
箱根駅伝常連校のプライドが、酒井俊幸監督の次の言葉に集約されていた。
「少し取りこぼしはありましたけど、他のメンバーがそれを取り返してくれました。『怯まず前に!』ということで、宮崎(優・3年)も想定以上にタイムを稼いでくれましたしね。それで予定通りの(10時間) 31分台が出せたかなと思います」
熾烈を極めた箱根駅伝予選会で、トップ通過を果たしたのが東洋大学だ。
前回の箱根駅伝で14位となり連続シード記録が20年で途切れたが、21年というブランクをものともせずに、この予選会では10時間31分30秒の好タイムを叩き出した。
際立ったのは、主力層の安定感だ。エース格の宮崎が留学生並みの記録(1時間01分05秒で個人4位)でタイムを稼ぐと、1時間2分台が3人、3分台が5人と計9人もの選手が100番以内でフィニッシュ。チーム10番目の1年生こそ118位だったが、それでもタイムは1時間4分06秒とルーキーであれば及第点を付けられる走りだった。
4位に入った専修大学も9人が100番以内、10番手が113位でフィニッシュしているが、上位10名の総合タイムでは東洋大と2分12秒もの差がついている。
運命を分ける“1秒”
なぜ、東洋大の選手は本番で自分たちの力を出し切れるのか。
ボーダーギリギリの10位に滑り込んだ法政大学の坪田智夫監督が、こんな話をしていたのが印象的である。
「このコンディションでも皆しっかり走ってきますので、上位に入った大学は非常にレベルが高いと思います。うちも前日までの調整や練習の流れは非常に良かったんですけどね。今日のタイム(10時間40分08秒)は想定よりも5分ほど悪い。ただ、力的にはそんなに劣ってると思えないんですよ。何かこう集団で走る心理だったり、プレッシャーがあったのか……。まだしっかり分析もできないんですけど、このチームで10位っていうのはちょっと腑に落ちないですね」
5分といえば、ひとりにして30秒ほど。ハーフマラソンの距離を走って200m程ずつ競り負けた結果が、これだけの順位差となって現れてしまう。上位10名の合計タイムで争う、予選会ならではの厳しさだろう。
7位で通過した大東文化大学の真名子圭監督は「望んだ順位ではなかった」と肩を落とし、「あとひとつ届かなかった」という国士舘大学は法政大に1分46秒及ばず11位で涙をのんだ。
大舞台で力を発揮するのは決して簡単なことではない。なぜ、という問いに、東洋大を主将として引っ張る薄根大河(4年)は笑顔で応えた。
「自分たちは『1秒をけずりだす』チームなので。事前に監督にも、その1秒が本当に運命を分ける1秒になるかもしれないから、そこは絶対に大事にやっていこうって言われてました。そのスローガンの持つ強みとかも生かしながら、今日は全員がよく走ったと思います」
目指す走りのイメージを短い言葉で共有し、苦しくなったときにそれを心の支えとする。もちろん、強さの土台には練習で培った確かな走力があるが、どのような哲学をチームで持つか、言葉の力は侮れないのかもしれない。
