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    世界の警察として振る舞ってきたアメリカが、いま大きく変わろうとしている。もはや日本が、かつてのようなアメリカの庇護を期待することはできない。一方、日本では依然として大国意識が根強く、過去の歴史と向き合う姿勢も問われている。これからの日本が国際社会で生き抜くために、何が必要なのか。そのカギは、歴史を複眼的に捉えることにあるという。国際政治学者で、​『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からのアメリカ史』に推薦コメントを寄せた三牧聖子氏に聞いた(取材・構成/石井広行)。


    日本のGDPが世界6位になっても「悪くない」…日本人が捨てるべき大国意識と、歴史から学ぶべきことPhoto: Adobe Stock



    歴史に向き合うことは政治の大前提

    ――三牧先生に推薦文をいただいた『14歳からのアメリカ史』は、アメリカの歴史を包括的に扱う本です。現在のアメリカに関心を持った人が、こうした通史を読むことには、どのような意義があるとお考えでしょうか。


    三牧聖子(以下、三牧):トランプ政権は今、奴隷制や、日系人の強制収容といった、後世に語り継がなければいけない「負の歴史」について、これはアメリカを貶めているとか、私たちはこんな歴史を顧みる必要がないといったことを言って、スミソニアン博物館をはじめさまざまな資料館などに圧力をかけて、奴隷制の展示などをやめさせようとしています。そうした意向を忖度して自主的に展示を撤去する動きもあります。


     日本の高市首相にも似たところがあります。侵略戦争の歴史については、二度と起きないよう、記憶して語り継ぎ、二度と起こさないためにはどうすれば良いのか考え続けていかなければならないのに、私は戦後生まれなので戦前の歴史には責任はないし、知りませんよといった、歴史に対する極めて幼稚な姿勢を見せています。


     村山談話に流れるコンセプト、つまり、歴史をしっかり語り継ぎ、負の歴史も見据えること。それが隣国との関係を構築するうえでの前提条件だと思います。ちなみに中国が旧敵国条項の死文化に同意していたのは、1995年のいわゆる「村山談話」の時期です。


     政治を考えるうえでは、国家の歴史や、国際関係の歴史をまず正しく把握することが、最初の前提条件として不可欠なのです。



    国連総会で露呈した日本外交の課題

    ――そういったことは、日本の今後の外交姿勢を考えるうえでも大事になってきそうですね。


    三牧:今年9月の国連総会で痛感したことが一つあります。


     日本の高市首相は、ドイツやイタリアといった利害関係国とのすり合わせを行った形跡もないまま、あたかも国内の反中国感情に向けたアピールのようにして、旧敵国条項の撤廃を主張しました。


     そもそも常任理事国である中国が反対すればそんな主張は通るはずもありません。中国が「新型軍国主義」として日本を名指しで批判していることへの反発だったのかもしれませんが、結果的に、旧敵国条項の撤廃はあの演説によってむしろ遠のいたと言われています。


     一方、日本より人口・経済の規模が小さい他の国は、自国の利害を超えた話を国際会議の場でしているのです。


     たとえばオランダのイエッテン首相。オランダの都市ハーグに国際刑事裁判所(ICC)の本部があることを踏まえ、アメリカに対する牽制として、ICCへの制裁は断固許されないと演説しました。


     カナダのカーニー首相も、多くの国が一堂に会する国連総会の場を最大限に活用しようと、トランプ政権後を見据えるようにして、アメリカ以外のさまざまな国と対話を重ね、ミドルパワーの連携を呼びかけました。


     普遍的な平和の価値や、それを維持するための国際的な枠組みについて発信している国がある中、旧敵国条項という全く緊急性のない議題を取り上げる姿勢には心底がっかりしました。ほんとうに日本外交のスケールは小さくなっているのだと残念に思います。



    GDP6位への低下が見込まれる日本が、今こそ歴史を学ぶべき理由

    ――最後に改めて、ビジネスパーソンをはじめとする大人の皆さんが、歴史を学ぶことの意義についてお聞かせください。


    三牧:やはり歴史は、今の生きた知恵としても必要です。とりわけ、IMFの予測では、2027年に名目GDPが世界4位から6位に低下する見通しとなっている今の日本では、その重要性は増しています。


     日本の近代化の原点を改めて多面的に考え直すことも欠かせないでしょう。明治維新に関しても正と負の両面があります。これは別に、日本の近代化を侵略の歴史としてだけ語るべきだと言っているわけではもちろんありません。大正デモクラシーのように、限界はあるものの、民主主義が進んだ時代もあります。やはり重要なのは、複眼的に歴史を見るという姿勢なのです。


     アメリカの歴史についても同じようなことが言えます。


     250年前に建国され、対外介入を行いながらも、ヨーロッパの国際政治とは距離を置こうとしていたアメリカが、第1次世界大戦への参戦、さらには真珠湾攻撃を受けて第2次世界大戦に参戦し、戦後は世界秩序を主導する役割を担うようになった。


     その後も冷戦で介入主義が続いた後、元の孤立主義に戻ろうとしたタイミングで9.11が起きて、また世界に関与するアメリカに変わってしまった、という大きな流れを把握することが大事です。


     そして今、国内の問題が山積する中、ある意味アメリカは建国された250年前に近い姿に戻っていくのかもしれません。今私たちが見ているアメリカが、どのような歴史に根ざしているかを知ると、アメリカが再び日本のもとに戻ってきてくれるとか、そういった単純な話ではないことがわかるようになります。


     GDP6位への転落を、私は必ずしも悪いことではないと捉えています。日本では今、やや分不相応な大国意識が再び頭をもたげているように思います。日本がミドルパワーとして、アメリカという兄貴に頼らずに生きていくにはどうすればいいのか。ミドルパワーとして生き抜くのはより大変なことなので、必然的に世界に対する解像度を上げていかなければいけません。日本、アメリカ、そして世界の歴史を学ぶことの重要性は、今後ますます増していくのではないでしょうか。

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