Epic GamesのCEOであるTim Sweeney氏が、X上で「Valveがゲーム業界を停滞させてきた」と発言したことが波紋を呼んでいる。同氏は、Epic Gamesの元主任アニメーションプログラマーであるKiaran Ritchie氏が投稿したSteamの“ストア税”の高さに対する苦言を支持するかたちで、クロスプレイ構築の難しさなどに関する持論を展開している。
発言の発端となったのは、Steamで56万ドル(約8850万円)を売り上げながら、最終的な取り分が7万3000ドル(約1150万円)しか残らなかったというゲーム開発者Omer Mustafa氏のRedditの投稿だ(関連記事)。
Mustafa氏はインディーゲームデベロッパーNorthend Gamesの共同創業者として2作品をSteamで販売し、5年間で56万ドルの売上を達成。しかし、返金やパブリッシャーへの分配、そして売上の30%がSteam運営元のValveに徴収されるいわゆる“ストア税”等が差し引かれた結果、最終的にMustafa氏の手元には売上の約13%にあたる約1150万円しか残らなかったという。とはいえ同氏の投稿には、計算の仕方などを疑問視する声も寄せられていた。
Ritchie氏は、X上でこのケースを紹介した投稿を引用。開発者の収益を守ることができる、Steamに代わる配信プラットフォームが切実に必要とされていると訴えた。開発者が収益を保持できれば、より多くの優れたゲームの選択肢と、はるかに多くの経済的な成功事例が生まれるはずだと力説している。
It’s really sad that the games industry is drained by a 30% tax on gross revenue.
You could vibe code a Steam alternative in a week. Cloudflare egress is basically free.
The industry is in desperate need of a distribution platform that allows developers to keep their revenue.… https://t.co/XkCAJufXgg
— Kiaran Ritchie (@kiaran_ritchie) October 26, 2026
実際にSteamの手数料は、競合プラットフォームと比べると高めの数値となっている。Steamでは基本の割合を30%とし、1000万ドル(16億円)を超えた部分に対しては25%、5000万ドル(80億円)を超えた部分に対しては20%と適用される割合が低下する仕組みとなっている。“減税”があるとはいえ、Steamは小規模デベロッパーやインディー開発者の間でも広く利用されているプラットフォームであり、基準を満たせずに30%の手数料を払う作品が大多数だろう。対して、Epic Gamesストアでは、年間100万ドル(約1億6000万円)まで手数料は0%となり、それ以上の分には12%が適用されるシステム。またMicrosoft StoreでのPCゲームの販売手数料は一律12%という設定であり、それぞれSteamの設定よりも低いわけだ。
とはいえ、PCゲームの配信プラットフォームとして、Steamがユーザーベースで大きなアドバンテージを持つのも事実だ。Ritchie氏は、生成AIの補助を借りながらコーディングをおこなうバイブコーディングを使えば、Steamの代替品は1週間あれば作れると主張。だが、利用者が増えるほどサービスの価値や利便性も高まる「ネットワーク効果」や、すでに構築されたユーザーのSteamライブラリへの執着が、ユーザーがSteam以外を利用するのを難しくしている点を指摘し「Steamに唯一残された価値はそのネットワークだけだ」との意見を投稿した。過去にもSteamの強みとして、単なる販売プラットフォームである以上に、ユーザー間のコミュニティが形成されている点が挙げる業界関係者の声は聞かれてきた(関連記事)。
こうしたRitchie氏の意見に対し、Xのユーザーからは賛否両論の多くのコメントが寄せられた。特にこの発言が注目された理由のひとつには、まさにEpic Gamesが10月14日に、バイブコーディングを使用して開発されたというEpic Games Launcherのプレビュー版を発表したばかりだということも挙げられるだろう(関連記事)。同ランチャーは、Steamライブラリと比べた起動の速さなどがアピールされていた。

同氏の発言に対しては、Steam開発者向けツールのSteamworksは広範なサポートを提供しており、開発者もSteamを選ぶ意味があるとの反論もあった。これに対しRitchie氏は、それほど価値があるならばサービスを利用した分支払うアラカルト方式にすべきだと主張。しかし誰も喜んで売上の30%の金額を支払おうとはしないため、そうした方式が採用されないのだと反論した。つまり同氏は、Steamworksが提供するサービスの価値は、30%のストア税を正当化するほどではないと考えているわけだろう。
Exactly this. Valve has held gaming back for years by locking developers’ PC games into Steamworks’ social walled garden where players can’t talk to other players on iOS, Android, Xbox, PlayStation, Switch, or even other PC stores.
— Tim Sweeney (@TimSweeneyEpic) October 27, 2026
こうした議論にTim Sweeney氏も加わり、Ritchie氏の意見に対し「まさにこの通りだ」と同調。Sweeney氏は、Valveが何年もの間、PCゲームをSteamworksの閉鎖的なソーシャル環境に囲い込み、ゲーム業界を停滞させてきたと主張。そうした環境で、プレイヤーはiOS、Android、XBOX、PlayStation、Switch、あるいは他のPCストアのプレイヤーとさえ交流できないとの持論を述べている。
^ New frivolous community note incoming. Correct, Valve doesn’t kidnap you and force you to use Steamworks. You can use your own account and social solution, start from zero, and try to grow amidst review bombings pressuring the developer to adopt Steamworks and be locked in.
— Tim Sweeney (@TimSweeneyEpic) October 28, 2026
この発言はさらに議論を呼び、この投稿には本稿執筆時点で700以上のリプライが寄せられている。そしてこの投稿には「Steamworksの利用を強制されているわけではなく、多くのゲームはクロスプレイを可能にするための認証にのみSteamworksを使用し、残りの処理は独自におこなっている」と、Xユーザーからコミュニティノートが付けられることに。これに対し、Tim氏はSteamworksの利用は強制ではない点は認めつつも、開発者が独自のアカウントやソーシャル機能をゼロから構築する場合、Steamworksへの対応を求めるユーザーからいわゆるレビュー爆撃を受ける可能性があると反論した。先述したような“閉鎖的なソーシャル環境”を問題視する意図があるとみられる。
なお、Epic Gamesは開発者向けに、Epic Online Services(EOS)と呼ばれる無料のマルチプレイ向けクロスプラットフォームサービスを提供している。同サービスを利用した作品では、オンラインプレイ時や初回起動時にEpic Gamesアカウントへのサインインが必須となる場合もあり、採用する作品のSteamユーザーレビューにてしばしば批判が集まることもあった(関連記事)。独自のアカウントシステムを導入することに対しては、実際にSteamユーザーから反発が生じるケースもあるわけだ。
PCゲーム市場は事実上Steamが圧倒的なシェアを有する状態が続いている。Epic Gamesは競合サービスであるEpic Gamesストアを運営しており、CEOのTim氏は長らく30%のストア税をはじめ、Steamのさまざまな点を批判してきた。今回はSteamの強みともいえるソーシャル環境を槍玉に挙げているわけだ。
一方でTim氏が唱える「Valveがゲーム業界を停滞させてきた」という主張には議論の余地もあるだろう。Steamは、ユーザーの好みにあわせたゲームをおすすめするさまざまなキュレーション機能を備えている。こうした仕組みを通じて多様なゲームが注目を集め、インディーゲームのヒット作が生まれる土壌を形成してきた側面もある。Steamへの市場の集中を懸念する意見もある一方で、Steamが業界にもたらしてきた恩恵も無視できないだろう。少なくとも今回の議論はSteamの競合サービスを運営するEpic Gamesの元スタッフや、CEOであり長年Steamをあの手この手で批判してきたTim氏が発端となっている点には留意したい。
