アップルの「Apple Watch Series 12」と「Apple Watch Ultra 4」は、外観だけを見れば前世代から大きく変わっていません。Series 12は42mmと46mm、Ultra 4は49mmというケースサイズを継承し、デザインの基本も同じです。発売から11年を超えたApple Watchの形が、すでに高い完成度に到達していることの証しでもあると言えるでしょう。
しかし、今回の新製品を「変化の少ないモデル」と捉えるのは早計です。新しいヘルスセンシングシステムとAppleシリコン「S11」を同時に搭載したことで、中身は大きく変わりました。現在利用できる新機能だけでなく、今後のSiri AI、ヘルスケア、ワークアウトを発展させるための豊かな伸びしろを獲得したからです。
新しいApple Watchの実機を試しつつ、米アップル本社で取材した開発背景に関連する情報を加えながら、2026年モデルのApple Watch Series 12とUltra 4の実力をレポートします。
生体データをきめ細かく測れるヘルスセンシングシステム
Apple Watchを手首に装着すると、背面に搭載する心拍数センサーにより、常時バックグラウンドでユーザーの心拍数測定が行われます。従来は、おおむね5分間隔で計測が行われていました。ワークアウト中を除けば、おもにユーザーの身体が静止しているタイミングで測ります。そのため、得られるデータは安静時を中心とした定点観測になりがちでした。
Series 12とUltra 4では、バックグラウンドでの心拍数測定が従来の約5分ごとから5秒ごとになり、測定頻度は約60倍に高まります。心拍間隔のゆらぎを示す「心拍変動」(HRV)も、安静時には最短約5分間隔で取得され、測定頻度は従来比で最大24倍になります。座っている時間だけでなく、歩く、階段を上る、荷物を運ぶといった日常的な動作の間に身体がどう反応したのかを、より細かく振り返れるようになります。
これを実現したのが、新しいヘルスセンシングシステムです。光学式心拍センサーは、大型化したグリーンLEDと、リング状に配置したフォトダイオードを採用。背面クリスタルの透明部分と不透明部分を一体成形することで、光学部品を効率よく配置しました。
電気心拍センサーの電極も、従来の2個から32個に増やし、接触面積は24倍になりました。アップルは、この独特な形に配置された電極を「ペタル(花びら)システム」という愛称で呼んでいるようです。
このヘルスセンシングシステムは、電極と肌の接触を安定させ、心電図の信頼性を高める意図から開発され、Series 12とUltra 4に新しく搭載されました。
Apple S11が電力消費を賢く制御
測定頻度が60倍になれば、単純に考えると消費電力も増えてしまいます。そこで重要な役割を担うのがApple S11です。2コアCPU、1コアGPU、4コアNeural Engineを備え、CPUには機械学習処理を担うNeural Acceleratorも組み込みました。S11は、iPhone 18 Proシリーズに搭載された「A20 Pro」の設計思想に基づいて開発されています。
特に重要なのが、メインプロセッサを常に起動しなくてもバックグラウンド処理を続けられる次世代のAlways-On Processor(常時オンプロセッサ)です。高頻度の心拍測定に加え、転倒検出や不規則な心拍の通知など、従来からある常時監視の機能を維持しながら、さまざまなタスクの電力消費を抑えます。
Series 12は、通常使用時のバッテリー駆動時間が公称で最大24時間。数値自体は前世代と変わりません。それでも、測定頻度を大幅に高められたことが、S11の電力効率向上の証左です。15分の充電で最大12時間使える高速充電も実用性を高めています。Seires 11は、15分で最大8時間までの高速充電に対応していました。筆者は通常、就寝前の時間にApple Watchを充電しています。約30分で最大80%のチャージができる仕様は、筆者が長く使ってきたSeries 10から変わりません。寝支度の間にほぼ満充電にできている感覚は一緒です。
Ultra 4は、通常使用で最大50時間、低電力モードで最大84時間へ延びています(Ultra 3はそれぞれの最大が42時間/72時間)。長時間に及ぶワークアウトやアウトドアスポーツで活躍するスマートウォッチとしての信頼性を高めました。
準備度アプリで自身のコンディションを俯瞰する
高密度の心拍数とHRVデータを活かす代表的な新機能が「準備度」です。
最近の活動量、トレーニング負荷、睡眠、バイタルを分析し、その日にどれほど活動できる状態なのかを0〜10のスコアと4段階の評価で示します。
準備度は、ユーザーに運動することや休養を取ることを強く促すことを目的とした機能ではありません。ただ、実際には活動量の多少、睡眠リズムの良し悪し、心拍数やHRVの状態などをユーザーが俯瞰しながら、それぞれの結び付きを直感的に理解するため、役に立つ指標になりそうです。
準備度はアプリ化されていますが、iPhoneのフィットネスアプリから成果を振り替えることができます。7日間連続でApple Watchを身に着けて計測したバイタルデータの基準値に基づいて、準備度の指標が出力されます。残念ながら、筆者がこのレポートを執筆している段階では、まだ数日分のデータしか貯まっていないので、実際の成果を披露することができていません。基準値が一度確立されれば、以降は就寝時だけでなく日中にも更新されるようになります。
自分の身体がその日にどの程度の負荷に対応できる状態なのかを把握できていれば、ジムでしっかりとトレーニングしてよいのか、あるいは今日は無理せずに休むべきなのかなど、効果的なコンディションづくりができそうです。
準備度は、新しいヘルスセンシングシステムを搭載するApple WatchのSeries 12とUltra 4のみで使えます。筆者は、この機能を毎日活用したいので、Series 12に買い替えることにしました。
Apple Intelligenceとの関係がさらに深まる
Apple S11はヘルスケア系の機能だけでなく、Apple Watchが周囲の状況を理解するためのインテリジェントなプラットフォームにもなります。
Siri AIは、watchOS 27で英語からベータ提供が始まり、日本語には10月に対応する予定です。パーソナルコンテクストを理解するSiri AIが手首で簡単に使えるようになれば、iPhoneやMacのプラットフォームにも統合されるSiri AIとの連携もよりスムーズにできそうです。
Apple Watchで利用できるApple Intelligence関連の新機能のひとつに、「Audio Intelligence」があります。
Audio Intelligenceには、日本で購入直後から使える機能と、今後の提供を待たなければならない機能があります。発売当初から利用できるのは、サイレンやドアベルなどの音を検知して知らせる「サウンド認識」と、Shazamと連携して周囲で流れている楽曲を調べられる「音楽認識」です。
Apple Watch Series 12で音楽認識を試したところ、検索結果を表示するまでのレスポンスが驚くほど速くなっていました。従来は、カフェなどで気になる楽曲が聞こえていたら、まずShazamアプリを起動していました。Series 12では、楽曲が再生されている環境でダブルタップ操作から「スマートスタック」を起動すると、Shazamのウィジェットに聴き取った楽曲の情報が表示されています。
一方、直前15秒間の会話を文字化する「ライブリワインド」と、会話の要点をApple Intelligenceが整理する「Siriリキャップ」は、米国英語から先行導入されます。日本語への対応時期は発表されていませんが、実現すれば日常生活の「音声をクリッピングできるウェアラブルデバイス」として、Apple Watchが活躍する場面がさらに広がりそうです。
米国からスタートする新機能も多数。日本上陸に期待
これから新しいApple Watchの購入を検討される方は、ふたつのことにご注意ください。
ひとつは、高血圧パターンの通知です。日本では、2025年12月からwatchOS 26を導入したSeries 9以降、またはUltra 2以降のApple Watchで利用できる機能ですが、Series 12とUltra 4は新しいヘルスセンシングシステムに関連する追加の規制承認が必要となるため、発売時には高血圧パターンが利用できません。アップルは、2027年中の提供開始予定であると伝えています。
また、Apple Intelligenceを活用して健康データから個別の気づきを示す「インサイト」や、長期的な変化を読み解く「長寿」「ヘルス年齢」など、刷新されるヘルスケアアプリの主要機能も、今年後半に米国英語から始まります。日本のユーザーが試せる時期はまだ少し先になりそうですが、Apple Watchで自分の健康年齢を把握できたら話題になるでしょうし、役にも立ちそうです。これらは、Apple Watch Series 12とUltra 4だけの機能ということではなさそうです。また追加取材できる機会を探ってみたいと思います。
外観が変わらないことは、進化が止まったことを意味しません。Series 12とUltra 4は、身体の変化をより高い解像度で捉え、Apple Intelligenceによって意味のある情報に変えるための強力なプラットフォームを手にしました。このシステムがこれから将来、アップルが商品化するウェアラブルデバイスによるヘルスセンシングの基本形になると筆者は期待しています。
著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら
