専用フレームや「S-AWC」など走行機構から内装まで技術を解説
2026年9月2日、新型パジェロがワールドプレミアされ、その姿が世界に披露された。本格的な悪路走破性と乗用車並みの快適性を融合させた「クロスカントリーSUV」という素性は初代からの一貫した思想であり、それを新世代のフラッグシップとして新型で磨き直している。加えて今回はフラッグシップにふさわしい上質さを新たに付加したという。ここではその走りを支える技術と、新たに加わった上質さの中身に的を絞って掘り下げたい。
その走りを担うのが、本格的なラダーフレームにリアのリジッドアクスルを組み合わせた骨格だ。一般には舗装路で不利とされがちなこの構成をあえて選びながら、開発陣は「悪路快適性」を重要な指標に掲げ、オフロードの走破性とオンロードの乗り心地を高い次元で両立させたという。骨格から脚、動力、制御へ。静粛性から、内装の作り込みへ。この一台がどんな技術で成り立っているのか。順に見ていく。
トライトン由来のフレームを専用に鍛え直す
新型パジェロの骨格は、長年のラリーや過酷な環境で鍛え上げた知見を活かした高剛性のラダーフレームだ。同社のピックアップトラックであるトライトンのそれをベースとしながら、パジェロ向けにかなり手を入れて専用開発。高張力鋼板の採用を広げ、フレーム断面積を拡大するなどして、軽量化を図りながらねじり剛性と曲げ剛性を大幅に高めている。クロスメンバーの追加や補強も専用に施され、操縦安定性と乗り心地、そして高い信頼耐久性を両立させたという。

海外で展開するパジェロスポーツも同じくラダーフレームを持つが、開発陣はこれの作り分けというよりも、パジェロを磨き上げたものと位置づけている。そしてフラッグシップに求める性能のために、フレームは新設計する。その判断がこの一台の土台を決めている。
走破性と乗り心地の両立を目指したサスペンション
骨格の次に走りを左右するのが、路面と車体をつなぐ脚。新型パジェロはフロントにダブルウィッシュボーン式、リアに新開発の5リンク式リジッドを採用。優れた路面追従性と高い悪路走破性を確保しつつ、自然なステアリングフィールとフラットで快適な乗り心地を狙ったものだ。
もっとも、ラダーフレームにリアリジッドという組み合わせは一般には悪路走破性向きで、舗装路の乗り心地には不利と見られがちである。開発を担った松本貴明CVEは、その両立の難しさを認めたうえで、狙いどおり仕上げたと語る。サスペンションそのものはもちろん、ブッシュ類やボディマウントを徹底的にチューニングし、走ってはつめる作業を何度も繰り返した。その結果、小さな凹凸を上手にいなし、フレーム車に乗っている感覚をあまり抱かせないフラットな乗り味に仕上げたとする。

開発では単に悪路を走破できるだけでなく、荒れた路面や長距離でも乗員が快適に過ごせることを目標に掲げた。そのために「悪路快適性」を重要な指標として設定し、オフロード性能とオンロード性能の両立を追い込んでいる。当然悪路を走れることは大前提にあり、その先の快適さまでを設計目標に置いたことが、この脚の考え方。
新開発ディーゼルと8速ATが生む力強さ
土台となる骨格と脚に力を与えるパワートレインとして搭載したのは、ワイドレンジのシングルVGターボを備えた専用開発の2.4Lクリーンディーゼルエンジンだ。ベースはトライトンと同じ4N16型ディーゼルだが、新型のワイドレンジシングルVGターボによって新世代化したと、板垣邦俊CPSは説明する。

最大トルクは480Nm(試作モデル)とし、発進時から高速域まで力強くレスポンスの良い加速を実現。それに組み合わせたのは、新開発のスポーツモード付き8速オートマチックトランスミッションだ。ギヤレシオをワイドに取ることで、発進時の力強さと高速走行時の静粛性、燃費の良さの両立を狙ったという。スムーズで滑らかな変速フィールにより、オンロードからオフロードまでドライバーの意図に忠実な加速と優れた静粛性を両立する。
これらパワートレインにより、厳しい排ガス規制に対応しながら力強いトルクと滑らかな加速を両立させた。数字の派手さよりも、扱いやすさと質感で走らせるディーゼルである。
先代から見直した四輪制御と駆動力配分
骨格・脚・動力を、状況に応じて働かせるのが四輪の制御系である。新型パジェロは、世界の過酷な環境で磨いてきた4WDシステム「スーパーセレクト4WD-II(SS4-II)」を継承しつつ、新たに車両運動統合制御システム「S-AWC(スーパーオールホイールコントロール)」を採用。SS4-IIは、2H(後輪駆動)、4H(フルタイム4WD)、4HLc(センターデフロック)、4LLc(ローギヤとセンターデフロック)の4つの駆動モードを任意に選べ、オフロードの走破性とオンロードの操縦安定性を両立する。

制御の考え方は先代のそれからより進んだ。松本貴明CVEによれば、名前こそ同じSS4-IIだが、先代とまったく同じではなく、前後の駆動力配分を見直しているという。先代は旋回性を重視して後輪寄りに配分していたが、新型は安定性を重視し、前後の駆動力配分を40対60(前40対後60)とした。そのうえで、旋回性は新たに搭載したS-AWCで確保するという考え方に改めている。
三菱の電子制御技術を結集したS-AWCは、この前後配分に加え、フロントブレーキで左右輪間のトルクを制御するAYC、滑りやすい路面で駆動力を最適に配分して安定性を高めるASTC、制動時のタイヤのロックや横滑りを防ぐABSを統合制御。路面状況やドライバーの操作に応じて4輪の駆動力と制動力を最適化し、さまざまな天候や路面で安定した走りを支える仕組み。
これに路面に合わせたNORMAL、ECO、GRAVEL、SNOW、MUD、SAND、ROCKの7つのドライブモードを備える。ブレーキには18インチの大径ローターと電動ブースターを採用し、安心感の高い制動フィールとした。走破性を担うハードを、状況に応じて過不足なく使い切るための頭脳がこの制御系である。

数字が語る車体寸法と取り回しの良さ
こうした骨格・脚・制御がどんな素性の車体に載っているのか。ボディサイズは全長4920mm、全幅1925mm、全高1910mm、前後トレッド1630mm、ホイールベース2870mmとしている。

最低地上高は230mm、アプローチアングルは30.4度、ランプブレークオーバーアングルは22.6度、デパーチャーアングルは25.8度を確保した。なお全高と最低地上高、各アングルは20インチタイヤ装着車の値である。前後重量配分は52対48に最適化し、ストローク量が多く路面追従性に優れるサスペンションと合わせて悪路走破性を高めている。
いっぽうで日常での扱いやすさにも配慮した。最小回転半径は5.8m、運転席からの視野角は81.7度を確保し、高い着座位置と合わせて車両感覚のつかみやすさと取り回しの良さを狙っている。
徹底した遮音が支える車内の音響体験
乗員が過ごす車内の質に目を移したい。新型パジェロは、高速走行時など環境騒音の大きい状況でも乗員全員が自然に会話を楽しめることを目指し、徹底した遮音対策を施した。フロントガラスに加え前/後のドアガラスにも遮音ガラスを採用し、ボディをはじめ各部に遮音対策を実施。風切り音やエンジン音の侵入を抑え、全席で快適に会話できる静かな室内空間を実現した。

その静けさを土台に、音楽体験にも作り込みが及ぶ。アウトランダー同様、ヤマハと共同開発したプレミアムオーディオ「Dynamic Sound Yamaha Ultimate」を搭載。計12個のスピーカーとデュアルアンプを備え、車速に応じて音量や音質を自動調整することで、ロードノイズの影響を抑える。静かな車内と、それに応える音。移動時間そのものを心地よくするための組み合わせはまさに高級SUVといえる。

欧州発のインテリアが宿す初代への着想
内装の成り立ちからして少し変わっている。新型パジェロのデザインはフランクフルト、東京、岡崎の3つのスタジオによるコンペティションを通じて開発された。このうちインテリアは、欧州スタジオの案が採用されている。案を主導したのは、スペイン人デザイナーのホセ氏。彼は初代パジェロからインスピレーションを得たスケッチを起点に描き進めたといい、その一枚はメディア向けのプレゼン資料にも収められた。

こうして生まれた室内には初代から受け継ぐ水平基調のインストルメントパネルを採用し、機能性と上質な空間を両立している。インストルメントパネルやドアトリムには、日本の伝統工芸「木目込み」に着想を得た縫製技法のソフトマテリアルを用い、立体感と上質感を表現。内装色のキャメルは、自然素材本来の色合いを追求しながら、汚れの目立ちにくさにも配慮している。

コクピットまわりに目を向けると視認性に優れた2枚のワイドディスプレイで構成されるモノリスディスプレイを備える。その中にはパジェロ伝統の3連メーターを現代的に進化させたマルチメーターを組み込み、GPSやジャイロセンサー、車速などの情報から走行状況をわかりやすく表示。さらに、時間の経過に合わせて背景がリアルタイムに変化するライブバックグラウンドを用意し、全16種類のビジュアルを楽しめる。
走破性と快適性そして上質さを技術で結実させた一台
専用開発のラダーフレームに始まり、脚、動力、四輪の制御、そして車体の素性。新型パジェロの走りは、悪路を走破する力と舗装路で快適に流す質を、同じ一台の中で成立させることを狙って組み上げられているといえる。
その車内には徹底した遮音による静けさとヤマハと磨いた音、そして成り立ちからこだわった内装が用意される。ステアリングを握る時間も、また同乗している時間も、フラッグシップにふさわしいものに。派手な最高数値で押すのではなく、悪路快適性という指標に象徴される、両立の作り込みで価値を示そうとするクルマである。その仕上がりが実際の走りでどう表れるのか。それは試乗の機会を待ちたい。
【三菱自動車・新型PAJERO 主要諸元(※国内仕様車、2026年9月2日時点)】
駆動:4WD (Super Select 4WD-ll)
ボディカラー:ホワイトダイヤモンド/ジェットブラックマイカ
インテリア:セミアニリン本革(キャメル)
乗車定員:7名
全長×全幅×全高[mm]:4920×1925×1910
ホイールベース[mm]:2870
トレッド(前/後)[mm]:1630/1630
室内長×室内幅×室内高[mm]:2775×1575×1235
最低地上高[mm]:230
アプローチアングル[度]:30.4
デパーチャーアングル[度]:25.8
ランプブレークオーバーアングル[度]:22.6
車両重量[kg]:2460
エンジン:2.4Lディーゼルターボ
総排気量[cc]:2439
最大出力[kW/rpm]:150/3500
最大トルク[N-m/rpm]:480/1750-2500
トランスミッション:8速AT
サスペンション[前/後]:ダブルウィッシュボーン式独立懸架コイルスプリング/5リンク式コイルスプリング
ブレーキ[前/後]:ベンチレーテッドディスク
タイヤ[前/後]:255/55R20
※上記は開発段階の情報を含む
※最終的な量産仕様や各市場で販売される車両の仕様とは異なる場合もあります
【詳しくはこちら】
https://www.mitsubishi-motors.co.jp/lineup/pajero/special/index.html(新型パジェロ特設サイト)
https://www.mitsubishi-motors.co.jp(三菱自動車オフィシャルサイト)
