
有名な豪華列車「ベルモンド・ブリタニック・エクスプローラー」の客室は、走り抜ける風景を映したようなアースカラーをしている。(SALVA LÓPEZ)
この記事は『ナショナル ジオグラフィック トラベラー(UK)』により制作されました。
クーバー・ペディほど、終末後の世界を感じさせる場所はほかに想像しがたい。オーストラリアのアウトバックに位置する、小さな鉱山の町には、一見、生命が存在しないように思える。茶色と白の割れた岩の山が果てしなく続き、干からびた地面にはまばらな低木がしがみつくように生え、ほんの少しの風で息苦しくなるような土埃(つちぼこり)が舞う。夏の気温は、簡単に50℃近くに達する。
ただし、ダーウィン〜アデレード間の約3000キロを結ぶ、大陸縦断ルートを走る豪華列車「ザ・ガン」の寝台個室では、こうした環境は大して気にならないだろう。
4日間のクルーズトレインは、コンパクトな木調のツインルームで5290豪ドル(約58万円)からとなっている。スタッフがソファを寝台に変えてくれ、大きな窓からは地平線をゆっくり歩くラクダが見えるかもしれない。そして、手書きのメニューで白いテーブルクロスの上で提供される地元の食材を生かした3品コースや驚くほど良質なオーストラリアワインが並んだバー、オーストラリアでも特に辺境とされる地をめぐる厳選されたツアーが組み込まれている。(参考記事:「オーストラリア ラクダとの不幸な衝突」)
「ザ・ガン」の旅は唯一無二だ。とりわけ、オーストラリアの中央にあるレッドセンターのまさに真ん中に位置し、どの町からも離れているウルルへのツアーを気軽に追加できる列車の旅などほかにはない。(参考記事:「『音と光のショー』が世界で人気に、アボリジニの聖地ウルルでも」)
移動から体験へ
このような豪華列車の旅は、南極大陸以外、どの大陸でも楽しめる。ランチしながら田園風景を走り抜ける路線で数百ポンド(十数万円)、執事が付くスイートルームで数日間を過ごすなら数万ポンド(1000万円超)と、かなり高額だ。それでも、人気は高く、数カ月前に売り切れることも珍しくない。
そして、その需要は高まっている。
決済サービスを手がける米ビザが自社データを分析したところ、体験型の列車旅への支出は、2019年から2024年にかけて59%増加した。ほかの休暇の過ごし方は18%増で、大きく上回る伸びを示している。ビジネスコンサルティング会社の米マーケット・インテロによる調査では、この分野の市場規模は2034年には23億米ドルほど(約3600億円)と、現在の12億米ドル(約1900億円)から倍近くに達する可能性があるという。
ギャラリー:専用のラウンジや風景と調和する客室など、これからの豪華列車 写真5点(写真クリックでギャラリーページへ)


「ゴールデン・イーグル・シルクロード・エクスプレス」では、飲みものや食べものに重きを置いている。たとえば、ブラックタイガーエビのグリルに卵黄とマスタードのソースといった、高級レストランのようなひと皿が味わえる。(GOLDEN EAGLE LUXURY TRAINS (LEFT) AND GOLDEN EAGLE LUXURY TRAINS (RIGHT))
こうした流れに、鉄道事業者も価値を上げることで応じてきた。2026年4月、「ザ・ガン」は、オーストラリアではこれまでなかったような最高級客室となるオーストラリス・スイートを公開した。室内はアールデコ調で、広さは25平方メートル。備え付けのベッドで、枕を選ぶことができる。カウンターに大理石を用いたバーのあるラウンジエリアがあるほか、執事がいつでも控えている。
ほかには、スペイン南部を走る、落ち着いた深紅と金で車両が装飾された「アル・アンダルス」は、2026年の40周年を記念として、新たにマドリード〜セビーリャ間を7日間かけて運行するルートを導入した。まったく新しい列車も発表されている。今年後半にデビュー予定で、ノルウェーのベルゲン〜トロンハイム間を6日間かけて走る「ノリエント・エクスプレス」は、車両にジムも付くという。(参考記事:「超豪華列車からローカル線まで、非日常を味わえる世界の鉄道旅9選」)
サステナビリティーへの関心の高まりも、列車旅を後押ししている。ただし、富裕層向け旅行代理店ネットワークを展開する米バーチュオソで豪華列車を専門にしているエレノア・ハーディ氏は、「多くの人にとって、列車そのものが目的地になっています」と話す。
「雰囲気のある駅に着いた瞬間から、旅行体験がまるで映画のように始まります。荷物はスイートルームに運び込まれてあり、ミシュラン星付きの料理が用意され、旅がめくるめく演劇のように感じられます」。言い換えれば、列車は、もはや単なる移動手段ではなく、それ自体がひとつの体験なのだ。
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