「最近、実の子供などの行動調査依頼が増えているのですが、その背景には『高齢者を中心とした詐欺行為を家族が行っていないか』という心配があります。調査対象者の多くが、生活苦やキャリアの焦りなどにより『すぐ稼ぎたい』と焦っている人が多いです。また、背景に心の病がある場合もあります」と語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。
山村さん連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにしていったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。

今回山村さんのところに相談に来たのは49歳の会社経営者・恭子さん(仮名)だ。「息子の転職先に不安があります。会社はもちろん、息子の素行を調べて欲しいのです」と相談に来た。
19歳で母になった恭子さんの長男は30歳。地元九州から、大学進学のために上京したが、2年で中退し、10年間ほぼ無職生活を続けていた。親のマンションに住み、たっぷりと仕送りを受け、東京の生活を満喫していた。
その背景には、恭子さんの15歳年上で、IT会社を経営する夫が長男に甘いことがあり京子さんは「30歳6ヵ月時点で、正社員にならなければ、マンションを追い出し、仕送りを止める」と宣告。
恭子さん自身は、高校時代からホステスとして働き、自力で学費を稼ぎ、18歳の時に客だった夫と結婚後、すぐに出産したため大学進学をあきらめていた。自身に強い学歴コンプレックスがあったため、長男には「一流大学を卒業して、一流企業に入ってほしい」という強い期待があったのだ。
言われた期限までに息子は就職。しかし「正社員にならなかったら仕送りを止める」と言ってはいたけれど、「こんな息子が正社員になれるはずはない、もしかしたらいま多い詐欺集団なのではないか」と調査を依頼したのだ。果たしてその結果は……。
息子は詐欺会社にはいったのか
息子が悪質リフォーム詐欺や点検詐欺などに関わる違法性が高い会社に勤務していないか、加えて素行に問題がないかの調査を開始します。恭子さんは息子に内定が出た会社名を覚えていないので、朝7時から息子が住むマンション前で張り込みを始めました。
息子が住んでいるのは、恭子さんの夫が所有する都内の閑静な住宅街にある資産性の高い物件です。現在30歳の息子は、20歳で大学を中退してから、ずっとここに住んでいる。「働かなくては生活できない」という切羽詰まった事情がないことは幸せなことではありますが、自分がなんとかしないと東京では暮らせないという追い詰められた状況がなかったことで、10年そのままだったようにも思います。

朝8時に息子が出てきました。恭子さんにそっくりな整った顔立ちをしており、背がスラリと高くスタイルがいい。黒のサマーニットにダボッとしたパンツをあわせ、足元はハイブランドのスニーカーで、とてもおしゃれ。背筋が伸びており、胸板が厚く体を鍛えていることがわかります。
駅から15分ほど電車に乗り、住宅街がある駅で下車。商店街の中にある、“暮らしの相談室”といった看板がある建物の中に入っていきました。調べるとフランチャイズのようです。その事業内容を見ると、高齢者だけが対象ではなく、水回りの問題、シロアリなどの害獣駆除、空き家、家の片付け、相続、介護、育児、スマホのトラブル、不用品の処分などまで対応しています。内容を見ると、顧客から持ち込まれた問題を、それぞれの専門家に紹介するのがメイン事業の様子。
息子が窓口に立つのかと思っていたら、息子は作業着を着て出てくると、軽トラに乗り、5分程度のところにある、うっそうと木が茂る邸宅に入っていきました。そこで黙々と庭の枝を払ったり、芝刈り機で草を刈ったりして、13時に事務所に戻ります。午後もまた、別の庭のある家に行き、庭木の剪定をし、建物に絡まるツタを取り、壁を高圧洗浄機で掃除していました。息子は高所作業も手慣れており、手際がいい。楽しそうに仕事もしていて、とても詐欺をする人には見えませんでした。そして、18時に店舗から出て帰宅します。
