スズキ初の軽乗用EV「e SKY(イースカイ)」は、試作車で航続距離310kmを実現する。スズキ公式サイト
「利益なき競争は何のためにするのか」
2025年10月、ジャパンモビリティショーで中国勢との競争について問われたスズキの鈴木俊宏社長は、軽EVの価格競争から距離を置く考えを示した。会場では、中国の電動車メーカーBYDが、日本の軽自動車規格に合わせた電気自動車(EV)「ラッコ」を披露していた。
2026年夏にはラッコが発売され、スズキも8月24日、初の軽乗用EV「e SKY(イースカイ)」を先行公開した。26年秋の正式発表を予定する。
日本には安くて使いやすい軽自動車があり、燃費のいいハイブリッド車もある。EVは諸外国ほど普及しないという見方を支えてきたのは、こうした既存車の強さだった。その軽を得意とするスズキが、価格競争を警戒しながらEVを投入する。どこに勝算を見出しているのか。
BYDから電池を買い、BYDと競うスズキ
話題を呼んだBYDの軽スーパーハイトワゴンEV「RACCO(ラッコ)」BYD公式メディアサイト
あくまで憶測だが、鈴木社長の発言には、得意な軽自動車市場の値付けを中国勢に揺さぶられる焦りがにじんでいたのではないか。軽自動車は購入予算が限られる市場だ。競合に合わせて値下げを続ければ、台数を守れても利益が薄くなる。
同時にスズキは、その競合から電池を買う立場にもある。スズキの電動SUV「eビターラ」では、BYD傘下のフィンドリームス・バッテリーから電池パックを調達している。中国勢の技術と生産力を、自社の電動化にも取り込んでいるわけだ。
BYDは電池から完成車まで手掛けるのに対して、スズキは外部の電池を使って開発・生産の負担を抑える。後者の競争力は、仕入れた電池をどんな車に仕立て、誰に売るかにかかっている。電池の内製規模で競えなくても、軽自動車としての設計や売り方には、自社で差をつける余地がある。
e SKYは、背の高い車体と電動スライドドアを備えるラッコに対し、一段低い車体と通常の開閉式ドアを選んだ。重量やコストを抑える選択だ。小型で効率のよい駆動装置と、小さく軽い電池を組み合わせるスズキの方針にも沿う。必要な移動を少ない電池で賄えれば、手頃な価格と収益を両立しやすくなる。

BYD「ラッコ」が突いた軽EV最大の空白。日本メーカーが失ったもの | Business Insider Japan
EVへの乗り換え顧客を離さない
販売面で、その狙いがよく表れた発言がある。
ニッポン放送の取材に対し、スズキの営業企画部の課長は、自社のガソリン車との販売の食い合いを容認し、「他社に行かないように丁寧に販売する」と説明した。既存のスズキ車ユーザーに声をかける方針だという。
EVへの買い替えでガソリン車の販売が一台減っても、スズキから買い続けてもらえれば関係は残る。EVを求める顧客に商品を用意できなければ、次の購入も点検の相談も他社へ移る。e SKYは、その流出を防ぐための車でもある。
ここで効いてくるのが、スズキの強みである町のモータースや自動車整備工場を通じた販売網だ。スズキは中期経営計画でも、地方の顧客基盤と販売・整備網を強みとして挙げている。日頃から車検や修理を任せている店は、顧客が何年乗り、どれだけの距離を走り、どの程度の予算で買い替えるかを把握しやすい。
新しいブランドなら、まず来店してもらうところから始まる。スズキには次の車を相談しに来る顧客がいる。その会話の中に、EVを加えられる意義は大きい。自宅の駐車環境まで聞き取り、充電工事を含む見積もりを示せれば、購入後の生活を具体的に考えてもらえる。
ただし、店側にも準備が要る。充電設備の導入先を案内し、電池の寿命への質問に答え、専門的な修理は対応拠点につなぐ。こうした窓口を各地の店に根付かせられるかが、販売網の広さをEVの受注につなげるうえでの課題になる。
