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    トランプ大統領の娘婿であるクシュナー氏と握手するプーチン大統領。中央は米特使のウィトコフ氏(9月5日モスクワで、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

    (英フィナンシャル・タイムズ紙 2026年10月14日付)

     ドナルド・トランプは10月9日、「正直なところ、プーチン大統領に御礼を言いたい」と語った。本来、逆であるべきだった。

     ロシアが供給するディーゼル燃料(軽油)が米国の物価に及ぼす影響は無視できるほど小さいのに、トランプはウラジーミル・プーチンに数十億ドルを支払うことで合意したからだ。

     このような非対称性は「something for nothing」(対価ゼロで何かを相手に与えること)としても知られる。

     トランプの対価ゼロはディーゼル燃料の価格が米国の中間選挙の前に下がりそうにないことだ。一方、プーチンが得る「何か」は米国の経済制裁の停止とウクライナの爆撃に使える資金だ。

    「壮絶な怒り作戦」が招いた問題なのに・・・

     筆者には心理学的な判定を行う資格はないが、トランプが自分で引き起こした問題をウォロディミル・ゼレンスキーのせいにしていることは素人でも分かる。

     ディーゼル燃料の高騰をもたらした最大の原動力は、トランプがイランを相手に始めた「壮絶な怒り作戦」の影響だ。

     イランとその代理勢力はペルシャ湾岸の製油能力の大部分をダウンさせ、世界的なディーゼル燃料の供給を急減させた。

     ウクライナはトランプの要請を無視してロシアの製油所を攻撃し、供給をさらに混乱させている。

     そのためゼレンスキーは、主に米国大統領が引き起こした問題についてスケープゴートにするのにうってつけの存在になっている。

     ウクライナをめぐる状況はさらに悪化する可能性がある。

     トランプがロシアとの例の取引を発表したその日、娘婿のジャレド・クシュナーと米国特使のスティーブ・ウィトコフは米フロリダでウクライナの代表団に会っていた。

     2人はこの席で、ウクライナがロシアの製油所への攻撃を続けるなら、米国はウクライナへの武器の売却や軍事情報の共有も止めると脅しをかけた。

     そうなれば、ゼレンスキーは次第にエスカレートするロシアの攻撃に抗うのに役立つ米国からの支援の最後の部分を失うことになる。

    ディールの力がないことを思い出させるウクライナ大統領

     トランプがディーゼル燃料の取引を交わすまでの1週間で、ロシアのミサイル攻撃により命を奪われたウクライナ人は100人を超えている。そのうちの少なくとも20人は子供だった。

     ほかの米国大統領なら、無辜の市民を殺めるのを止めるようロシアに圧力をかけているはずだ。トランプはその代わり、もっと大勢の人を殺せる手段をロシアに与えている。

     イランへの支援継続にもOKを出した。

     ロシアはイランに対し、中東にある米軍基地や同盟国の施設を狙うために使える衛星データや追跡データを提供している。つまりトランプはまさに文字通り、米国への攻撃を支援しているのだ。

     ロシアによるイラン支援について問われるたびに、トランプは軽くあしらったり質問を無視したりする。そんな支援はしていないとプーチンから再度保証を得たと語ったこともある。

     だが、プーチンはイランにとって役に立つ存在であり、このため湾岸戦争の終結を仲介するという約束をちらつかせることができる。

    (編集部注:ここでの湾岸戦争は、1990年代のものではなく、2026年の米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦に端を発する中東紛争を指す)

     片やゼレンスキーは、トランプには取引をまとめる力がないことを常に本人に思い出させる存在だ。

     米国の同盟国がトランプにウクライナ支援をいくら促そうとしても、トランプはゼレンスキーを許すことができない。

     トランプはかつて、ロシアとウクライナの戦争を大統領就任後24時間で終わらせると豪語した。これはウクライナの降伏による戦闘終結だった。

     案の定、ゼレンスキーにはそんなつもりはなかった。今でもそうだ。

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