世界基準で考える公共交通
経営が苦しくなると「協議」が始まる日本、そんな常識を覆すEU発のヒント
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柴山 多佳児
ウィーン工科大学交通研究所上席研究員
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2026.9.21(月)
日本も「国が路線を指定する」時代へ
もう一つの示唆は、ネットワークの姿をEUという公的な立場から示すことで、投資を行いやすくするとともに、その継続性や安定性を担保していることである。EUという公的な機関が指定することの重要性である。
「この区間は利用が少ないからTEN-Tに指定しないでおこう」といったビジネス的観点に立つのではなく、EUという超国家組織の「国土」をどう結ぶかという観点に立ってできているのがTEN-Tである。道路も鉄道も、同じ観点から決めるのである。その投資の優先順位づけや目指す整備水準の分類が「コア」「拡張コア」「包括」ネットワークである。
TEN-TはEU全体を結ぶ巨大なネットワークで、その規模感を日本が真似する意味はない。重要なのはその「考え方」である。一つは「道路も鉄道も」で国土をネットワークするという考え方である。もう一つは道路だけではなく鉄道も、公的な立場からネットワークを示す点である。
日本でも、国全体で、鉄道網、特に在来線鉄道網について全体像を公的立場からしっかり議論して、公的な立場から路線を指定する時期にさしかかっているように筆者には思われる。ビジネスが前提の現状では、経営が苦しくなるとあちこちで「協議」をすることになるが、いつまでも協議ばかりもしていられない。
公的な立場からの位置づけは、国のみならず、都道府県や市町村くらいの単位でもできる。国道と県道の関係のように、国内ネットワークの基幹部分は国が、それを補完するネットワークは都道府県が指定してもよい。
たとえば、国の鉄道ネットワークの基幹となる在来線を、「国土交通大臣の指定する基幹鉄道網」として指定する。また平時はローカル輸送が中心でも、災害時などに役割を発揮しそうな鉄道路線を「国土交通大臣の指定する強靭性確保鉄道網」として指定する。
先般の大雨で北海道の室蘭本線(「海線」)が不通になったが、様々な制約から別ルートである函館本線(山線)への迂回が難しい状況にある。この手の指定があれば、迂回ルートとして旅客や物流の強靭性確保につながる事前の公的投資が行いやすくなる。
このあたりは、高速道路網や、1桁・2桁の番号の国道と対応させておくとよさそうである。発想としては国道の「指定区間」に似ているが、その総延長は約2万4千キロ。高速道路の計画は前回も触れた約1万4千キロ。JRの鉄道網が約2万キロなので、細かな検討が必要な区間も多々あろうが、規模感としてはよく対応するだろう。
これを補完するように、「都道府県知事が指定する地域基幹鉄道網」「市町村長が指定する地域基幹鉄道網」を、ローカル輸送が中心である路線に対して指定しておく。JR路線のみならず、私鉄の路線も指定してよい。また国道と同様に区間の重複があってもよいだろう。
「民間事業者の路線までなぜ指定するのか」という疑問が出るかもしれない。しかし、日本には、鉄道事業者のみならず、電力・ガス事業者や医療機関など、様々な公共的性格を持つ民間企業を、非常時に「指定公共機関」として指定する制度がすでに存在する。
災害対策基本法や、コロナ禍にも適用された新型インフルエンザ特措法、そしてテロ対策などの目的で制定された国民保護法で、様々な企業が国や都道府県から指定されているのである。私鉄を指定する上の考え方は、このような考え方とも共通する。
こういった指定があれば、「この区分の路線にはこの程度のサービス水準」といった目安となるターゲットを設定することもでき、公共交通のサービス水準向上を政策的に取り組みやすくなる。また、冒頭で述べた、都市の骨格なのに減便・廃止、という事態も避けられそうだ。
こうした方法は法改正などが必要で、今の制度で一朝一夕にできるものではない。しかし、前回から触れている鉄道と道路インフラの災害復旧のアンバランスや、全国あちこちで同時多発的に起こる「廃止するかしないか」の協議を見ていると、そして欧州のTEN-Tの例を見ていると、こうした指定のあり方を考える時期にすでに差し掛かっているように筆者には思われるのである。
ここまでは道路や線路のインフラだが、同じ考え方をバスも含めた公共交通のサービスに適用してもよい。この連載ではそのためのPSOと呼ばれる考え方を紹介したいのだが、その前に、国民投票で鉄道インフラのアップグレードを決めた例を紹介したい。
世界基準で考える公共交通
