後で使うはずのはしごを、主人公が投げてしまう。「いや、それは取っておこうよ!」と、プレイヤーなればこそ思う。10月9日(金)公開の映画『バイオハザード』(以下、『バイオ』)を観ながら、主人公にそんなツッコミを入れたくなった。一方、ゾンビの姿がふいに見えなくなる場面では、つぎにどこから現れるのかと身構える。さっきまで笑っていたのに、もう笑顔は消え去り、代わりに冷や汗をかき始めた。
昨年公開された『WEAPONS/ウェポンズ』の強烈なおぞましさと妙な爽快感が忘れられず、ザック・クレッガー監督が『バイオ』をどう描くのか楽しみにしていた。今回の主人公“ブライアン”は、医薬品を届けにラクーンシティへ向かう配達員。試写で待ち受けていたのは、恐怖が渦巻く『バイオ』らしさ、ザック監督らしさ全開の映像表現だった。本稿ではその試写会レポートをお届けしよう。
主人公は共感できる“ふつうの人”。クリスもレオンもジルもいないラクーンシティ 配達先がラクーンシティ総合病院だとわかった瞬間、シリーズファンのこちらは身構える。ラクーンシティで起きた惨劇を知っているからだ。しかし、本作の主人公であるブライアン(演:オースティン・エイブラムス)は、クリスやレオンのように危機へ立ち向かうヒーローではない。仕事でやってきただけのふつうの人だ。凡人が恐怖にさらされるという点では、『バイオハザード7 レジデントイービル』のイーサンを思い出す。
先へ進むための鍵が必要でも、ブライアンは暗がりを怖がって取りに行きたがらない。「取りに行けばいいのに」と言うのは簡単だ。けれど、暗がりの奥に潜む何かにおびえるなら、進む足だって止まるだろう。「この先に進みたくない」というのは『バイオ』を遊んだ人には、覚えのある怖さではないだろうか。
また、エイブラムス氏の取り乱す演技からは、追い込まれた人間の情けなさと必死さも伝わってくる。死体が動けば動揺して固まるし、化物に追われれば「マジかよ!」のひと言ではすまない。ギャーッと叫んで、とにかく逃げる。もう逃げまくるし、ビビりまくる。
一方で、そんな彼だからこその愛嬌も確かにある。笑ってしまうほど情けないのに、いつしか無事に逃げ切ってほしいと願ってしまう。ブライアンには、そう思わせるパワーがあった。
ホラーとコメディの緩急が激しい。笑っていたはずが、つぎの瞬間には怖くなる ホラーとして印象に残ったのは、ゾンビの姿が見えなくなる場面だ。クルマを挟んでゾンビとぐるぐる追いかけっこをする、なかばカートゥーンのような少し笑えるシーン。だが、ブライアンが銃を手にした直後、そのゾンビはふいに画面から消えてしまう。
さっきまで居場所がわかっていたのに、つぎはどこから現れるのかわからない。追いかけっこのおかしさが消え、急に温度がスッと下がる。ゾンビが映っていない時間こそ怖い。
遠くからゾンビが走ってくる場面も印象深い。着実に距離を詰める姿だけでもぞっとするが、怖いのはその後だ。ゾンビが家に入ったことは階下の物音でわかるものの、姿は見えない。2階にいるブライアンの足もとを映しながら、カメラは音のする方向へと動いていく。見えない相手が近づく様子を想像させられ、肝を冷やした。

一方で、笑いのフリからオチまでの速さにも驚かされる。雪道を走るには四駆とチェーンが必要だと念を押され、ブライアンは「楽勝だ」と軽く引き受ける。するとそのつぎのカットで、チェーンのないおぼつかない走りのクルマが映る。「即落ち2コマじゃん!」とツッコミたくなるテンポのよさに、同じくザック・クレッガー監督が手掛けた『バーバリアン』を思い出した。しかも、こうした笑いが恐怖の合間に飛び込んでくる。笑って気が緩んだところで、また身構えさせられるのだ。
ゲームあるあるを詰め込んだ『バイオ』コント。冷蔵庫まで開けて弾を探す ザック監督は『バイオハザード』を遊んでいる、と確信できてしまうぐらい、ゲームの“あるある”が詰め込まれていた。
弾が足りなくなれば家中を漁り、冷蔵庫の中まで確かめる。行く手を錠前に阻まれてイライラ。ステージが移るにつれて手にする銃も強力になっていく。壁にかけてあるショットガン、アタッシュケースに入ったマシンガンなんていう、ゲームで死ぬほど見た光景がそこにあった。
ゾンビの死体を前に、また動き出さないかと疑う場面まである。『バイオ7』を思わせる一人称視点のカットに鼓動のような音が重なる場面もあり、ゲームをプレイしていたときの緊張感がつぎつぎよみがえる。
もっともおかしいのは、ゲームで見慣れた行動をブライアンが大真面目にやっていることだ。プレイヤーにとっては当たり前の探索も、命を狙われている彼がやると妙におかしい。本人は必死なのに、見ているこちらは「そこも調べるよね」と共感しながらも笑ってしまう。
“もしふつうの人が『バイオ』の世界に放り込まれたら”。本作は、その発想をホラー映画として成立させながら、ゲームファンには“あるある”のコントとしても楽しませてくれる。ブライアンの無事を願う一方で、つぎはどんなゲームのお約束が現れるのかと期待してしまう映画だった。
作品概要タイトル:バイオハザード(原題:RESIDENT EVIL)公開日:2026年10月9日監督:ザック・クレッガー脚本:ザック・クレッガー、シェイ・ハッテン製作:ロバート・クルツァー、ザック・クレッガー、ロイ・リー、ミリ・ユーン、ヴィクター・ハディダ、アサド・キジルバッシュ、カーター・スワンエグゼクティヴ・プロデューサー:オリヴァー・ベルベン、リチャード・ライト、ロバート・ベルナッチ出演:オースティン・エイブラムス、ザック・チェリー、カーリー・レイス、ポール・ウォルター・ハウザー2026年/アメリカ映画/1時間34分/映倫レーティング:R15+公式サイト公式X
