
冷戦下のソ連領内を舞台に、主人公ネイキッド・スネークの過酷な潜入任務を描いた『METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER』(以下、MGS3)。2004年の発売以来、その独特なステルスアクションとサバイバル要素、重厚な物語で、多くのプレイヤーを魅了してきたシリーズ屈指の人気作だ。
25年8月、その名作が『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』(以下、MGSΔ)としてよみがえった。
『MGSΔ』が目指したのは、単に原作のストーリーや世界観を受け継ぐことではない。かつてプレイヤーが味わったゲーム体験そのものを、現代の技術と操作環境でもう一度つくり上げることだ。
『MGS3』の発売から約20年。ハードウエアの性能も、ゲームの操作性も、プレイヤーが当たり前とする感覚も大きく変わった。
原作らしさを守りながら現代のゲームとして成立させるために、何を残し何を変えたのか。リメイクに携わったKONAMIの開発エンジニアT.MさんとK.Mさんに、その舞台裏を聞いた。
株式会社コナミデジタルエンタテインメント
第1制作部
T.Mさん
2016年新卒入社。『METAL GEAR SURVIVE』『実況パワフルサッカー』『BEAT ARENA』などの開発に携わった後、23年より『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』の開発に参画
株式会社コナミデジタルエンタテインメント
第1制作部
K.Mさん
2018年新卒入社。『悪魔城ドラキュラ』『SILENT HILL』などの開発に携わり、その他新規ゲームの立ち上げも複数経験。23年より『METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER』の開発に参画
数百万行のソースコードから、作り手の意図を解読
ーーまずは、お二人が『MGSΔ』で担当された領域を教えてください。
T:ゲーム内に登場する複数のボスキャラクターを担当する「ボス班」に配属され、私は主に「ザ・ボス戦」を担当しました。ザ・ボスの思考やアクションの実装などを手掛けています。
K:私も同じく「ボス班」の配属で、主に「ヴォルギン戦」のバイクイベントの実装を担当しました。その他にも、ゲーム内に出てくる野生動物や各種ギミックなどの開発も手掛けています。人手が足りない箇所があれば、その都度ヘルプに入るといった動き方でした。
ーー20年前のゲームを現代によみがえらせるとなると、単純に「原作を忠実に再現する」だけでは済まなそうです。
T:そうですね。『MGSΔ』では原作を最大限尊重することを大前提にしていました。ただ、『MGS3』は20年前のゲームなので、操作性までそのまま再現すると、今のプレイヤーにとって遊びづらい部分もあります。
一方で、原作のコードや仕様書を調べていくと、当時の時間的な問題やハードウエアの制約によって「本当はこうしたかったのでは」と思える痕跡も残っているんです。

K:自分たちが本格的に参画した時点では、ある程度リメイク版が動く状態になっていました。なので、まずは原作との比較をいったん置いて、一つのゲームとしてプレイしました。その上で「面白いと感じるか」「どこを変えた方がいいか」を見ていったんです。
その後に原作のソースコードを見て、『MGS3』にあった要素のうち、リメイク版では抜けてしまっているものがないかを確認していきました。今のゲームとしてどう感じるかと、原作ではどうだったのか。その両方を見ながら詰めていくような進め方ですね。
ーー原作のソースコードまでさかのぼると、完成したゲームを遊ぶだけでは分からないことも見えてくるのでしょうか。
T:そうですね。実際に調べていくと、原作のゲーム上では使われていないコードが残っていることがありました。
コメントアウトされているものもあって、「こういった処理をしたかったのかな」と想像できるんですよ。自分が担当したザ・ボス戦でも、CQCやアクション周りにそうしたコードがありました。
ただ、それが「面白くないからやめた」のか、「やりたかったけれど時間やハードの制約でできなかった」のかは、コードを読むだけでは分からない。なので、原作の開発に携わった方々に聞けるところは聞いていました。
20年前の作品なので全てがクリアになるとは限らないんですけど、「これってどうだったんですか?」と聞くと、「多分こうじゃない?」みたいな話が返ってくる。そういうものも参考にしながら考えていましたね。
ーー実際に『MGSΔ』で改めて実現したものもあるのですか?
K:あります。特に印象に残っているのは、終盤に登場する兵器「シャゴホッド」の仕掛けですね。
実は、シャゴホッドを整備しているメンテナンスクルーを事前に全員倒しておくと、その後の追跡シーンでシャゴホッドが整備不良を起こすような処理が組まれていたんです。

ところが、実際に原作をプレイしても、そういう挙動にはならない。そこでさらにコードを調べてみると、「ここ、計算式がおかしいな」という箇所が見つかりました。試しに直してみたら、想定されていた挙動がちゃんと動いたんです。
しかも、その場面で使うための無線の音声データまで残っていた。「ここまで作ってあるならやっちゃうか」ということで、この仕掛けを実装しました。『MGSΔ』では、メンテナンスクルーを倒しておくとヴォルギンが「クルーどもめ!」と叫ぶ仕様になってます。
スネークを動かしやすくしたら、敵の攻撃が当たらない
ーー「現代のプレイヤーが遊びやすいものにする」という話がありましたが、『MGS3』の発売から約20年が経つ中で、特に大きく変える必要があったのはどこですか?
K:一番大きいのは、やっぱりプレイヤー、つまりスネークの操作ですね。
原作では、そもそもしゃがんだ状態で歩けなかったんです。カメラも今のように自由に動かせるものではなくて、ある程度決められた視点でプレイするゲームでした。当然、敵の攻撃やゲームバランスもそれを前提に作られています。
ところが『MGSΔ』では、しゃがんだまま移動できるし、カメラも自由に回せる。ローリングなどを使って機敏に動くこともできます。そうすると、原作と同じように敵を動かしているだけでは、攻撃が全然当たらない、ということが起きてしまうんです。
T:プレイヤーの操作性だけを良くすると、ゲームが簡単になりすぎてしまうんですよね。なので、敵の思考を変えたり、配置を調整したりして、プレイヤー側の変化に合わせて周囲も変えていく必要がありました。
例えば、スティックを前に倒した時の動き一つを取っても、原作と今では違います。今は慣性なども考慮された動きになるので、同じように操作してもキャラクターがたどり着く位置が微妙に変わる。
そういう違いが積み重なっていくので、原作と完全に一致させること自体をゴールにはしていませんでした。

ーーそうなると「原作らしいゲーム体験になっているか」を確認するのが難しそうです。
K:実際にプレイして、気になるところがないかを地道に確認しました。必要に応じて原作の動画や攻略本を確認したり、原作ではどう動いていたかを再現できる仕組みを使って比較したりもしましたね。
ただ、先ほど話したようにプレイヤーの動きそのものが違うので、途中からは単純比較では判断できない部分も増えていきました。
T:自分も、実装してプレイして、また直してプレイしてというのをずっと繰り返していました。ザ・ボス戦でいうと、担当のプランナーと一つずつ確認しながら、「ここは大丈夫」「ここは直そう」と詰めていく。
最後はディレクターにもプレイしてもらって判断していました。そのディレクターは原作の開発にも携わった方なので、その方が「これでいい」と判断したものを完成形にしていく感じでしたね。
ーーかなり何度も調整を重ねたんですね。
K:そうですね。しかも、プレイヤー側の挙動も最初から完成しているわけではなくて、ボスを作っている間に並行してブラッシュアップされていきます。
そのため最初のプレイヤーの動きを前提にボスを調整していても、その後に新しい挙動が加わると、「それならボス側もこっちの方がいいよね」となる。そこでまた調整するといった形で、何周か繰り返していました。

T:多分10周ぐらいはしていましたね(笑)。ちなみに『MGSΔ』には、原作に近いカメラや操作で遊べる「レガシースタイル」もあります。
例えば、原作では壁に張り付いた時に、カメラの邪魔になる木が消える場所があるんです。でも現代のカメラだけを前提に作っていると、そこには気付かない。
レガシースタイルで確認してみて、「あ、ここ木が消えてないじゃん」と気付いて、原作と同じように処理を入れる。そういう対応も一つずつやっていました。
忠実な再現だけでは、原作らしさは守れない
ーーそうした細かい調整の中で、お二人が特に力を入れた部分はどこですか?
T:自分はやっぱり、ザ・ボス戦のCQCですね。ザ・ボス戦はMGSシリーズでも屈指の名シーンなので、原作を最大限尊重しながらも、どこまで変えて良いのかを慎重に検討していきました。
例えば原作では、ザ・ボスを松明で燃やし続けると、そのまま一方的に攻撃できてしまうんです。ただこれは、明らかに意図されたものではないだろうということで、『MGSΔ』では修正しました。一方で、バグなのか仕様なのか判断しきれないものは、無理に直さず残しています。
そうした中で、ザ・ボス戦のCQC周りは原作の仕様から大きくアップデートしました。
ーー具体的にはどのような?
T:原作では、ザ・ボスがCQCを仕掛けてきて、それをスネークが返す「CQC返し」まで実装されているのですが、『MGSΔ』ではその先まで続きます。スネークが返したらザ・ボスがさらに返して、またスネークが返す。「CQC返し返し返し」まで入れました(笑)
ここはディレクターからも「絶対に入れたい」という話があったんですが、原作にはない動きなので、どう作ればいいのかという正解もありません。
最初は仕様もほとんど固まっていなくて、プランナーやディレクターと相談しながら、まず作ってみる。実際にプレイして「本当にこれでいいかな?」となったら、また直す。モーションも含めて、かなり詰めていきました。
さらに、スネークが持っている武器によってCQCのモーションが変わるのですが、そこも完全新規で作っています。

ーーがむしゃらに正解を模索していったと。何か手掛かりのようなものは無かったのでしょうか。
T:原作のコードを見ると、「当時も本当はもう少しやりたかったんじゃないかな」と思える部分があったので、その辺りは参考にしています。
ザ・ボスはかなりファンも多いキャラクターなので、原作の仕様にてこ入れするのは勇気がいることではあったのですが、事前にお客さまの声を調べた時に「CQCをもっと格好良くしてほしい」という意見があったので、「じゃあやろう」と。
ただ、先ほど話したレガシースタイルでは、この「CQC返し返し返し」は発生しません。そこは原作に忠実に「CQC返し」までにしています。
K:自分の担当でいうと、動物の細かいギミック周りの調整がかなり大変でした。
『MGS3』では、捕まえた動物を持って歩いて、好きな場所に投げられるんです。これ、今の開発で仕様として提案したら怒られるんじゃないかってくらい大変な仕組みで(笑)。本当にどこにでも投げられるので、その先で動物をちゃんと動かさないといけないんです。
ーーどのマップでも適応されるというのは、骨が折れますね……。
K:そうなんです。しかも、原作ではある程度ごまかせていた部分も、ハードがPS5になってグラフィックがきれいになると目立つようになる。
例えば、階段って数十センチくらいの段差がありますよね。でも、ゲームに出てくるヘビなんて高さは数センチしかない。そうすると「ここにヘビを投げたら、どう動くのが自然なんだ?」という話になる。
かといって、全ての動物について、全ての地形に合わせた動きを個別に作るわけにはいきません。処理負荷の問題もありますし、物量的にも現実的ではない。
なので、「この動物はこのパターン」という形でカテゴライズしていって、共通して使える仕組みを作りました。地形に合わせて傾きを調整する程度で成立するものもあれば、大きくて目立つ動物だから、もう少し丁寧に対応しようというものもあります。

ーーハードの進化によって、原作では気にならなかった細かな部分まで目につくようになったと。
K:ええ。そしてそれは動物だけではなくて、自分が担当したヴォルギン戦のバイクイベントでも同じでした。
このバイクイベントは、スネークたちがバイクで逃走しながら敵と戦っていく、かなり演出的な要素が強いシーンです。自分の中では「プレイする映画」みたいな感覚なんですけど、原作を改めて見ていくと、今のグラフィックでは気になるところが結構ありました。
例えば、シャゴホッドがコンテナを潰す場面。原作では、コンテナがパッと消えたように見えるところがあるんです。
でも『MGSΔ』の映像でそれをやると、やっぱり違和感が出る。だったら、潰された時にはちゃんと破片を飛ばそう、地面にはわだちを残そう、水たまりに突っ込むなら水の表現も入れようと。
ストーリーやイベントの流れそのものは原作を変えずに、その中で「今ならここまで表現できるよね」というものを一つずつ足していきました。
ーー原作と同じシーンでも、見た目がリアルになった分、求められる表現も変わるわけですね。
K:コンテナの表現は自分が提案したのですが、水の表現ならエフェクト側、音ならサウンド側から「ここはこうした方が格好いいんじゃないか」と提案が出ることもあります。みんなで意見を出しながら、シーン全体のクオリティーを上げていきました。
T:ハードの性能が上がったことで、ザ・ボスのモーションやフェイシャルもかなり増やせました。
原作の頃はメモリの制約もあって、いくらでもモーションや表情を載せられるわけではなかった。でも『MGSΔ』ではDualSenseのアダプティブトリガーも使えますし、20年前にはやりたくても実現できなかった表現を形にできていると思います。

ゲームを面白くする仕事に、職種の境界はない
ーー『MGSΔ』の開発では、プログラマー発のアイデアが採用されるケースが多くあったという印象を受けました。
T:そうですね。MGSΔの開発チームは、プランナーから仕様書をもらって、その通りに実装して終わりという感じではないです。
もちろん、まずは仕様に沿って作るんですけど、自分でプレイしてみて「なんか違うな」と思ったら、その場でプランナーに「こっちの方がいいんじゃない?」と相談する。そこでまた一緒に考えて、実際に遊んでみて、面白くなったら次に進む感じですね。
K:プログラマーではあるんですけど、「プログラマーの仕事だけをする」という感覚はあまりないかもしれません。
ゲームを完成させるために必要なら、自分の担当領域を越えてでもやる。ゲーム制作者、クリエイターとして考えるという意識は強いですね。
ーーそうした仕事の進め方は、簡単にできるものではありませんよね。
K:これまでに小さいプロジェクトを複数経験したことが大きかったと思います。規模が小さいと、一人でいろいろなところを見ないといけないんですよね。
過去に担当した『悪魔城ドラキュラ』の開発では、最初はエネミーを担当していたけど、そのうちボスも見るようになって、ギミックも見る、アイテムも見る、みたいに担当が広がっていきました。
そうすると、ゲームって完成するまでにどれだけ多くの工程があるのかが見えてくる。大きなプロジェクトに入った時も、「自分の担当だけやれば終わり」ではなくて、全体を見ながら、足りていないところに入るという動き方がしやすくなりました。

T:自分も『BEAT ARENA』の経験はかなり大きかったです。あれは短期間・小規模で作ったタイトルだったので、かなり幅広いところに関わりました。
普段のプログラマー業務だけではなくて、クオリティーコントロールをやったり、CI/CDの環境を作ったり、Git周りを整えたり。一つのゲームがどういう流れで作られて、どうやってリリースまで進んでいくのかを全体で見られたのは、その後の仕事にも活きています。
後は、新卒で最初に携わった『METAL GEAR SURVIVE』ですね。当時のメタルギアシリーズを作っていた先輩たちと一緒に仕事をする中で、「最後の最後までクオリティーを追求する」という姿勢をかなり学びました。
ーー技術だけでなく、ゲームの作り方そのものをいろいろなタイトルから学んできたんですね。
K:役割を越えるというか、「自分はプログラマーだからここまで」という線をあまり引かないことは大事だと思います。少なくとも今のチームでは、むしろ「なんでもっと入り込んでこないの?」くらいの雰囲気があります(笑)
そういう意味では、今後はアニメーションやエフェクトを作る技術も身に付けたいと思っています。
例えば、新しいゲームのプロトタイプを作る時に、モーションやエフェクトを作れる人が集まらないと、試したいアイデアがあってもすぐには形にできません。でも、エンジニアやプランナーが仮のモーションやエフェクトまで作れれば、もっと気軽に試せるじゃないですか。
そうやって自分でできることを増やしながら、新しいゲームづくりに挑戦していきたいです。
T:自分も「新しいことをやりたい」という気持ちはずっとあります。
ゲームプログラマーとして10年ほど働いて、インゲームからアウトゲーム、インフラ周りまで、ありがたいことにかなり幅広く経験させてもらいました。だから今は、ゲームの中を作ることだけではなくて、その外側にも少しずつ領域を広げていきたいと思っています。
例えば、プログラマーの採用やチームのマネジメント、外部の会社とのやり取りなどですね。今まで経験してこなかったことも含めて、ゲーム制作に関わることを一通り全部やってみたい。
今の上長がまさにそういう、何でもできる方なんです。身近にお手本になる人がいるので、自分もそこを目指していきたいですね。

コナミグループ 採用サイト

取材・文/森 英信(アンジー) 撮影/赤松洋太 編集/今中康達(編集部)
