バージニア州の投票所で期日前投票を行う人(10月31日、写真:ロイター/アフロ)
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2026年10月28日付)
沼の水を抜くことは、米大統領ドナルド・トランプのテーマの一つだった。最近はあまり耳にしなくなった。
先日、自身の不当な金儲けについて問われた時には、「真の腐敗に目を向けるべきだ。民主党の腐敗だ。ジェフリー・エプスタインの件も含めてだ」と答えた。
心理学者のフロイトなら、誰も尋ねていないのにエプスタインの名前が出てきたことを面白がるかもしれない。だが、頭に思い浮かぶのはマリー・アントワネットだ。
国民があっぷあっぷの暮らしをしている一方でベルサイユ宮殿風の宴会場を建設するために大統領が献金者からカネをゆすっている光景は、国民の目から見れば悪政だ。
腐敗をフェイクニュースとして切り捨てるのはなお悪い。「ホットドッグを食べればいいのに」と言ったようなものだ。
アフォーダビリティー危機と腐敗が同じコインの裏表に
フランスの小作農と違い、米国民には選挙権がある。中間選挙を目前に控えた段階で、有権者が最も不満を覚えているのが腐敗だった。
親トランプ派のフォックス・ニュースが10月に行った世論調査は近年では最も人目を引く調査の一つとなり、回答した有権者の88%が「政府の腐敗」を最大の懸念項目に挙げた。
腐敗を「極度に懸念している」との回答も60%を占めており、そこには共和党支持者の半分近くが含まれていた。
共和党支持者の一部が、政治におけるカネの役割に観念的に反応していた可能性もないわけではない。だが、実際にはそれはありそうにない。
金ピカのトランプ宴会場は、世に知られていない数多くの暗号資産(仮想通貨)取引に匹敵する価値がある。そのけばけばしさは嫌でも目に付く。
それでも、迫り来る共和党敗北から得られる教訓は誇張されるだろう。
トランプが選挙を経て連邦議会の主導権を失ったとしても、米国の有権者は2024年にトランプを選んだ時を上回る勢いでポピュリズムを否定したわけではない。
米国民は生活費の高さに憤慨しているのであって、その難題を解決することはどの政治家にもできないように思える。
今日と2024年との違いは政治の腐敗が話題に上ってきたことだ。米国のアフォーダビリティー(価格の手ごろさ)危機と腐敗は今、同じコインの裏表として扱われている。
生活が苦しい時、人々は経済を一種のゼロサムゲームと見なす傾向がある。あいつが儲かる時は俺が損する。問題の「あいつ」が国の大統領であるだけでなく、派手に荒稼ぎしているとなれば、人々の怒りはさらに強まる。
不幸な国はそれぞれ違うが・・・
不幸な国民はそれぞれユニークだ。
だが、腐敗が蔓延する選挙を経て右翼のポピュリスト政権が先日退陣させられたハンガリーやセルビアのような国々と今日の米国との間では、ムードの重なり合う部分が際立っている。
ハンガリーのビクトル・オルバンは4月に、セルビアのアレクサンダル・ブチッチは10月25日にそれぞれ敗北を認めた。
2人の独裁者は善意からそうしたわけではない。異議を唱えるには大きすぎる勝敗の差が付いたからだ。
トランプが11月3日の選挙の結果を見てどんな反応を示すかは想像するしかない。だが、過去の実績を踏まえて言えば、恐らくどんな結果になっても「不正に操作された」と見なすだろう。
それでも、勝者と敗者の差が大きくなればなるほど、トランプが選挙結果を覆すことは難しくなる。
ここでとびきり重要なのは、独裁者気取りのナショナリストといかさまの蔓延とを有権者が結びつけて考えるか否かだ。
米国の民主党、英国の労働党、フランスの中道勢力を含む各国の中道政党は依然、それぞれの国の病を治す方法についてほとんど何も分かっていない。
アフォーダビリティーは自分が社会から締め出されているという深い疎外感を覚える手がかりになる。
この感覚は、移民をはじめとするあらゆる問題の原因と結びつけられる可能性があり、今日の米国ではたまたま腐敗と結びついている。
しかし、腐敗はある特定の政治傾向の下でしかはびこらない。トランプはその集金力において、民主党や以前の共和党の誰よりも抜きん出ている。
