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     ハエの神経回路をコンピューター上で動かし、ゲームやクルマを操作させる実験が相次いでいる。背景にあるのが、ショウジョウバエの神経細胞と、そのつながりをほぼ丸ごと記録した「コネクトーム」だ。

     米Howard Hughes Medical Institute(HHMI)のJanelia Research Campusを中心に、Google Research、英University of Cambridge、MRC Laboratory of Molecular Biologyなどの研究チームは、オスのキイロショウジョウバエの中枢神経系全体を対象としたコネクトームを完成させた。Google ResearchはAIなどを使い、電子顕微鏡で撮影した大量の画像からニューロンを3次元的に再構築する技術などで参加した。研究成果は9月3日、学術誌「Cell」に掲載された。

     対象となったのは、脳や視覚を担う部分、昆虫で脊髄に相当する腹側神経索など。16万6700個のニューロンと、それらをつなぐ1億2500万以上の接続を記録した。研究チームはニューロンを1万1710種類に分類している。

     データセット「MaleCNS v1.0」は6月から公開されており、研究者だけでなく開発者も利用できる。

    「ハエの脳」を完全再現したわけではない

     ただし、今回再現されたのはハエの「脳そのもの」ではなく、神経細胞がどうつながっているかを示す配線図だ。

     実際の脳では、神経細胞がどのように電気信号を出すかや、接続の強さ、化学物質の働きなども行動に影響する。こうした要素まで完全に再現されたわけではない。

     一方、配線図が公開されたことで、開発者が神経の働きを単純化したモデルを組み合わせ、外部の機器やゲームを動かす実験ができるようになった。

    DOOMやマリオを操作

     その1つが「DOOMFLY」だ。MaleCNSの16万6700個のニューロンの配線をコンピューター上で再現し、DOOMエンジンを使ったゲーム環境と接続した。

     ゲーム画面をハエの視覚に相当する信号として入力し、神経活動の一部を前進や旋回、射撃といった操作に割り当てる。ゲーム内でダメージを受けた際に特定の神経を刺激し、危険を避けるような学習が起きるかも試している。

     ただし、開発者は現時点で「ハエがDOOMを学習した」とはしていない。神経の働き方やゲーム操作との対応は人為的に設定したもので、生きたハエの脳をそのまま再現したものではない。

     「スーパーマリオ64」を操作する「Fly64」も公開されている。マリオの周囲の映像を神経モデルに入力し、その反応を前進や旋回、ジャンプに割り当てる。

     こちらもAIのようにゲームを訓練したものではなく、ハエの神経配線をゲームと接続するとどのような動きが生まれるかを試す実験に近い。

    クルマを運転する実験も

     ハエの神経回路をクルマの操作に使う試みもある。バイオコンピューティング企業のCommon Originは、ショウジョウバエの脳の配線を使い、レースシミュレーター上のクルマを走らせるデモを公開した。

     使用したのは今回のMaleCNSとは別に、FlyWire Consortiumが2024年に公開したメスのショウジョウバエの全脳コネクトームだ。Natureの論文によると、13万9255個のニューロンと5450万個のシナプスを収録している。

     Common Originは、視覚や移動に関係する神経回路をクルマの操舵に使い、事前に走らせていないコースでも走行する様子を公開している。

     もっとも、この運転実験については査読論文がまだ公開されておらず、現時点では同社によるデモという位置付けだ。

     ハエの脳がコンピューター上に完全再現されたわけではない。それでも、生物の実際の神経配線を使ってゲームや機械を動かせる段階まで来たことは、脳の仕組みを理解する研究だけでなく、新しいコンピューターの設計にもつながる可能性がある。

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