カナダのマーク・カーニー首相(10月15日撮影、写真:AP/アフロ)
(英エコノミスト誌 2026年10月17日号)
カナダがいじめっ子の米国に雄々しく立ち向かっている。
特権意識に凝り固まったカナダは何十年も米国を食い物にしてきた。まるで寄生虫のように、大事にされている米国の51番目の州としての恩恵を受けていながら何の見返りももたらさない。カナダ人は、米国の保護がなければやっていけないと分かっているのに、あの恩知らずな首相のマーク・カーニーは、国境の先にある偉大で美しい国に従うことを拒んでいる――。
隣の超大国のいじめに奮起
これがドナルド・トランプ米大統領のカナダ観だ。
おかげでこれら2つの同盟国の間には、相互利益が成り立つ余地がなくなっている。
いじめっ子の大統領は関税率を小刻みに引き上げている。両国の国境沿いに位置するオンタリオ湖の南半分を「アメリカ湖」に改称した。
反発したカナダの消費者はケンタッキー・バーボンをペッと吐き出し、ラスベガスを後にした。
就任から18カ月になるカーニー首相は対決姿勢を崩しておらず、長期に及ぶうえに劇的で、注目せずにはいられないにらみ合いのスターになっている。
今頃はもうカーニー氏が屈服していると思った人もいたかもしれない。カナダはしょせん、まあまあの経済と貧弱な軍隊を擁する中堅国でしかない。
弱点も数多く抱えている。
その一つは、10月19日に行われるアルバータ州の州民投票で明らかになる。米国全体の埋蔵量を上回る大量の石油を地下に蓄えたまま、将来的にカナダの連邦から分離するか否かを問う投票だからだ。
実のところ、カーニー首相は絶好調だ。
複数の世論調査は、アルバータ州民は恐らく残留を選択することを示唆している。それにカーニー政権のカナダは一般に思われている以上によくやっている。
今年1月にはスイスのダボス会議で登壇し、中堅国を意味する「ミドルパワー」は威嚇的な大国に立ち向かう方法を見いださねばならないと説いた。
あれから9カ月間、カーニー氏の率いるカナダは、覇権を握る大国が支援を突然打ち切ってくる時にミドルパワーがやるべきことを教えてくれている。
カーニー首相のリアリズム、ミドルパワーは覇権国に取って代われない
最初の教えは、リアリズムで気持ちを引き締めることだ。
本誌エコノミストが論じているように、ミドルパワーが覇権国に取って代わり、国連のように強い力を持つ恒久的な機関を維持する勢力になることはない。
世界は危うさを増している。権力が共有されていた取り決めや規範を米国と中国の両方が損ねたり、自分に都合の良いように利用したりしているからだ。
その様子を見たロシアやイランといった略奪者は大胆になり、一段と熱心に獲物を追うようになりつつある。
草食系のミドルパワーをまとめ上げて何かをやり遂げることは難しく、うまくいかないことが多い。ミドルパワーの集まりとしては最も発展している欧州連合(EU)でさえ、あの通りだ。
しかし、それでもカナダやその同盟国が証明しているように、ミドルパワーには打撃をいくらか和らげる力がある。
カーニー氏は世界を飛び回って新たな貿易協定をいくつも結んだり、EUの準加盟国になる構想のような象徴的な合意を鳴り物入りで公表したりしている。
同じように、第1次トランプ政権下で米国が環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した後、日本はこれを再生させるべく介入した。
防衛の世界では、カナダは昔からの米国への依存を縮小しつつあり、スウェーデン製の戦闘機「グリペン」の発注を検討している。
同様にノルウェーは英国のフリゲート艦を、アラブ首長国連邦(UAE)はウクライナの最新鋭のドローンを購入する予定だ。
トランプ氏のグリーンランド買収構想を欧州が阻止した時のように、ミドルパワーは何らかの脅威に直面しても、ある程度の影響力を行使できる。
このアプローチの長所と限界がはっきり分かるのがウクライナの事例だ。
欧州とカナダによるウクライナへの金融・軍事支援は、米国が手を引いた後に強化され、ミドルパワーが協調して行動できることを示している。
ウラジーミル・プーチン氏の軍隊は、ドンバス地方でわずかな領土を得るために大変な数の死傷者を出している。
そしてトランプ氏が先日のディーゼル燃料外交で示したように、限界があることも明らかだ。
