東京都が無痛分娩の助成金制度を開始し、都民から喜びの声が上がってから、はや一年。無痛分娩が身近な選択肢になった今だからこそ、「痛くないかどうか」だけではなく、それがどんな方法で、どんな体制のもとでおこなわれるのかを知っておきたい。
人気のバラエティ『夫が寝た後に』(テレビ朝日系)で、出産したばかりの藤田ニコルさんが出演した時、計画無痛分娩をしたことを語って話題となった。藤田さんは痛みを感じなかったわけでも、めちゃめちゃ楽だったわけでもないと語っていた。
日本で多い「計画無痛分娩」は、希望する日時に産むためだけにおこなわれているわけではない。いつ始まるかわからない自然な陣痛を待つのではなく、麻酔を担当できる医師や、急な変化に対応できるスタッフがそろっている特定の時間帯に分娩を進められるよう、あらかじめ入院日を決め、陣痛促進剤などを使ってお産を始める方法だ。しかし実は計画無痛分娩でのリスクも報告されている。
出産ジャーナリストの河合蘭さんは「今の無痛分娩はメリットばかりが強調され、ファンタジーになっている」と言う。河合さんが専門医に取材し、無痛分娩の現状と、安心して安全なお産を目指す現場の努力を前後編にてお伝えする。
東京都の助成金制度から1年、追従する都道府県はまだない
硬膜外麻酔などで陣痛の痛みを和らげる「無痛分娩」は、WHO(世界保健機関)も「産痛緩和の選択肢の1つとして推奨する」と記す有効な方法だ。
無痛分娩を選ぶ人は、2024年には全体の13.8%に達し、2016年の2.6倍に増えた(日本産婦人科医会調べ)。
中でも東京都は、無痛分娩率が31.2%と全国で最も高い。2025年10月には無痛分娩の費用助成を始め、女性たちから歓迎の声が相次いだことから、当初は他の県にも同様の動きが広がると予想された。
しかし、東京都の助成開始から10ヵ月がたった現在、都道府県単位で同様の制度を始めた例は確認できない。
市区町村では、茨城県取手市、神栖市、群馬県下仁田町、岡山県備前市、愛知県みよし市、群馬県みなかみ町、千葉県いすみ市などが、無痛分娩の費用を助成している。ただし、下仁田町のように東京都より前から制度を設けていた自治体もある。全国に約1700の市区町村があることを考えれば、無痛で産む女性に対する助成制度が広がっているとは言い難い。
無痛分娩には2つの種類がある
広がらない理由のひとつが医療体制だ。
日本では、無痛分娩に24時間対応できる麻酔科医がいる施設はごく限られている。そのため産婦人科医が麻酔を入れる施設が多い。それもすべての産科医が無痛分娩の麻酔を入れられるわけではない。そこで、日本では、麻酔を入れられる医師がいる曜日、時間帯に合わせて陣痛を誘発する「計画無痛分娩」が多い。
そこで、日本では、麻酔を入れられる医師がいる曜日、時間帯に合わせて陣痛を誘発する「計画無痛分娩」が多い。
海外では、自然に陣痛が来たら麻酔を入れる「オンデマンド無痛分娩」が多い。麻酔科医が24時間対応できる体制が整っている病院が日本より多いからだ。
計画分娩は、出産に立ち会う人も都合をつけやすいなど、魅力的に見える面もある。しかし、陣痛を起こす陣痛促進剤にはさまざまなリスクがある。
神奈川県で報告された産科危機的出血のデータ
神奈川は、同県の担当課によると、現時点では、無痛分娩の助成金制度を検討していない。神奈川県の全分娩数に占めた無痛分娩の割合は23.0%で、東京都に迫る高さだが、検討する予定はないという。
2026年3月に開かれた神奈川県周産期医療協議会では、横浜市立大学附属市民総合医療センター産科部長の青木茂氏が、最近の救急搬送について報告した。横浜市立大学は、神奈川県北部の母体搬送をほぼ一手に引き受けており、この地域の母子の命の防波堤だ。
青木氏が報告したのは、分娩直後の大量出血「産科危機的出血」による救急搬送が増えてきたというデータだった。
産科危機的出血とは深刻大量出血のことで、単に出血するだけではなく、血液の減少がショック症状を引き起こし、血が止まりにくくなる変化をともなうこともある。妊産婦死亡のおもな原因になっている危険な状態だ。これが起きると中小規模の出産施設では対応できないので、必ず救急搬送になる。
