2026年10月
    月 火 水 木 金 土 日
     1234
    567891011
    12131415161718
    19202122232425
    262728293031  

    公開
    2026年10月06日 08時30分

    著者

    前野孝太朗

    前野孝太朗

     9月30日、声優の津田健次郎さんが、自身の声に類似するAI音声を使った動画の削除を求めた訴訟について、東京地方裁判所の判決が言い渡されました。結論として、津田さんの請求は棄却されています。

    画像はイメージ

     ただ、この判決は「声優の声と似たAI音声を使っても問題ないと裁判所が判断した」というものではありません。この判決の概要と、音声を中心としたAIビジネスへの影響を見ていきましょう。

    前野孝太朗(まえの・こうたろう)

    弁護士(第二東京弁護士会)。シティライツ法律事務所所属。ゲーム・エンターテインメント、AI・IT分野を中心に、著作権などの知的財産、生成AIの利用、契約・利用規約等に関する法律相談を取り扱い、CEDEC等での講演や企業向け研修も行う。2026年7月に『ゲームと法律 攻略ガイドブック』(技術評論社)を刊行。

    裁判の全容

     まず、簡単に事案の概要を確認しましょう。判決によれば、2024年7月から25年9月までの間、TikTok上の「八海」というアカウントに、都市伝説や心霊現象などの雑学をナレーションで紹介する動画が188件投稿されていました。

     津田さん側は、そのナレーションの声が津田さんの声に類似していると主張し、不正競争防止法とパブリシティ権を根拠に、TikTokの運営会社に動画の削除を求めました。

     パブリシティ権とは、著名人などの氏名や肖像が持つ、「商品やサービスに人を引きつける力」(顧客吸引力)を、本人が排他的に利用できる権利です。実際、動画のコメント欄にも、「ツダケンの声がする」「津田健次郎の声に似てる」などの投稿があったと認定されています。

     これに対してTikTok側は、問題となった音声は津田さん本人の声ではなく、第三者の声をAIによって加工したものであり、津田さんの声を使用したものとはいえないなどと主張していました。こうしたAIによる声の利用について、裁判所がどう判断するのか注目されていたわけです。

    請求は棄却も、声の利用について一般論を示す結果に

     判決では、津田さん側の請求は棄却されました。

     しかし、これは「本件のAI音声はパブリシティ権を侵害しない」と判断されたという意味ではありません。裁判所は、本件のAI音声について、パブリシティ権侵害が成立するかどうかを判断していないのです。

     というのも、本件では、訴訟の途中で投稿者はアカウントを削除していました(その後、対象動画のデータもTikTokのサーバから削除されたと認定されています)。

     そして、本件では損害賠償は請求されておらず、TikTokに対する削除請求のみが問題となっていました。つまり、対象動画が削除されていると認定すれば、裁判所としては具体的な権利侵害の成否まで判断する必要はない状況だったのです。

     そのため、裁判所は、「仮に被告に削除義務が生じ得るとしても」、動画はすでに削除されており、TikTok側が削除義務を負うことはないとして、請求を棄却したのです。

     ただ、東京地裁はそこで判断を終えるのではなく、次に説明するとおり、「人の声」とパブリシティ権との関係についての一般論を示しました。裁判所がこの点を明示したことが、今回の判決の重要なポイントといえます。

    Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

    この記事の著者

    前野孝太朗

    関連記事

    Share.

    Comments are closed.