Microsoft Surface製品担当執行役員(CVP)のアンドリュー・ヒル氏
Microsoftは10月7日に、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市内の会場で「Microsoft Windows & Surface Event」と題したイベントを行ない、エージェント型AIに関するWindowsの新戦略とそれに対応した新しいデバイス「Surface Laptop Ultra」を発表した。
その模様はすでに別記事でお伝えした通りだ。新しいSurface Laptop Ultraは、NVIDIAの新しいWindows向けSoC(System on a Chip)となる「RTX Spark N1X」を搭載し、メモリは最大128GBで、ストレージは最大2TB、ディスプレイは15型PixelSense Ultra(3,270×2,180ドット/120Hz)を採用しており、重量は約2kgとなる。
そうしたSurface Laptop Ultraを統括するMicrosoft Surface製品担当執行役員(CVP)のアンドリュー・ヒル氏に、同製品の位置付けや狙いなどについて伺ってきた。
2,599ドルからの価格設定は詳細な市場分析の結果
Blenderを利用するクリエイターのデモ
MicrosoftがSurface Laptop Ultraをエージェント型AIのローカル実行に最適な環境であり、開発者やクリエイター向けの製品であるとアピールする背景には、そうした市場がAppleとの競争が激しい、より厳しい言い方をするのであればAppleが強い市場だからということができるだろう。
Appleは、自社設計のCPU、GPU、NPUを利用したApple siliconというSoCを、同社のMacBookシリーズやMac miniなどに採用しており、それらが開発者やクリエイターなどに支持されている現状がある。これまでSurfaceシリーズは、メインストリーム向けの「Surface Laptop 13.8インチ」や、バリュー向けの「Surface Laptop 13インチ」などをラインナップしていて、Appleの「MacBook Air」などには競合製品を用意できていた。しかし、上位機種である「MacBook Pro」、中でもMaxといった上位のSoCを搭載したMacBook Proに対抗する製品がなかった。
正確に言うと、かつてはあった。Surface BookやSurface Laptop Studioなどが相当し、IntelのCPUとNVIDIAのディスクリートGPUを搭載していて、開発者やクリエイターのニーズを満たしていた。しかし、ここ数年はそうした製品がリリースされてこなかったというのがSurfaceシリーズの歴史になる。
RTX Sparkは、MediaTekが開発するCPUダイと、NVIDIAが開発するGPUダイがパッケージ上で1つになって提供されている
そうした中でNVIDIAがリリースしたSoCが「RTX Spark」であり、それを採用したSurface Laptop Ultraが今回リリースされたというのが時間軸になるだろう。RTX Sparkは、MediaTekが設計した最大20コアのArm CPUのダイと、NVIDIA GPUのダイを1つのパッケージ上で統合した2Dのチップレット構造になっている。Apple MシリーズのMaxなども複数のダイをパッケージ上で統合しているという意味では、RTX Sparkの構造に近く、RTX SparkがApple MシリーズのMaxやUltraに競合するような製品といっていい。Microsoftとしても、NVIDIA RTX Sparkの登場を待っていた、そういうことだろう。
ヒル氏は米国で2,599ドル(日本では51万3,480円)からという価格について「市場での各種製品の価格をかなり詳しく調べ、このデバイスの機能に対する競争力のある価格にしたいと考えてこの値段を付けた」と述べた。具体的な競合相手がどこかは言及しなかったが、競合の価格に関しても念入りに調べて、競争力のある価格設定にしたのだと説明した。
米国での価格は2,599ドルから
ヒル氏は言及しなかったが、その競合相手はやはりMacBook Proシリーズである可能性が高いだろう。実際にMicrosoftは米国で、MacBook Proのユーザーを意識したキャンペーンを実施している。
具体的には、MacBookのユーザーがSurface Laptop Ultraに乗り換えるときに、下取りにMacBookを出すと最大1,000ドルをキャッシュバックするというものだ。こうしたキャンペーンを行なっていることからも、MicrosoftがSurface Laptop Ultraの競合製品としてMacBook Proを意識していることは明らかだろう。
Surface Laptop Ultraはワンランク上のCopilot+ PC
発表会では企業向けノートPCの40%がCopilot+ PCになっていると説明された後で、ビルダー向けのPCとしてSurface Laptop Ultraが紹介された
ちなみに、このSurface Laptop UltraはCopilot+ PCであるのかと質問してみた。するとヒル氏は「Copilot+ PCは、バッテリ駆動時間、AI性能、ストレージ、メモリなど、ローカルAIのワークフローを活用するための一連の機能を備えたカテゴリだ。これに対してSurface Laptop Ultraは、その一段上のカテゴリで、より大規模なローカルモデルを実行できるビルダー(筆者注: 開発者、クリエイターの意味)向けの製品だ」と述べ、具体的なブランド名こそ用意されていないが、Copilot+ PCよりも一段上の製品カテゴリだと位置付けていると説明した。
MicrosoftのSurface Laptop Ultraのページに掲載されているFAQ。Copilot+ PCだと明白に書かれているが、今回の発表会では言及はなかった
なお、MicrosoftのSurface Laptop Ultraの製品ページには「Surface Laptop UltraはCopilot+ PCか?」というド直球な質問がFAQとして掲載されている。その答えは「はい。Surface Laptop UltraはNPUを内蔵したCopilot+ PCで、対応するWindows 11のAI体験とCopilotをご利用いただけます。さらに、負荷の高いローカルAIのワークフローに向けて、NVIDIA RTX Sparkによる高速化とCUDAへの対応も加わります。」となっており、Surface Laptop UltraはCopilot+ PCだと説明されている。
Surface Laptop UltraのSoCであるRTX SparkにはNPUは搭載されていないが、Copilot+ PC向けに提供されているソフトウェア(たとえばRecallなど)は利用でき、それに加えてフロンティアAIモデルをローカル実行できる機能が追加されているのがSurface Laptop Ultraであると分かる。
なお、Microsoftが公開しているWindows 11のシステム要件を見る限り、Copilot+ PCになるためには40TOPS以上の性能を備えるNPUが必須だと書かれているのだが、その要件をSurface Laptop Ultraは満たしていない(RTX SparkはNPU非搭載のため)。今後それが改訂されるのか、それともRTX Sparkはその例外となっていくのか、現時点では明確ではない。
ただ、今回Microsoftは発表会で「Surface Laptop UltraはCopilot+ PCだ」ということを言わなかったし、ヒル氏もCopilot+ PCよりも上位のカテゴリの製品だと表現したことからも、それを大々的に言うつもりはないということは見てとれるだろう。
それらをつなぎ合わせるとCopilot+ PCは、今後はエージェント型AIではない、従来のローカルAIソフトウェア群を総称する言葉としては残っていくが、Microsoftのマーケティング戦略の中では徐々にフェードアウトしていく可能性が高いと考えられるのではないだろうか。
