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    レポート◉湯越慶太 モデル◉おざきゆかり

    ソニーから全く新しいコンパクトシネマカメラ「FX5」が発売されました。

    今回、幸いにも発売前の筐体をお借りしてテストさせていただく機会を得ましたので、どんなカメラなのか? 特に多くの人が気になっているポイントであろう、「これはFX3の後継機なのか?」という視点もやや多めで解剖してみたいと思います。

    最初にお伝えしておくと記事としてはFX3との比較を軸にしているものの、結論から言うと、FX5はFX3とは全く異なるセグメントの上位機種であり、あらゆる面がアップデートされていると同時に、FX3からの「気軽なステップアップ」を単純に推奨していいのか? と躊躇するくらいには何もかもが違う、完全なプロ仕様のカメラとなっています。それではいってみましょう。

    外観はFX3をはじめとするコンパクトラインを踏襲

    FX3が発売されたのは2021年3月。気がつけば、もう5年以上が経っています。後継機が出るにしても時間がかなり経っている感は否めません。

    FX3は大規模な機材予算を持たない若いビデオグラファーにとっての入門機でありながら、そのまま本気の仕事にも持ち込め、CM、MV、ドキュメンタリー、ウェディング、企業映像と、ジャンルを問わず多くの現場で使われてきました。

    4K/120p、10bit 4:2:2、S-Log3、優秀なAF、ボディ内手ブレ補正と、現在でもそのスペックは全く色褪せていません。

    ただし2026年という地点から振り返ると、さすがに「世代」を感じる部分も出てきました。

    他メーカーを見ると、コンパクトな動画機でもオープンゲートやRAW内部収録といった機能はここ数年珍しいものではなくなっています。FX3の基本性能に不満はないが、この小ささと使い勝手を維持したまま、現在でも遜色ないスペックへアップデートできないか。そう思っていたユーザーは少なくなかったのではないでしょうか。

    FX5登場。「FX3 Mark II」では済ませなかった

    そこでFX5です。新開発の約1660万画素5Kフルサイズ積層型センサーでソニー独自の16bitシーンリニアRAWフォーマット「X-OCN」のカメラ内部収録を実現しました。X-OCNの圧縮率には従来からあるLTに加え、さらに軽量なC1、C2という新しいコーデックも用意されています。ラチチュードは公称15+ストップ。映像エンジンにBIONZ XR2、そしてベースISOは800/4000/12800の3段階。

    さらにFXシリーズとして初めて、センサー全体を3:2で読み出すオープンゲート撮影にも対応。

    発売時点ではX-OCN記録時のみ、最大5K/60p。将来的には2027年8月以降予定のVer.2.00で5K/120p、4K/240p、さらにXAVC S-Iでの3:2オープンゲートにも対応する予定。「とりあえずFX3を5Kにしました」というアップデートではないということがわかるかと思います。また音声入力には32bit floatも対応と、とにかく最新のトレンドが全て入っていると言っても過言ではないパッケージになっています。

    しかも驚くべきはそのサイズ。

    FX3が約129.7×77.8×84.5mmなのに対して、FX5は約132.2×79.0×87.0mm。公称値を単純比較すれば、増えたのは幅2.5mm、高さ1.2mm、奥行2.5mm程度。本体重量も630gから643gへ、わずか13g増えただけです。

    このボディにここまで詰め込んだこと自体に、今回のソニーの本気を感じます。

    外観

    ボディを見て最初に目につくのは、新しい3.5型液晶モニターです。

    FX3の3.0型・約144万ドットから、FX5では3.5型・約276万ドットへ大型・高精細化。そして単純な横開きのバリアングルではなく、上下チルトと横開きを組み合わせた4軸マルチアングル構造、いわゆる「バリチル」方式を採用しました。従来のバリアングル液晶は自撮りや縦位置には強い一方、レンズの光軸と液晶が一致しない違和感がずっとありました。バリチル方式はいくつか他社での採用例があったものの、ソニーのプロ仕様で使われるというのは非常に嬉しいポイントです。

    一方で、少し気になるのはその複雑さ。

    バッグから雑に出され、リグを組まれ、車載され、ジンバルに載せられ、一日に何度も液晶を開閉されるようなハードな制作現場で、この多軸ヒンジが数年単位でどこまで耐えてくれるのかは、正直ちょっと気になるところです。

    数年間にわたる追跡レビューなんてのがあればぜひ耐久性テストしてみたいですが(苦笑)。

    待望のEVF。ただし少々惜しい

    個人的に大きな拍手を送りたいのが、別売のOLEDビューファインダー「DVF-EL1」です。

    0.58型、約707万ドット。DCI-P3相当の色域、10bit表示に対応し、約0.90倍という充分なファインダー倍率。さらに上方向へ約90度まで動かせるチルト機構も備えます。

    自分は以前から「小さな手持ちカメラにこそEVFは必要」だと思っていました。

    晴天下で液晶が見づらいときだけではありません。カメラを顔に押し当てることで保持点がひとつ増え、手持ち撮影そのものが安定します。液晶を覗き込みながら身体から離して構えるのとは、カメラとの距離感がまるで違います。

    このサイズのカメラに、ちゃんと使えそうなEVFを用意したことは素直に歓迎したいと思います。今回テストではほぼこのEVFをつけっぱなしで運用していました。

    ただし、ひとつ大きな問題があり、純正状態ではEVFとXLRハンドルを同時に使えないこと。すでにMID49やTiltaなどのサードパーティからEVF信号とMIシュー接続を延長し、DVF-EL1とXLR-H2を共存させるためのリグが発表されているので、本気で全部載せしたい場合にはサードパーティーに頼ることになりそうです。自分としては録音部との協働だったりと、音にそこまで注力しなくて良いのであれば構図に集中できるEVFは絵作りの面でも大いにメリットがあると感じており、そこまで重大な問題だとは思いませんでしたが、個人で全部入りの映像を作るのであればちょっと面倒になりそうな部分だと思います。

    ふたつの三脚穴に感じる「分かってる感」

    もうひとつ、非常に地味だが好感を持ったポイントがあり、それは底面に三脚穴がふたつあるという点。こういう仕様はカタログではほとんど話題になりませんが、こういうところを見ると「ちゃんと動画の現場で使われることを考えて作っているな」と感じます。

    グリップ周り。RECボタンの他、従来のシャッターの位置は「Grab」ボタンと呼ぶ。

    外観でもうひとつ、少し不思議に感じた部分があります。

    グリップ周りを見ると、FX3から引き継いだボディ上部の動画RECボタンが従来と同じ位置に残される一方、これまで「シャッターボタン」と呼ばれていた人差し指位置のボタンは、FX5では「Grab Button」という名前に変わりました。なんというか、急に事務的で少し愛のない名称になった気もします。

    しかも初期状態では、このボタンを押しても動画収録は始まりません。RECとして使いたければ、自分でボタンアサインを変更する必要があります。

    メニューから撮影思想まで、今回のFX5はかなり徹底して「スチルカメラの派生機」から離れています。それならば、カメラを握ったとき人差し指が自然に乗るこの場所こそ、最初からメインのRECボタンにしてしまってもよかったのではないでしょうか。

    それでもソニーは、わざわざ二段押しのボタン機構を残し、「REC」ではなく「Grab」という名前を与えています。

    単なるハードウェア上の名残なのか。それとも今後、電子シャッターによる簡易的な静止画撮影やフレームグラブのような機能を想定しているのか。現時点では分かりません。個人的には、それ以上に「だったらここを最初からRECにしてくれればいいのに」と思ってしまいます。

    メニューも、もう「αの派生」ではない

    メニューはどうでしょう。

    「menu」ボタンを押すと表示される画面。長押しでさらに詳細な設定に行ける。

    背面液晶は「BIG6」メニュー表示が可能。

     撮影画像の外周部に情報を表示した、VENICEやBURANOと同じ表示形式を採用。

    深層のメニューはFX6などを使っていれば馴染み深い。

    FX5では、CineAltaやFX6との運用を意識したプロ向けのメニューシステムが採用されています。ホーム画面にはおなじみの「BIG6」が並び、FPS、EI/ISO、シャッター、アイリス、LUT、ホワイトバランスといった撮影中に触る主要な項目へすぐアクセスできます。

    もちろん、バリチルモニターはBIG6専用というわけではなく撮影映像も表示できます。クリーン表示に加え、VENICE系のように撮影情報を映像の周辺へ退避させた表示も選択可能。細かな文字が周辺に配置された画面では、3.5型・約276万ドットへ高精細化された液晶も地味に効いています。液晶の高画素化は単に見え味の追求だけでなく、こういうUIを成立させるためでもあったのかもしれません。

    自分のように普段仕事でFX6などの業務機を使っているとこのメニューにはむしろ馴染みが深く、ほとんど混乱せずに使うことができます。

    一方で、FX3を長年使い込んできたユーザーほど少し「突き放された」と感じるかもしれません。

    もちろん現在のFX3にもアップデートによってBIG6などCinema Line流の操作系は入っています。しかし、αシリーズ共通のメニューというのが、FX3の立ち位置をある意味象徴していたというのを改めて思いました。

    α7シリーズを使っていた人がFX3を買っても、そのままシームレスに移行できるというのはFX3の大きな長所だったと思います。しかしFX5では、その立ち位置が明確に変わりました。「αの延長線上にある動画機」というより、FX6やCineAltaをそのまま小さくした業務機として扱った方が理解しやすいと思います。

    そして一度この操作体系に慣れてしまえば、将来FX6やVENICEを触ることになったときにも、その経験はそのまま繋がっていきます。そう考えるとFX5は、単にFX3より高性能なカメラになっただけではない、ユーザーを一段上の撮影環境へ連れていってくれるカメラになったと思います。

    FX3が「αからのステップアップ」を担っていたのだとすると、FX5はほぼ間違いなく「FX3からさらに上へのステップアップ」を担う、そんなカメラだと感じました。

    実写、FX3と画質を比較!

    今回、女優のおざきゆかりさんにモデルになってもらい、FX3との比較撮影、また単体でのテスト撮影を行なってみました。

    FF5K3:2での収録画面。

    S35 3.2K 16:9の時。画角の違いがわかる。

    解像度の選択画面

    圧縮コーデックも馴染み深いものが選択可能。

    5Kでは、X-OCNでしか収録できない場合があるので注意。

    FX5 ISO 800より切り出し

    FX3 ISO 800。比べると1枚ベールがかかった描写に見える。

    FX5 ISO 800(Dual Gain)仔細に見ると違いはある。ただ普段からこれでなくてもいいかも。

    まず昼間のチャートです。FX3で充分綺麗だと思いましたが、FX5のほうがスキントーンに関しても1枚ヴェールを脱いだような、今まで意識しなかったような微細なノイズ感や色の濁りがクリアになった印象があります。

    FX3の画質に満足している人ほど、このわずかな違いに気づくかもしれません。

    また、FX5のX-OCNのC1とC2を比べてみましたが、これはチャートでは正直わからないのでは? と感じるレベル。圧縮されたRAWであっても、16bitは保持されているそうなのでC1やC2も積極的に使って良いのではと思います。

    また、今回のポイントのひとつであるDual gainのISO 800でも収録してみましたが、個人的には通常のシングルゲインで充分じゃないかと思います。シングルゲインの画質が充分にきれいですし、「絶対これを使うべき!」というよりは極端な明暗差で撮影することが必要だったり、少しでも表現に妥協したくない人向けの設定と感じます。

    全体的にどの設定で撮っても1枚垢抜けた描写で撮れると感じます。デジタルの業界では5年もすればあらゆる技術が進歩するわけで、最新のFX5の画質が素晴らしいのは当たり前と言えば当たり前なのかもしれません。

    X-OCN LT

    X-OCN C1

    X-OCN C2

    ひとつ注意点があります。フレームレート、解像度、圧縮かRAWかをかつてこれほど自由に行き来できるカメラはソニーには無かったのではないかと思いますが、それぞれの設定で「できること」「できないこと」があることを把握していないと痛い目を見ます。

    例えばX-OCNでハイスピードを設定しようとすると、いつの間にか圧縮コーデックになっていたりする症状が何度かありました。警告なしに収録フォーマットがX-OCNからXAVCに変わってしまうのは早急な対策を求めたいと思いました。

    高感度対決!

    FX5 ISO 12800

    FX3 ISO 12800

    設定可能な最高感度51200からさらに編集で持ち上げ、NRをかけたが驚くほど「使える」絵に。

    また、今回夜のシチュエーションで高感度ISO 12800を使用した撮影もチャレンジしてみました。

    まずはおざきさんにチャートを持っていただき、FX5とFX3で撮影。チャートの比較では、正直にいうとFX3のほうが拡大するとややノイズが少ないという驚きの結果になり、さすがは高感度番長。いまだに現役で使える画質なのに逆に驚かされます。これに対してFX5がX-OCN LTを使用しており、センサーからの絵に対してノイズリダクション等加工が最小限であるのに対し、FX3ではノイズリダクションに加えてXAVCへの圧縮というプロセスを経ていることも理由としては考えられると思います。事実、FX5のX-OCN LTをDaVinci上で軽いノイズリダクションをかけることで驚くほどクリアな映像が得られました。

    チャートの他に、夜の海辺でテスト撮影を行いました。これは全編でISO 12800を使用し、部分的にはそこからさらに持ち上げています。編集とカラコレはDaVinci Resolveで行い、DaVinciのAIノイズリダクションを使用しています。かなり暗いシチュエーションで強引に持ち上げても、驚くほど破綻せずに絵が成立するのはセンサーの力とそれを受け止めるX-OCN LTの余裕だと感じました。

    FX5は「ガチで仕事にするなら投資すべきカメラ」

    今回FX5をテストさせていただきました。最初は軽い気持ちで「FX3の兄貴分か」と思っていましたが、プロ仕様のメニューシステムやファインダー、X-OCN LTと、「完全な業務機を脅威のコンパクトボディに詰め込んだプロ向けのコンパクトシネマカメラ」というのが正しい評価かと思いました。良くも悪くもソニーが完全に振り切った印象です。

    ただし。完全に諸手を挙げて歓迎かというと、いくつか気になるところも実はあります。もっとも惜しいと感じるのは5Kという解像度。個人的にはフルフレームの解像度はSuper35にクロップしても4Kが確保できる6Kがベストではないかと思っているのですが、FX5ではS35でクロップすると4K解像度を確保できないため、仕事によっては難しい選択肢になるのではと感じることがありました。

    また、ファインダーとハンドルが排他的なのも惜しい。バリチルモニターを採用するほどのこだわりなら、両者を共存させる方法も考えられたのでは……と少し思ってしまいます。

    そして正直に残念なのが、スチル機能が完全にオミットされたこと。グラブボタンも、静止画収録ができるわけではないので、ひとまずテストしたファームでは「写真」は全く撮れない仕様となっています。これは流石にちょっと残念と言わざるを得ないポイント。そしてこれはメニューシステムとも関連しているのではと思います。

    というのも、メニューがスチルのαから完全に離れたことで、内部でスチルの設定について扱う場所が全くなくなってしまったわけです。画質設定はじめ、スチルのαの機能は全く使えないわけですから、このカメラに「写真機」としてのあれこれを期待するのは最初から難しい。それでも1フレームキャプチャなどの機能は残せたはず。実際に仕事でも少なからず写真が必要になる局面はあるので、将来的に簡易でも静止画キャプチャ機能がつくことを期待したいと思います。

    総じて、FX5はFX3を超える、近年でももっともハイクラスのスペックを持ったシネマカメラのひとつですが、それと引き換えにαからのステップアップや、写真機能といったこういう小型のカメラに求められる「汎用性」や「手に取りやすさ」から距離を取ったカメラになってしまいました。

    もしあなたが普段使いでカジュアルに撮れる小型のシネマカメラを必要としているなら、ちょっとハードルが高いかもしれません。しかし、仕事やそれ以外の理由で「ちゃんと撮れるガチのハイクオリティのカメラ」を必要としているのなら、これはかなり有効な選択肢です。そんな「ソニーの本気」が垣間見えるカメラだと感じました。

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