山中夏雄コーチ インタビュー
(左から)錦織圭と山中夏雄氏[画像/山中夏雄](山中夏雄)
tennis365.netは男子テニスで日本のトップ選手として活躍してきた錦織圭、西岡良仁、内山靖崇、望月慎太郎、坂本怜らのジュニア期をサポートしてきたテニスコーチの山中夏雄氏にインタビューを実施。指導の際に意識していることや、錦織の現役引退、今後の日本テニス界について話を聞いた。
山中氏は小学6年生のときに父の仕事でイギリスに移り住み、このとき家族に連れられB・ボルグ(スウェーデン)とJ・マッケンロー(アメリカ)のウィンブルドン(イギリス/ロンドン、芝、グランドスラム)決勝を観戦。当時テニスをまだやっていなかった山中氏は両者の個性溢れるプレーに魅了され、テニスを始めることとなった。
その後は選手として腕を磨くも怪我の影響もあり21歳で選手としての活動を終了したが、テニスを始めるきっかけとなったウィンブルドン決勝の衝撃、テニスの楽しさや自身を献身的にサポートしてくれたコーチたちへの尊敬の念や憧れから、引退後は迷いなくテニスコーチとなる道を選んだ。
以降は女子選手のツアーコーチを務め、日本のナショナルチームのコーチも歴任した。そして、その後は日本のジュニア選手の挑戦を支援する盛田正明テニスファンドのコーチとして渡米し、アメリカのIMGアカデミーを拠点に特に日本の男子選手の育成に尽力してきた。
その山中氏は現在、特別顧問を務めるBreakthrough Tennis Academyで日本テニスの裾野を広げるため、日本でジュニア選手たちの指導も行っている。Breakthrough Tennis Academyは、世界のテニスを知る山中氏から直接指導を受けられるジュニアキャンプや、地域の指導者に向けた講習会などを日本各地で開催。世界の第一線で培われた指導や考え方に直接触れられることが大きな特徴となっており、住んでいる地域や現在の競技レベルに関わらず、世界のテニスを身近に感じ、新しい考え方や価値観に出会う機会を届けている。
子どもたちには、失敗を恐れず新しいことに挑戦し、自分の可能性を広げるきっかけを。日々の育成を支える指導者には、新たな気づきや刺激を。そうした経験の積み重ねが、子どもたちの成長、そして日本テニス界の未来につながるという信念のもと活動している。
11月には東京・埼玉・静岡の3都市でジュニアキャンプなどのイベントを控えるなか、山中氏は今回tennis365.netのインタビューに応じた。
Q. 選手を指導する際に意識していることは?ジュニアとプロで違いはある?
意識というところでは、変わりはないです。僕の中では個性をちゃんと見て、個性を育てるというか、個性を邪魔をしないというところが根底にあります。それはジュニアもプロも僕は一緒だと思います。
性格もみんな違うし、育ってきた環境も違う。もちろんプレースタイルも違うし、こちらが何か指導した時の物事の受け取り方、受け止め方、処理の仕方もみんな違う。体つき、骨格、筋肉、やっぱり全部が違うので、完璧は難しいですけど、できるだけそこを見るようにして接しています。
Q. 技術面で指導の際に重視していることは?
身体のバランスであったり、コーディネーションなど、絶対的な基礎というのはある程度共通のところはあると思いますが、技術面でいくと、選手によって使えるスピードも違うし、使える回転も違うし、使える高さも違うし、タイミングも違う。それは技術の世界なので、まずその選手が今現時点で何が使えて、どこが強みなのかというのを考えています。弱点を見るよりも、強みを先に見るようにしてきました。
特にジュニアの年代は、もちろん弱点もやりますが、弱点よりも強みを上乗せしていくという作業を大事にしています。
Q. 日本には以前からジュニアで世界ランキングトップ10に入るような選手が多くいるが、プロになると世界ランキングで上位に入る選手が少なくなる。ジュニアからプロに移行し、そこからさらにトップ選手になるために必要なことは?
ジュニアからプロになって日本人のジュニアのトップ選手が下手になっているわけでもないし、通用しなくなっているわけでもないんです。
ただ、他の選手たちがボールが入るようになったり、グラグラしていた大きな選手たちの身体がしっかりしてきて落ち着いてきたりとか、気持ちのアップダウンが激しかった選手がコントロールできるようになってきたり、プロになると周りの弱点が減っていきます。周りの選手の気持ちと身体の成長がともに追いついてきて、だんだん離されていくことがあると思います。
だけど、そこで1つ間違えてしまうのは、周りが強くなっていると思ってしまって、自分がやってきたことを少し否定してしまい、全く真逆のところに走ってしまう。これは逆効果です。自分が積み上げてきたもの、強みとしてきたものは、続けていってさらに磨いていかないといけません。
さらに、それだけでは追いつけないので、自分に足りていないもの、弱点と言われているところは足していかないといけないです。
変わらないでいいものはちゃんと大切に育てながら、足していくものをちゃんと冷静に分析して、少しずつ足していくという作業をやっていかないといけないと思います。
Q. 錦織選手をはじめプロの世界で活躍していく選手を見届けてきたが、そういった選手たちの共通点は?
まず、非常に対応力があります。対応していくことを続けていくと、それがたくましさに変わっていくと思っています。
外国でプレーしていると、色々な選手と様々なコートで試合をすることになります。色々な環境で試合をして勝ち抜いていかなければいけないという中で、活躍した選手たちは一概にこのショットがいいとか、このプレースタイルだからというわけではなくて、全部ひっくるめて対応力があったと思います。
もちろん対応することを表現する技術は必要ですが、何が起きているのか、起きてることに対して何をしていないといけないのかという物事を感じる力が大事になります。
日本にいるとトップジュニアはそんなにたくさん負けないんですけど、海外に出てきた瞬間に、圭でさえそうでしたが、やっぱりたくさん負けるんですよね。負けて負けて負けて負けて、ある意味プライドもズタズタにされたり、いろんな悔しい思いをしながら、対応力をつけていく感じでした。
Q. ジュニア選手がそのように負けを知っていく際に、選手の自尊心やメンタルが落ちないようにしていたことは?
慰めるとかはしていないです。どちらかというと淡々と接しています。ただやることはやる。勝っても負けても練習はするし、トレーニングもする。食事をとって、睡眠もとる。もちろん修正はしながらも、(勝っても負けても同じことを)毎日毎日続けていくということを、口ではあえて言わないですけど、そうしています。
