速報で積み上がるためで、旅館・簡易宿所ほど速報値が動く。
— 年間値でも符号は反転する。2025年の延べ宿泊者数の前年比は、速報値−0.8%から確定値+0.3%へ改定された。
— 当社推定の稼働率は観光庁の客室稼働率より17〜32pt高く出る(2026年6月・6都道府県)。母集団と分母が異なるため、置き換えではなく使い分ける。
本記事における指標の定義
延べ宿泊者数:各月における宿泊者(寝具を使用して施設を利用するもの。子供や乳幼児を含む)の延べ人数(観光庁「用語の解説」より)。
客室稼働率(観光庁):利用客室数を総客室数で除して算出したもの。総客室数とは、客室数に各月の日数を乗じて算出したもの(同上)。
定員稼働率(観光庁):延べ宿泊者を総収容人数で除して算出したもの。総収容人数とは、収容人数に各月の日数を乗じて算出したもの(同上)。
OCC(稼働率・当社推定):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。観光庁の客室稼働率とは母集団・分母の定義が異なるため、水準を直接比較することはできません。
データ出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」報道発表資料、e-Stat、メトロエンジンリサーチ
何を測っている調査か — 全国75,665施設のうち20,829施設が調査対象
宿泊旅行統計調査の目的は、調査要領に「わが国の宿泊旅行の実態を全国規模で把握することを目的とする」と定められている。対象となるのは旅館業法に基づく営業許可を得たホテル・旅館・簡易宿所・会社団体の宿泊所などで、2026年7月時点で全国の宿泊施設は75,665施設と把握されている。ただしその全てに毎月報告を求めているわけではない。
ここが最初の分岐点になる。2026年1月調査分から、観光庁は標本設計の層化基準を「従業者数」から「客室数」へと変更した。2025年12月までは従業者数10人以上の事業所が悉皆調査、5〜9人は3分の1、0〜4人は9分の1の抽出率による標本調査という設計だった。2026年1月以降は、客室数20室以上の事業所が悉皆調査、1〜19室の事業所が都道府県ごとに抽出率を設定した標本調査という設計に切り替わっている。観光庁自身が報道発表資料の冒頭で「対前年(同月)比、対前年(同月)差については、見直しの影響が含まれている可能性がある点に留意」と明記しており、2026年の前年同月比を読む際にはこの断層を織り込む必要がある。この層化基準の変更が前年同月比のどこにどれだけ効くかについては、2026年の稼働率「前年割れ」は本物か──統計の層化基準変更が生む断層の読み方で分解している。
標本設計の変更点 — 2025年12月調査分まで/2026年1月調査分から(出典:観光庁「宿泊旅行統計調査 調査の概要」)
項目2025年12月調査分まで2026年1月調査分から
層化基準従業者数客室数
悉皆調査の範囲従業者数10人以上客室数20室以上
標本調査の範囲5〜9人は1/3、0〜4人は1/9を無作為抽出客室数1〜19室(都道府県ごとに抽出率を設定)
継続比較用の系列従業者数10人以上の施設客室数20室以上の施設
報告の締切毎月の報告を翌月の中旬まで(自計申告・郵送またはオンライン)
公表サイクル第1次速報(翌月末)→ 第2次速報(翌々月末)→ 年間値・確定値(翌年)
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査 調査の概要」よりホテルバンク編集部作成
報告主体は宿泊施設そのものである。ホテルや旅館の担当者が毎月、その月の延べ宿泊者数・外国人延べ宿泊者数・利用客室数などを自ら記入して提出する自計申告方式で、締切は翌月中旬。この「自ら書いて出す」という設計が、後述する速報と確定値の差を生む根本要因になっている。
第1次速報の回収率は32.9% — 小規模施設ほど遅れて届く
2026年7月分の第1次速報は、調査対象20,829施設のうち2026年8月12日までに回収された有効な調査票をもとに推計されている。その有効回収率は32.9%。内訳を見ると客室数20室以上が40.1%、20室未満が20.4%と、規模による差が2倍近くある。
一方、1か月遅れて公表される第2次速報は締切が延びるぶん回収率が上がる。2026年6月分の第2次速報の有効回収率は44.6%で、20室以上が52.1%、20室未満が31.6%だった。同じ6月分の第1次速報時点では36.1%だったので、1か月で8.5ポイント積み上がった計算になる。この上積みが、主として小規模施設から届くという点が重要である。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年7月・第1次速報、2026年6月・第2次速報)」よりホテルバンク編集部作成
つまり第1次速報は、大規模施設に偏った約6,900施設分の回答から全国7万5千施設の実態を推計している。標本設計上は適切に復元されるとしても、小規模施設の回答が薄い段階の推計値と、それが埋まった後の推計値がぴたりと一致するとは考えにくい。次章ではその差を実測する。
3つの主要指標 — 分母は「客室数×その月の日数」
観光庁「用語の解説」は、主要指標を次のように定義している。引用にあたって語順を変えず、条文的な言い回しのまま示す。
延べ宿泊者数
「各月における宿泊者(寝具を使用して施設を利用するもの。子供や乳幼児を含む。)の延べ人数をいう。」
客室稼働率
「利用客室数を総客室数で除して算出したものをいい、総客室数とは、客室数に各月の日数を乗じて算出したものをいう。」
定員稼働率
「延べ宿泊者を総収容人数で除して算出したものをいい、総収容人数とは、収容人数に各月の日数を乗じて算出したものをいう。」
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査 用語の解説(年間報告書より抜粋)」
ここで実務上いちばん誤解されやすいのが客室稼働率の分母である。分母は「客室数×その月の日数」であって、営業日数ではない。休業日があってもその日の客室在庫は分母に算入され続けるため、季節営業の施設や連休だけ稼働させる施設を多く含む地域では、この定義が稼働率を構造的に押し下げる方向に働く。同様に、館内改装で一部フロアを閉じていても、施設が届け出ている客室数がそのまま分母になる。「稼働率が低い=売れていない」とは限らず、「分母に営業していない在庫が入っている」場合があるという点は押さえておきたい。
もうひとつの定員稼働率は、分子が客室ではなく人になる。延べ宿泊者数を「収容人数×日数」で割るため、1室あたりの定員が大きい施設ほど値が低く出る。1室4名収容の和室に2名が泊まれば、客室稼働率は100%だが定員稼働率は50%にしかならない。旅館の定員稼働率が構造的に低く見えるのはこのためで、経営が振るわないことを意味しない。
この関係は数値でも確認できる。定員稼働率と客室稼働率の両方を施設タイプ別に取得できる公的データはe-Statの確定値だが、後述するとおり収録は2016年が最後になっている。それでも1室あたり定員という構造は業態ごとにほぼ変わらないため、比率の傾向を読む材料にはなる。
宿泊施設タイプ別の定員稼働率と客室稼働率 — 2016年・全国・年確定値(N=6業態、出典:e-Stat 第6表・第8表)
宿泊施設タイプ定員稼働率客室稼働率定員÷客室
シティホテル66.8%78.7%0.85
ビジネスホテル62.9%74.4%0.85
リゾートホテル42.2%56.9%0.74
会社・団体の宿泊所18.1%27.1%0.67
旅館24.1%37.1%0.65
簡易宿所14.6%25.0%0.58
出典:e-Stat「宿泊旅行統計調査(年確定値)」第6表・第8表(2016年・全国)よりホテルバンク編集部作成
出典:e-Stat「宿泊旅行統計調査(年確定値)」(2016年・全国)よりホテルバンク編集部作成
シティホテルとビジネスホテルは定員稼働率が客室稼働率の0.85倍まで届くのに対し、旅館は0.65倍、簡易宿所は0.58倍にとどまる。ホテルはシングル・ツインが中心で1室あたり定員が小さく、埋まった客室はほぼ定員どおりに使われる。逆に和室主体の旅館や、多人数収容を前提とする簡易宿所では、埋まった客室でも定員を余らせるのが常態である。異なる業態を横並びで比べるなら客室稼働率を、同一施設の客室構成に対する集客の深さを見るなら定員稼働率を使う、というのが実務上の使い分けになる。客室稼働率そのものの計算式や損益分岐点の逆算まで含めた整理は、客室稼働率とは?計算式と全国平均56.2%にまとめてある。
速報はどれだけ動くか — 客室稼働率で平均0.6pt、前年同月比で平均1.8pt
ここが本稿の中心である。同じ月の同じ指標について、第1次速報として最初に公表された値と、1か月後に第2次速報として改定された値を、2025年12月分から2026年6月分までの7か月分並べた。いずれも観光庁の報道発表資料に印字された数値をそのまま転記している。
第1次速報から第2次速報への改定幅 — 2025年12月分〜2026年6月分(N=7か月、出典:観光庁 各月報道発表資料)
対象月
延べ宿泊者数(万人泊)
前年同月比
客室稼働率
1次2次改定
1次2次改定
1次2次改定
2025年12月5,3425,359+0.3%-4.5%-4.2%+0.3pt59.159.7+0.6pt
2026年1月4,6284,546-1.8%-5.3%-7.0%-1.7pt53.152.7-0.4pt
2026年2月4,6254,765+3.0%-3.5%-0.6%+2.9pt59.059.6+0.6pt
2026年3月5,5465,441-1.9%-0.1%-2.0%-1.9pt60.359.4-0.9pt
2026年4月5,0634,911-3.0%-4.6%-7.2%-2.6pt59.759.1-0.6pt
2026年5月5,3395,429+1.7%-4.8%-3.2%+1.6pt60.661.0+0.4pt
2026年6月4,6784,582-2.1%-6.5%-8.4%-1.9pt56.257.2+1.0pt
平均改定幅(絶対値)—2.0%—1.8pt—0.6pt
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各月報道発表資料(2026年1月30日〜8月31日公表分、N=7か月)よりホテルバンク編集部作成
読み取れることは3つある。第一に、延べ宿泊者数の水準は平均2.0%動く。第二に、前年同月比は平均1.8pt動き、最大では2.9pt動いた。第三に、客室稼働率は平均0.6ptと相対的に安定しており、最大でも1.0ptにとどまる。
実務上のインパクトが大きいのは第二の点である。2026年2月分は第1次速報で前年同月比マイナス3.5%と報じられたが、第2次速報ではマイナス0.6%へ改定された。「3%を超える減少」と「ほぼ横ばい」では受け止め方がまったく違う。逆に2026年3月分は第1次速報でマイナス0.1%、つまり前年並みだったものが、第2次速報ではマイナス2.0%になった。第1次速報の前年同月比を小数第1位まで引用して議論を組み立てるのは、この改定幅の前では意味を持たない。目安として、第1次速報の前年同月比は±2pt程度の幅を持った推定値として扱い、方向感(増えたか減ったか)が改定後も維持されるかどうかを慎重に見るのが妥当である。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各月報道発表資料(N=7か月)よりホテルバンク編集部作成
業態によって改定幅は2.6倍違う
客室稼働率の改定幅を施設タイプ別に分解すると、前章で見た回収率の構造がそのまま現れる。同じ7か月について、施設タイプごとの平均改定幅(絶対値)を計算した。
数値は7か月の平均改定幅(絶対値)。単月では振れ幅がさらに大きく、観測された最大は2026年6月分の簡易宿所で3.1pt。出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各月報道発表資料(2025年12月分〜2026年6月分、N=7か月)よりホテルバンク編集部作成
最も安定しているのはビジネスホテルの0.46ptで、次いでシティホテルの0.57pt。全体の0.64ptを挟んで、リゾートホテル1.10pt、簡易宿所1.14pt、旅館1.20ptと続く。ビジネスホテルと旅館では改定幅が2.6倍違う。
この順序は、施設規模の順序とほぼ一致する。第1次速報時点の有効回収率が客室数20室以上で40.1%、20室未満で20.4%だったことを思い出したい。大型のビジネスホテル・シティホテルは第1次速報の段階でほぼ回答が揃っているため、その後の上積みで数字が大きく動かない。対して小規模施設の比率が高い旅館・簡易宿所は、第1次速報の時点では回答が薄く、第2次速報で回答が積み上がるにつれて推計値が動く。2026年6月分では簡易宿所が23.0%から26.1%へ3.1pt上方改定されており、これが7か月で最大の改定幅だった。
この非対称性は、旅館やリゾート施設の関係者が第1次速報を見るときにとくに重要になる。自館の属する業態の速報値は、都市型ホテルの速報値よりも構造的に不安定である。旅館の稼働を第1次速報で語ると、翌月には平均1.2pt動いた数字を前提に議論をやり直すことになりかねない。
年間値でも符号は反転する
改定は第2次速報で終わりではない。翌年に公表される年間値でも、速報値から確定値へもう一段の改定が入る。2025年の年間値は2026年2月27日に速報値として、2026年7月6日に確定値として公表された。
2025年 年間値の速報値から確定値への改定 — 全国(出典:観光庁 2026年7月6日公表)
2025年 年間値速報値確定値改定
延べ宿泊者数65,348万人泊66,111万人泊+1.2%
同・前年比-0.8%+0.3%+1.1pt(符号反転)
外国人延べ宿泊者数17,787万人泊17,992万人泊+1.2%
客室稼働率(全体)61.8%61.6%-0.2pt
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」(2026年7月6日公表)よりホテルバンク編集部作成
年間値の延べ宿泊者数は速報から確定へ763万人泊、率にして1.2%上方改定された。その結果、前年比はマイナス0.8%からプラス0.3%へ符号が反転している。「2025年は前年割れだった」という速報段階の理解は、確定値では「わずかながら前年を上回った」に変わった。一方で客室稼働率の改定はマイナス0.2ptにとどまり、ここでも稼働率のほうが安定している。人数系の指標は改定に弱く、比率系の指標は改定に強い、という傾向は月次でも年次でも一貫している。この2025年年間値の速報から確定への振れを業態別に分解したものは観光庁2025年確定値61.6% — 速報61.8%からの修正幅を業態別に対比でも扱っている。
最新値の読み方 — 2026年7月の60.8%を季節性から切り離す
2026年8月31日公表の最新資料によれば、2026年7月の客室稼働率は全体で60.8%(第1次速報)、2026年6月は57.2%(第2次速報)である。ここで前月比を取って「6月から7月にかけて3.6pt改善した」と読むのは誤りに近い。宿泊需要には強い季節性があり、7月が6月より高いのは毎年繰り返される構造だからだ。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」宿泊施設タイプ別客室稼働率推移表よりホテルバンク編集部作成。2023〜2025年は確定値、2026年1〜6月は第2次速報値、2026年7月は第1次速報値。
月別に重ねると、6月が年間の谷、8月と10〜11月が山という波形が毎年ほぼ同じ形で現れる。2026年6月の57.2%は「急落」ではなく、例年どおり6月が谷であることの反映である。したがって読むべきは前月比ではなく前年同月差で、2026年6月は前年同月比マイナス1.6pt、2026年7月はマイナス0.4ptとなる。
ここでもう一度、改定の効果を確認しておきたい。2026年6月分は第1次速報の時点では56.2%・前年同月差マイナス2.6ptだった。第2次速報では57.2%・マイナス1.6ptへ改定され、前年からの落ち込みは1.0pt分小さくなった。速報公表直後に「2.6ptの大幅低下」と読んだ人と、1か月後に「1.6ptの低下」と読んだ人では、同じ月について異なる景色を見ていることになる。
施設タイプ別 客室稼働率 — 2026年7月・第1次速報/2026年6月・第2次速報(N=6業態、出典:観光庁 2026年8月31日公表)
施設タイプ2026年7月
(第1次速報)前年同月差2026年6月
(第2次速報)前年同月差
全体60.8%-0.4pt57.2%-1.6pt
ビジネスホテル74.2%-0.5pt71.5%-1.3pt
シティホテル71.9%+0.3pt69.2%-3.3pt
リゾートホテル59.6%+2.7pt50.8%+0.2pt
旅館40.6%+3.4pt36.7%+1.7pt
簡易宿所30.9%-1.9pt26.1%-2.1pt
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年7月・第1次速報、2026年6月・第2次速報)」よりホテルバンク編集部作成
業態別に見ると、2026年7月は旅館がプラス3.4pt、リゾートホテルがプラス2.7ptと国内レジャー系が前年を上回った一方、都市型は横ばい圏にある。ただし前章で示したとおり、旅館とリゾートホテルの第1次速報値は平均1.1〜1.2ptの改定幅を伴う業態である。この「プラス3.4pt」という数字は、2026年9月30日公表予定の第2次速報で数値が動く前提で読むべきだろう。
都道府県別に見られるのは第2次速報のみで、直近では2026年6月分が公表されている。全体の稼働率が最も高いのは東京都の75.4%、次いで福岡県70.3%、大阪府65.3%、神奈川県64.4%、北海道63.4%と続く。最も低いのは長野県の34.7%で、以下山梨県37.1%、和歌山県39.3%の順である。ただしこの下位グループは旅館やペンションなど1室あたり定員の大きい施設、季節営業の施設の比率が高い地域であり、「稼働率が低い=需要が弱い」と短絡できない点は前章の定義に立ち返って確認しておきたい。
公式統計と自社データの併用 — 置き換えではなく使い分け
観光庁の客室稼働率は月次で、しかも第2次速報が出るまでに約2か月かかる。8月の実績が固まるのは10月末である。一方でOTA上の販売在庫の消化状況から推定する稼働率は、日次で、しかも将来の宿泊日について取得できる。この時間軸の違いから、「公式統計の代わりに自社推定を使えばよい」と考えたくなるが、それは成り立たない。両者は同じ名前で呼ばれていても別の量を測っているためである。
2026年6月について、観光庁の第2次速報値とメトロエンジンリサーチの推定稼働率を同じ都道府県・同じ月で並べた。
観光庁 客室稼働率と当社推定稼働率の比較 — 2026年6月・6都道府県(N=6,095施設、出典:観光庁 第2次速報/メトロエンジンリサーチ)
都道府県観光庁
客室稼働率当社推定
稼働率差当社集計
対象施設数
東京都75.4%92.8%+17.4pt1,336
大阪府65.3%83.9%+18.6pt695
神奈川県64.4%84.2%+19.8pt645
北海道63.4%89.3%+25.9pt1,316
京都府61.7%85.8%+24.1pt967
沖縄県55.1%87.3%+32.2pt1,136
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年6月・第2次速報)」/メトロエンジンリサーチ(2026年6月、OTA販売在庫に基づく推定値)よりホテルバンク編集部作成
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年6月・第2次速報)」/メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成
水準が17〜32pt離れるだけでなく、都道府県の順位も一致しない。観光庁ベースでは沖縄県がこの6道府県で最下位だが、当社推定では東京都・北海道に次ぐ第3位に位置する。両者は代替関係にないという事実が、この順位のずれに端的に表れている。差が生まれる理由は3つに整理できる。
観光庁 客室稼働率と当社推定稼働率が乖離する3要因 — 母集団・分母・営業日の扱い
要因観光庁 客室稼働率当社推定 稼働率
母集団旅館業法の許可を得た全宿泊施設(75,665施設)を母集団とし、稼働率の低い小規模旅館・簡易宿所を含むOTA上で稼働が確認できる施設のみ。OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まれない
分母届け出られた客室数×その月の日数(全在庫)OTAに掲載された販売在庫がベース。直販・団体・法人契約枠など掲載外の客室は分母に入らないため、値は構造的に高く出る
営業日休業日も分母に算入されるため、季節営業の施設が多い地域では押し下げられる販売されていない日は観測対象に入らない
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査 用語の解説」/メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成
沖縄県の差が最も大きいのは、この3要因が重なるためと考えられる。県内には小規模な民宿・簡易宿所が多く、そのすべてが観光庁の母集団に入る一方、当社が把握できるのはOTA上で販売されている1,136施設に限られる。
したがって実務では、水準を語るとき・前年と比べるとき・対外的に根拠として示すときは観光庁の公表値を使い、来月以降の宿泊日について需給を読むとき・曜日別やイベント日単位で在庫消化を追うときは自社データを使う、という切り分けになる。両者を並べるときは「水準を突き合わせる」のではなく「方向感が一致しているか」を見るのが正しい使い方である。
よくある質問(FAQ)
Q1. 宿泊旅行統計調査の客室稼働率はどこで見られますか?
観光庁ウェブサイトの「観光統計・白書」内にある宿泊旅行統計調査のページ、および毎月末に出る報道発表資料で確認できます。報道発表資料のPDFには全国値・施設タイプ別・都道府県別の客室稼働率に加え、巻末に「延べ宿泊者数・客室稼働率推移表」が付いており、2007年以降の年別と2023年以降の月別が一覧できます。都道府県別の月次時系列が必要な場合は、同ページから「推移表」のExcelファイルをダウンロードするのが早道です。
Q2. e-Statで最新月のデータが取れないのはなぜですか?
e-Stat(政府統計の総合窓口)に収録されている宿泊旅行統計調査のデータベースは、更新が止まっているためです。2026年9月時点でAPI経由で取得できる表は32件ありますが、そのすべてが調査期間2016年1月〜12月、更新日2019年3月16日で止まっています。したがってe-Statは2016年までの確定値を細かい区分(従業者数別、宿泊目的割合別、定員稼働率など)で参照するときに使い、最新月の数値は必ず観光庁の報道発表資料から取得してください。本記事で定員稼働率のデータが2016年の確定値になっているのも同じ理由によります。
Q3. 都道府県別や市区町村別のデータはありますか?
都道府県別(47区分)は毎月の第2次速報で公表されます。延べ宿泊者数・日本人延べ宿泊者数・外国人延べ宿泊者数・施設タイプ別客室稼働率のいずれも都道府県別に取得できます。ただし第1次速報の段階では全国値と施設タイプ別のみで、都道府県別の内訳は出ません。市区町村単位での公表はなく、より細かい地理区分としては「広域市町村(130区分)別集計」が別途提供されています。単一市区町村の稼働を月次で追いたい場合、この統計では代替できないため、自治体独自の観光統計や宿泊税の課税実績など別のソースを併用することになります。
Q4. 定員稼働率と客室稼働率のどちらを使うべきですか?
異なる業態や異なる地域を横並びで比較する目的なら客室稼働率です。定員稼働率は1室あたり定員の大小に強く影響されるため、和室主体の旅館と、シングル中心のビジネスホテルを同じ物差しで比べると旅館が構造的に不利に見えます。2016年確定値では、定員稼働率が客室稼働率に対して占める割合はシティホテル・ビジネスホテルで0.85、旅館で0.65、簡易宿所で0.58でした。一方、同一施設について「客室は埋まっているが定員を余らせていないか」を見たい場合、つまり2名定員の部屋を1名利用で売っていないかを検証したい場合は定員稼働率が適します。
Q5. 第1次速報と第2次速報のどちらを引用すべきですか?
数値を根拠として意思決定や対外説明に使うなら第2次速報以降です。本記事で示したとおり、2025年12月分〜2026年6月分の7か月では、延べ宿泊者数の前年同月比が第1次速報から第2次速報へ平均1.8pt、最大2.9pt改定されました。客室稼働率の改定幅は平均0.6ptと相対的に小さいため、速報段階で稼働率の方向感を掴む用途であれば第1次速報でも実用に耐えます。ただし旅館・簡易宿所は平均1.1〜1.2ptと改定幅が大きいので、この2業態については第2次速報を待つことをお勧めします。引用する際は必ず「第1次速報」「第2次速報」「確定値」のいずれかを明記してください。
Q6. 2026年から前年同月比が読みにくいと聞きましたが、なぜですか?
2026年1月調査分から、標本設計の層化基準が「従業者数」から「客室数」へ変更されたためです。2025年12月までは従業者数10人以上が悉皆調査でしたが、2026年1月以降は客室数20室以上が悉皆調査になりました。観光庁は報道発表資料の冒頭で「対前年(同月)比、対前年(同月)差については、見直しの影響が含まれている可能性がある点に留意」と注記しています。時系列の連続性を重視する場合は、報道発表資料や推移表に併載されている「客室数20室以上の施設」に限定した系列を使うのがひとつの方法です。
Q7. 延べ宿泊者数と実宿泊者数はどう違いますか?
延べ宿泊者数は「各月における宿泊者の延べ人数」で、2名が2泊すれば4人泊と数えます。実宿泊者数は「各月における宿泊手続をした人数」で、同じケースは2人と数えます。したがって延べ宿泊者数を実宿泊者数で割ると平均泊数が得られます。報道発表資料で毎月大きく扱われるのは延べ宿泊者数のほうで、客室稼働率と組み合わせて需要の総量を見る指標として使われます。なお延べ宿泊者数には子供や乳幼児も含まれ、寝具を使用して施設を利用する人が対象です。
まとめ
宿泊旅行統計調査は、全国75,665施設を母集団とし、そのうち20,829施設を調査対象として毎月推計される統計である。第1次速報は有効回収率32.9%の段階で公表され、1か月後の第2次速報では44.6%まで積み上がる。この上積みが主に小規模施設から届くため、改定幅は業態によって大きく異なり、ビジネスホテルの0.46ptに対し旅館は1.20ptと2.6倍の開きがある。
指標としては、客室稼働率が改定に強く、延べ宿泊者数とその前年同月比が改定に弱い。第1次速報の前年同月比は平均1.8pt、最大2.9pt動き、年間値ですら速報から確定へ符号が反転した実績がある。速報段階の数字を小数第1位まで前提にした議論は成立しないと考えたほうがよい。
そして客室稼働率は「利用客室数÷(客室数×その月の日数)」という定義に忠実に読む必要がある。営業日ではなく暦日が分母であること、休業中の客室も分母に残ることを踏まえれば、地方部の低い稼働率が需要の弱さだけを意味するものではないと分かる。OTA在庫の消化から推定する稼働率は日次かつ将来日程まで見通せるという長所を持つが、母集団も分母も違う以上、公式統計の代わりにはならない。水準を語るときは観光庁、先を読むときは自社データ、という使い分けが基本になる。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
観光庁「宿泊旅行統計調査」の各月報道発表資料(2026年1月30日〜8月31日公表分、計7回)、同「調査の概要」および「用語の解説(年間報告書より抜粋)」、e-Statに収録された年確定値(第6表・第8表、2016年・全国)、ならびにメトロエンジンリサーチのOTA販売在庫データ(2026年6月、6都道府県・計6,095施設)。
■ 試算前提
改定幅は、同一の対象月について第1次速報値と第2次速報値の差を取り、7か月分の絶対値平均として算出した。施設タイプ別の改定幅も同一の7か月・同一の算出方法による。当社推定の稼働率は、OTAに掲載された販売在庫の消化状況から月内の日次値を求め、月平均に集約している。前年同月差・前年同月比は観光庁の公表値をそのまま用い、当社側では再計算していない。
■ 限界・留意点
(1) 2026年1月調査分から標本設計の層化基準が従業者数から客室数へ変更されており、2026年の前年同月比・前年同月差には見直しの影響が含まれる可能性がある(観光庁注記)。(2) 定員稼働率を業態別に取得できる公的データはe-Statの収録が2016年で止まっているため、定員÷客室の比率は2016年確定値を用いている。(3) 当社推定の稼働率は観光庁の客室稼働率と母集団・分母が異なり、水準を直接比較することはできない。(4) 2026年7月分は第1次速報値であり、2026年9月30日公表予定の第2次速報で改定される。
■ 一次資料(観光庁)
■ 政府統計データベース
e-Stat「宿泊旅行統計調査(年確定値)」第6表 宿泊施設タイプ別定員稼働率(統計表ID: 0003313681)
e-Stat「宿泊旅行統計調査(年確定値)」第8表 宿泊施設タイプ別客室稼働率(統計表ID: 0003313904)
■ 市場データ
メトロエンジンリサーチ — OTA販売在庫に基づく推定稼働率(2026年6月、6都道府県・計6,095施設)
