バージニア州ワロップス島──ほんの1年前、米航空宇宙局(NASA)は前人未踏の挑戦を企業3社に打診した。総額5億ドル(約800億円)規模の天文観測ミッションで衛星が地球に落下する危機にある。そのミッションを救うための人工衛星を建造し、打ち上げられないか。しかも、それを1年以内に、限られた予算で実現できないかというものだ。
最も説得力のある提案をしたのが、2020年創業のスタートアップ、Katalyst Space Technologies(カタリスト・スペース・テクノロジーズ)だった。
「技術面でも計画面でも実現可能な提案がもたらされ、わたしたちも『これならいける』と思いました」。こう話すのは、NASAの天体物理学部門ディレクター、ショーン・ドマガル・ゴールドマンだ。
それが25年8月のことで、翌9月にNASAはKatalystと3,000万ドル(約4億8,000万円)の契約を交わした。小型の人工衛星を建造し、試験を経て打ち上げる。そして、3本のロボットアームで観測衛星「Swift(スウィフト)」を捕捉し、ドッキングする。
そのうえで、このサービス宇宙機「LINK(リンク)」はスウィフトの軌道を安全な運用高度まで戻し、科学観測を再開できるようにする。以上が契約内容だが、言葉で言うほど易しいことではない。
ゴールへの道筋
スウィフト観測衛星は、地球低軌道を周回している。この高度では、大気の最も外側の層であっても、なお人工衛星に空力的な影響を及ぼす。スウィフトは、ガンマ線バーストを検出するミッションのため、04年11月に打ち上げられた。
ガンマ線バーストは、既知の宇宙では最大の爆発現象だ。運用開始から20年以上が経過したいまも、宇宙物理学者はスウィフトに搭載された多波長の観測機器に頼っている。ガンマ線バーストを検出してその位置を特定し、ほかの望遠鏡などによる追跡観測を行なうためだ。
だが、ひとつ障害がある。スウィフトは軌道を維持するためのスラスターをまったく装備していないため、空力抵抗によってその高度が徐々に低下してきたのだ。
この観測衛星の打ち上げ当時の高度は363マイル(約585km)だった。だが、26年6月18日の時点では、225マイル(約363km)まで下がっている。より密度の高い大気層へ入り込むにつれて軌道低下の速度は増し、最終的には再突入に伴って燃え尽きてしまう。
しかも、高度の低下は予測より早まっている。近年、太陽の活動が異常に活発化しているためだ。太陽活動が活発になると地球の大気が膨らむため、地球低軌道にある人工衛星にはたらく抵抗も大きくなる。
人工衛星やスペースデブリ(宇宙ゴミ)は日常的に大気圏へ再突入しており、スウィフトもその大部分は地表へ達する前に燃え尽きるとみられている。
「スウィフトはただの人工衛星ではありません」とドマガル・ゴールドマンは説明する。「これは宇宙物理学の研究に欠かせない、ほかにはない能力を備えた観測衛星なのです。その名のとおり、すばやく(スウィフト)夜空へ向きを変えて、夜空でドカンと爆発する天体を見つけることができます。そこでわたしたちは、この観測衛星を救い出すことにしました。それだけ特別なのです。ですが、残された時間が少ないという別の問題が出てきました」
