掲載:THE FIRST TIMES(THE FIRST TIMES編集部)
■藤井風だけでなく“Suchmos以降”と言えるアーティストも少なくない
「Suchmosはマジで日本の音楽を一気にオシャレにした人たちだと思っています」
【画像】『Suchmos The Blow Your Mind TOUR 2026』@Zepp Haneda Suchmos×Fujii Kazeライブ写真
藤井風は、こんな風に語った。今年7月に行われた『Suchmos The Blow Your Mind TOUR 2026』のZepp Haneda公演で共演した際のMCでのひと言だ。
彼の言葉に共感する人も少なくないだろう。
Suchmosは、J-POPの趨勢を変えたバンドだ。バンドシーンに豊かなグルーヴを、ヒットチャートに奥深い音楽性をもたらした存在だ。
2025年に活動を再開し、長い休止期間を経て音楽シーンの第一線に戻ってきた彼ら。バンドは再び大きな潮流を生み出そうとしている。単に人気バンドが復活した、というだけではない。待ち望まれてきたのは、彼らが後続のシーンに与えた影響力の大きさゆえだ。
藤井風もSuchmosに刺激を受けたひとりだろう。前述のMCで彼はこんな風にも言っていた。
「Suchmosが出てきた頃は、私は岡山のただの青年でしたからね。で、ピアノをYouTubeにあげたりしてましたけど」
たしかに藤井風は2017年に「STAY TUNE」のピアノカバーをYouTubeに投稿している。まだ何者でもなかった頃の彼は、Suchmosのブレイクに大きく触発されたはずだ。そして、藤井風だけでなく、今のJ-POPシーンで活躍するアーティストには“Suchmos以降”と言える存在も少なくない。
Suchmosの活動休止と復活は日本の音楽シーンにおいてどんな意味合いを持っていたのか? この記事では、彼らの功績と文脈を改めて掘り下げたい。
■メインストリームへと人気を拡大していくなかでも、Suchmosは足元を見失うことはなかった
2013年1月に結成、2015年7月に1stアルバム『THE BAY』をリリースしたSuchmos。彼らは当初から幅広い音楽の素養を持っていた。ジャミロクワイを敬愛し、ディアンジェロやJ・ディラに惹かれ、ジャズやヒップホップのグルーヴを生演奏で磨き上げていったメンバーたち。ロックバンドのフロントマンとしての明確な美学を持っていたYONCE。単に「ブラック・ミュージックに影響を受けたバンド」というよりも、もっと踏み込んだ探究心と雑食性を持っていた。
いっぽうで、当時のライブハウス/フェスシーンでは、速いテンポ、明快な盛り上がり、オーディエンスの一体感が大きな訴求力を持っていた。キャッチーなフレーズと縦ノリのリズムを武器にしたバンドが席巻していた。そこに、演奏の間合いや低音のうねりの豊かさという魅力を提示したのがSuchmosだった。
快進撃を見せたのは2016年から2017年だ。Honda『VEZEL』のCMにも起用された「STAY TUNE」をきっかけに認知を広げ、同曲を収録した2017年の2ndアルバム『THE KIDS』で一躍ブレイクを果たす。
2018年にも躍進は続いた。「VOLT-AGE」が『NHKサッカーテーマ』に起用され、紅白歌合戦に初出場して同曲を披露。その存在は大衆に届いた。
ただ、注目を集め、メインストリームへと人気を拡大していくなかでも、彼らは足元を見失うことはなかった。地元の仲間たちとの繋がりや、自分たちを育てたライブハウスのカルチャーへの愛着が、彼らにとっての大事なアイデンティティだった。紅白初出場時に話題となった「臭くて汚ねえライブハウスから来ました、Suchmosです」という挨拶もそのスタンスの表明だろう。
そして彼らは反骨心を失うこともなかった。支持を広げた後も、自分たちへの期待に安易に迎合しないカウンター精神を見せていた。
特にその意識をはっきりと示したのが2019年の3rdアルバム『THE ANYMAL』だろう。バンドを取り巻く状況が大きく変化したタイミングで作り上げたのが、初期とはガラリと方向性を転じ、ブルージーでプログレッシブな音楽性を追求したアルバムだった。
ルーツを遡り現代的なサイケデリアを体現した『THE ANYMAL』は、決して当時のJ-POPにおける売れ線を狙ったアルバムではない。成功を得た先だからこそ、より奥深いサウンドへと歩みを進めたような作品だ。
「STAY TUNE」のようなグルーヴィでソウルフルなヒットソングが求められる風潮もあっただろう。しかし当時の彼らは同じことを繰り返すことを選ばなかった。ロックバンドとしての骨太なライブパフォーマンスを鍛え上げ、自分たちの音楽性をさらに深く探究していった。
そういうスタンスへのリスペクトも、Suchmosの活動再開が待ち望まれてきた理由ではないかと思う。
■バンドの休止期間も外の音楽家と関わり、その美学や感性は広がっていった
2019年9月には、結成時から夢に描いてきた横浜スタジアムでのライブを実現させた彼ら。しかし2021年2月には「修行の時期を迎えるため」として活動休止を発表し、同年10月にはメンバーHSUの訃報が伝えられる。
ただ、バンドの休止期間も“空白”ではなかった。むしろメンバーは外の音楽家と関わり、その美学や感性は広がっていった。
YONCEは2022年、STUTSがプロデュースするMirage Collectiveに参加。ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』の主題歌「Mirage」でボーカルを担当した。彼の歌声が持つ芯の強さを改めて示すきっかけになったはずだ。
また、2023年には旧友の音楽仲間とバンド・Hedigan’sを始動。ブルースやレゲエなどに根ざしたアーシーなバンドサウンドを軸に、ステージのセッションで一期一会の音楽を作り上げる生々しくスリリングな音楽性を体現してきた。
TAIKINGはソロアーティストとしての活動を始めるいっぽうで、サポートギタリストとしても本格始動。藤井風やRADWIMPSといったトップアーティストのツアーのステージに立った。なかでも藤井風とはその後にコーチェラ・フェスティバルなど数々のモニュメンタルな場を共有する関係になっていった。
Vaundyの現場ではライブサポートだけでなくアルバム『replica』のレコーディングにも参加。もともと編曲やプロデュースへの志向を持っていた彼がポップスの最前線で仕事をするようになったことは、J-POPシーンに洗練をもたらすきっかけのひとつになったはずだ。
TAIHEIもSTUTSやYogee New Wavesなどのサポートミュージシャンとして活躍。いっぽうでリーダーバンド・賽ではジャズのアンサンブルを追求し、演奏家としての基盤を広げてきた。
そうした歩みを経たSuchmosの復活は、それぞれが培った経験や感性が再び交わり、バンドのあらたな可能性を開く機会にもなった。
そして、前述の藤井風やVaundyにとどまらず、いまや日本の音楽シーンには“Suchmos以降”とも言うべきバンドやアーティストが多く存在している。
たとえばアリーナクラスのバンドとなったKroiや、武道館公演を成功させた離婚伝説もそうだし、chilldspot、Billyrrom、luv、HALLEYなども存在感を高めている。ソウルやR&B、ジャズなどブラック・ミュージックをルーツに持ちつつ、それぞれの美学を追求しJ-POPのフィールドで支持を広げるアーティストが活躍している。
今のバンドシーンにおいては、そうした音楽性が自然な選択肢のひとつになっている。
■「Smile」はSuchmosにとっての新章の幕開けを告げる曲
新曲「Smile」はフックの強いギターリフに始まり、2026年2月に正式加入した山本蓮のうねるようなベースライン、メロウなエレピ、スクラッチが心地よいグルーヴを生み出すナンバー。YONCEのボーカルもセクシーな艶やかさを持っている。
アルバム『THE KIDS』の時期を彷彿とさせるグルーヴィでメロウな曲調には、原点回帰のイメージもある。多くの人が思う“Suchmosらしさ”のど真ん中にあるような一曲だ。
キャリアのなかで様々な音楽性を獲得し、表現領域を広げてきた今の彼らだからこそ、そうした曲を鳴らすことに大きな意味がある。かつての反骨精神が失われたわけではない。しかし、キャリアを重ね、世代を超えたリスペクトを得た今のバンドには、“Suchmosらしさ”を自由に鳴らせるタフネスと風通しの良さがあるのだろう。
今のSuchmosが体現しているのは、ロックバンドの“成熟”のロールモデルである。バンドの真骨頂を改めて示したという意味でも、「Smile」は彼らにとっての新章の幕開けを告げる曲になったはずだ。
TEXT BY 柴那典
