新入社員の気持ちで勉強中
上野金太郎氏がビー・エム・ダブリュー株式会社の代表取締役に就任したのは2026年の4月1日付だった。われわれ業界人は「よくできたエイプリルフールのネタだな」と、当初は半信半疑でもあった。彼はメルセデス・ベンツ日本の代表取締役社長、そして会長を歴任してきた人物だからだ。いわば“ライバルメーカー”への転身を果たして約半年、インタビューの機会をいただいた。以下、一人語りのかたちでお届けする。
メルセデス・ベンツ日本のあと、しばらくマルチブランドを手がける販売店で仕事をしていました。いろんなブランドのクルマに触れることができたのは楽しかったし、とても勉強にもなりました。そんなとき、ビー・エム・ダブリューからお声がけいただいたんです。実は、ほかにも数社からオファーがあったんですが、BMWは販売店でも扱っていて全体の状況は分かっていたし、直接熱心にお話をいただいて、何より「ずいぶん大きな賭けに出たな」と思って(笑)。それがちょっと面白かったので、お引き受けすることにしました。まだ、自分を必要としてくれる場所があるなんて、うれしいことですよね。
ドイツの友達なんかには、「お前はもう何社かの顧問でもやって楽しく生きろよ」って言われていました。今回は、一応家族にも相談したんです。妻はちょっと引いていましたけど(笑)、子供たちは「いいじゃん、すげえいいじゃん」と喜んでくれました。彼らはメルセデスしか知らないんですよね。だからきっとほかのクルマにも乗れることが楽しみだったのかもしれない。妻も結局は「それがお父さんのやりたいことなら応援します」と言ってくれました。家にずっと居たり、ゴルフばっかり行って帰ってきてメシだメシだとうるさく言われるよりはいいと思ったりしたのかもしれませんけれど(笑)。
この半年間は、「BMWって何?」というところから、新入社員のような気持ちで、まだいろいろと勉強している最中です。僕がこれまで体験してきたものとは真逆のものもあるし、それなりに同じようにやっているものもあって、なんかすごく複雑な心境です。こうやるもんだろうと思ったら、違いますよ、それはこうですよって言われてしまったり。そういうことが連鎖するとちょっと頭を抱えてしまう時もあります。自分のなかで、コンパスがすごい勢いでクルクルクルクル回っているような感覚はありますね。
いまの会社にきて、商品そのものがいいとか悪いとかで悩むことはまったくなかったんですけれど、会社によってやっぱり特性というか、業務プロセスとか社内の決まりごととかが違うじゃないですか。僕ももう60歳を超えていますから、人の顔はなかなか覚えられないし、名前も覚えられない(笑)。そのうえホットデスキング(=フリーアドレス)だから、誰かどこに座っているのかも分からないので、最初のうちはそういうことにも苦労しました。でも、徐々に慣れていって、ようやくみんなの前でやりたいことをひとつずつお願いというか、共有していっているところです。当然、まだ伝えきれていないこともあるし、今までのビー・エム・ダブリューのやり方を壊したいわけではないので、これを継承しながらよりよくクルマを売れるようにできないかと考えています。
上野金太郎さんは2026年4月1日付でBMWの代表取締役社長に就任。かつてメルセデス・ベンツ日本の社長・会長を歴任した人物ゆえに、その第一報には多くの自動車メディアの関係者がエイプリルフールのネタだと勘違いした。
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当初は社内プロセスの違いなどに戸惑ったという上野社長。ようやく自身のやりたいこと、目指したいことを伝えられるようになってきたところだという。
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<上野金太郎さんプロフィール>
1964年東京生まれ。1987年にメルセデス・ベンツ日本株式会社に入社。2007年に代表取締役副社長(メルセデス・カーグループ営業/マーケティング部門担当)に就任し、以後は2013年に代表取締役社長兼最高経営役員を、2024年にメルセデス・ベンツ日本合同会社会長を歴任。2025年の株式会社ティーアイ・ホールディングス代表取締役社長就任を経て、2026年4月1日付けで現職に。
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