筆者は9年前、Appleが初めて999ドルの「iPhone」を発売した際に取材をした。当時としては最も高価なiPhoneだっただけでなく、心理的な壁を打ち破り、今に続く道を切り開いた製品でもあった。今では、「iPhone 18 Pro」の開始価格は1199ドルであり、折り畳み式の「iPhone Duo」の最高価格は3199ドルと驚くべき金額になっている。
本記事の末尾にある2017年の画像は、Appleが製品発表イベントを通じて人々に伝えたい要素を今もなお象徴している。製品名と洗練されたビジュアル、そして価格である。GHzやGBのことは気にしなくていい。中身の性能は、その役割を十分に果たせると信頼してほしいというわけだ。
そして2026年になった今も、この販売戦略はAppleにとって有効であり続けている。

「1999ドルから」の「から」が重要だ(Apple)
性能の記載なし? いや、少しはある
筆者はこの業界を長く取材しているため、大手テクノロジー企業が技術仕様書に躍起だった時代を覚えている。1990年代のCompaqやDell、Packard BellといったPCメーカーは、机の広大なスペースを占領するベージュ色の箱に、どれだけ多くのGHzやGBを詰め込めるかを競っていた。
しかし、メガの時代からギガの時代へと移る中、苦境に立たされていたある企業が起死回生の一手となる戦略を打ち出した。
その企業とはAppleである。
1990年代、企業や消費者が「Windows」 PCの方が優れており、安価で汎用(はんよう)性も高いと考えるようになったことで、Appleの売り上げは低迷した。Appleはこれに対し、広告キャンペーン「Think different」を開始した。そこから「iMac」「iPod」、そして最終的にはiPhoneを生み出す時代が幕を開けた。これらの製品によって、AppleはFortune 500での順位を上げ、それ以降上位を維持している。
Appleが「異なる考え方」を実践するために選んだ方法の1つが、技術的な性能の優先順位を下げることだった。より正確に言えば、性能を選別するようになった。他社と比べて優位に立てない性能については優先順位を下げ、その代わりに特定の主要な数値や、Apple製品が所有者の生活をどう変えるのかに焦点を当てたのだ。

Appleは単に性能を羅列するのではなく、物語を伝える。その製品がどのように使われて、何ができ、人々の生活をどう変えるのかを物語るのである。
iPhone Duoの製品紹介ページを見れば、故Steve Jobs氏の「現実歪曲(わいきょく)空間」を思わせる現象がまさに目の前で起きているのが分かる。ページを下にスクロールしていくと、最初に目に飛び込んでくる性能はメモリーの容量でもCPUの処理速度でもない。画面の明るさである3000ニトという数値だ。

3000は素晴らしい数字だ(Apple)
多くの人が画面の明るさについて詳しく知らない。「ニト」が何なのかも、3000ニトがどれほど明るいのかも分からないだろう。だが、それは重要ではない。3000という数字は大きく、この分野ではAppleが他社をリードしているからだ。
そして、この数字の周囲には、「Super Retina」「極薄」「優れた表示」といった最上級の表現が並ぶ。
これらは、購入を検討している人に対し、正しい選択をしようとしているのだという安心感を与える言葉なのである。
Appleは、バッテリーについても同じように詳しく説明し、容量などの魅力的な情報を提供しているのだろうか。残念ながら、そうではない。その代わりAppleは、省スペース設計について語り、1日以上動画を視聴できるというイメージを示して、消費者を引き付ける。

44時間、動画を視聴したいと考えたことはあるだろうか。今ではそれも可能だ(Apple)
チップセットの処理速度については、さらに曖昧で実体のないものになる。「20%速い」などといった表現は出てくるものの、具体的な中身は示されない。

あくまでおおよその比較であり具体的なものではない(Apple)
Appleは、Duoのメモリーが12GBであると伝えているだろうか。いや、していない。そんな情報はありきたりだからである。12GBのメモリーを搭載するミドルレンジの「Android」端末など、いくらでも見つかる。
Appleはカメラの性能を延々と並べる代わりに、iPhoneで映画を撮影している人々の短い動画を見せる。メモリー容量やCPUの処理速度について語る代わりに、ハイエンドゲームが軽快に動作する様子を実演する。
そして今、性能表を前面に押し出さないという姿勢が、大きな成果につながり始めている。
