自動生成やパーマデス(一度死ぬとすべてを失う)など、さまざまな要素が絡み合い、何度遊んでも楽しむことのできるゲームジャンル「ローグライク/ローグライト」。今回の「げむすぱローグライク/ローグライト部」第55回では、スクウェア・エニックスが開発・販売を手がける伝統的ローグライク『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン ちょっとステキなリマスター』をご紹介します。
『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』とは
『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン ちょっとステキなリマスター』は、1993年にチュンソフトよりSFCで発売された『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』のリマスター作品となります。オリジナル版はコンソール機で遊べる本格的な伝統的ローグライクゲームとして話題を呼びました。厳密には『トルネコ』以前にもコンソール向けローグライクゲームとしては1991年のMD向け「ゲーム図書館」配信ソフトの『死の迷宮』、1992年のGB向け『カーブノア』などがありますが、コンソール機向けに大々的に成功を収めた伝統的ローグライクとしては本作が初です。

何故本作のオリジナル版が成功を収められたのか、それにはいくつかの理由があります。まずは『ドラゴンクエスト』という、当時からすでに圧倒的な認知度を獲得していたゲームのブランドを使用できたことです。ゲーム内には「薬草」「銅の剣」「イオの巻物」「ボミオスの杖」など、『ドラクエ』シリーズをプレイ済みならばすぐに効果をイメージできるであろうアイテムが多数登場します。
モンスターについても普段は動かないが、低レベルで手を出すと一方的に殴り倒される可能性のある「まどうし」(Ice Monster)、アイテムに擬態する「ミミック」(Xeroc)、そして正面からはまず太刀打ち不能、文句なしに最強の「ドラゴン」(Dragon)など、うまく『Rogue』のモンスターを『ドラクエ』のモンスターに換骨奪胎できており、慣れ親しんだ『ドラクエ』の世界観でゲームを遊べることは大きかったと言えます。

ちなみに『トルネコ』の「爆弾岩」など、一部『Rogue』に該当するモンスターがいないものもいますが、爆弾岩については『NetHack』に登場する「Gas spore」の影響があると思われます。

もう1つコンソール機でローグライクゲームとして成功できた理由が、「コンソール機に最適化した操作体系と快適な操作性」です。元々の『Rogue』、およびその派生作は移動だけで8方向のキーと対応した方向、食料を食べるなら”e”、巻物を読むなら”r”、杖を振るなら”z”……のように複雑怪奇なキー入力を覚える必要がありましたが、これらの操作体系を『トルネコ』を開発したチュンソフトは見事にゲームパッドに最適化した操作に落とし込みました。本作で確立された「Lボタンで遠距離攻撃、Rボタンと方向キーの組み合わせで斜め移動」といった操作体系は、事実上の国産ローグライクのデファクトスタンダードとなっています。
また、チュンソフトが『トルネコ』を開発するにあたり、「徹底的に手触り感を高めた」ことも同作の遊びやすさに繋がっています。2016年に電ファミニコゲーマーが公開した「ゲームの企画書 第3回」の記事では、いかに『Rogue』を日本のゲーマー向けに『トルネコ』として翻訳したかについて語られています。
そのような配慮・洗練がなされて生み出された『トルネコの大冒険』が、33年ぶりにリマスター作品となったのです。
たった一点で「ちょっとステキ」が「ちょっと不出来なリマスター」!?文言以上に重要な「テンポ・操作性」
さて、今回のリマスターの話に入ります。今回のリマスターには「ちょっとステキなリマスター」という副題がつけられており、原作からさまざまな改善が入っています。例えば未識別の杖を使用すると、その杖の今までの使用回数が名前の後につくという機能が加わっています。

『不思議のダンジョン2 風来のシレン』で導入された「足元のアイテムを使用・所持品と交換」機能が本作に追加されたのも嬉しいところです。これにより不要なアイテムを一旦床に置いて、拾えなかったアイテムを改めて拾う……という手間なく、床落ちのアイテムをそのまま使ったり、不要なアイテムと交換したりできるようになりました。この機能は実質アイテムインベントリが1つ増えたようなもので、アイテムインベントリ制限が厳しい本作においては非常に有用な機能追加といえるでしょう。

また、本作では敵の出現率やアイテム出現数を変更してまったく別印象のダンジョンに挑むこともできます。本作はチュートリアル用の「ちょっと不思議のダンジョン」、ゲームのメインとなる「不思議のダンジョン」、クリア後コンテンツとなる「もっと不思議のダンジョン」の3つのダンジョンから構成されていますが、このオプションの組み合わせにより独自のダンジョンを作って潜ることもできるのです。
……とまあ、ここまで書くと改善点が多いリマスターに見えるかもしれません。しかしながら、9月13日9時30分の時点では、本作のSteam評価はユーザーレビュー115件中高評価率46%、「賛否両論」です。

そうなってしまった最大の理由が、「斜め移動に関する操作性の悪さ」です。本作のオリジナル版ではいかなる操作タイミングでもRボタンを押せば斜め移動固定が自由に行えましたが、本リマスター版では「画面上にウインドウが表示されているタイミングでは斜め移動固定ができない」のです。おかげで本作で確実に斜め移動を行うためには、ウインドウが消えるまでの約2秒間待つ必要があります。この仕様が地味にストレスとして効いてきます。

また、レベルアップ時に約7秒間の操作不能時間が生じる、敵を連続で攻撃していると画面上のアニメーションとメッセージの展開速度にズレが生じる、ダッシュによる移動速度が遅い、「しあわせの箱」入手時の待機時間(これ自体はオリジナル版にもあった)がやたら長い……など、とにかくオリジナル版から操作性・テンポが劣化している印象を受けてしまいます。
先述の電ファミニコゲーマーの記事において『不思議のダンジョン』シリーズ開発の中核を手がけた中村光一氏・長畑成一郎氏はオリジナル版の操作性やレスポンスについて、(ゲームの面白さの核を生むような)非常に重要な項目として調整を行ったことを明かしています。一方で、本リマスターでは、そのこだわりぬいて作られた操作感が損なわれた結果、単体の作品としてフラットな視点で見た場合であってもゲームの楽しさを大きく落としてしまっている印象があるのが、筆者はとても惜しく感じました。

また同インタビューでチュンソフト開発の『不思議のダンジョン』シリーズではミニマップが主人公に極力被らないように配慮されているということが明かされているのですが、本作のデフォルト設定ではミニマップがトルネコに被ってしまいます。
せってい→ゲーム設定→ミニマップ表示位置を「中央」に変更することでオリジナル同様、ミニマップがトルネコに極力被らないようにはできますが、何故こちらをデフォルトとして採用しなかったかには疑念が残ります。


遊んでいてすぐに気付く、変な部分はほかにもあります。本リマスターでは、最初の王様から城の兵士、トルネコの店を訪れるさまざまなモブまで、特に会話類のメッセージの区切り方、あるいは禁則処理が適切でなく、読みやすさへの配慮というものが全くないのです。これはモブに至るまで、細かいテキストの妙を特徴としてきた『ドラクエ』シリーズとしてあるまじき出来なのでは……と筆者は思います。

筆者は当初、本リマスターはオリジナル版の仕様書やソースなどが一切参照できない環境下で、外部スタジオの少人数スタッフの目コピーだけで作られた短納期の小規模タイトルであったのか、とも思ったのですが、本作のエンディングまでたどり着き、スタッフロールでスクウェア・エニックスのクリエイティブスタジオ5のスタッフを中心として数十人規模で制作されたゲームだということを確認しています。
本リマスターに対し、全てがオリジナルと寸分たがわぬ挙動・表示であることを求めているわけでは決してないのですが(むしろ、オリジナルよりさらにテンポ・操作性が上がるならば望むところ)、理由はどうあれ結果として、内製の決して小規模とは言えない程度のタイトルのQAにおいてゲームの核になる操作部分の手触りを大きく軽視してしまったように見えてしまったのにはただただ残念でした。

9月13日現在、発売当初は問題なく閲覧できた本作の公式サイトが非公開となっている(ドラゴンクエスト公式サイトにリダイレクトされる)ことも筆者の不信感に輪をかけています。

いずれにしても、総評するならば9月13日時点では、文字表記上だけでは一見すれば些細な部分に見えかねない操作性やテンポの特定の処理の変更が、実際には「一通りゲームが遊べるからいいじゃないか」で飲み込めない程度の致命的な瑕疵を招いてしまっている非常にもったいない状態です。
一方で、それ以外のゲーム内容自体はオリジナル版から順当な改善点が見られ、筆者も本リマスター上で「もっと不思議」を何度も遊べる程度には充分にのめり込めるものです。
それだけに現状は「ちょっとステキな」どころか「ちょっと不出来なリマスター」と言われても仕方がない本作ですが、筆者はただただ早めの改善が行われることを期待しています。
『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン ちょっとステキなリマスター』は、『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン ちょっとステキなリマスター』は、PC(Steam/Google Play PC)/PS5/XBOX Series X|S/ニンテンドースイッチ/ニンテンドースイッチ2/iOS/Android向けに3,520円(iOS/Android向けは3,500円)で発売中です。
