Innovative Tech
公開
2026年10月10日 12時00分
著者

山下(Seamless)
[ITmedia]
Innovative Tech:

2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
東京大学医科学研究所、大阪大学、国立がん研究センター、東京科学大学に所属する研究者らが科学誌「Nature Genetics」で発表した論文「Prevalence and chronology of colibactin-associated mutational processes and their microbiome spectra in Japanese colorectal cancer」は、日本人の大腸がん発症に特定の腸内細菌が関与していることを突き止めた研究報告だ。

研究の概要図(プレスリリースより引用)
研究チームが日本人200人の大腸がん患者を対象に遺伝子解析(全ゲノム解析)を行った結果、約半数(非高変異型症例の44.8%)において、「コリバクチン」という毒素を作る特殊な大腸菌が発症に関わっていることが判明した。先行研究では、欧米を含む他国で5~20%ほどなので、日本人の例が多いことが分かる。

大腸がん患者のうち、コリバクチンによってDNAが傷つけられた割合を示すグラフ(プレスリリースより引用)
特に21歳から40歳で発症する若い世代の大腸がんでは、この細菌の毒素によって細胞のDNAが傷つけられた痕跡(変異シグネチャー)が70%(10人中7人)に認められた。

21歳から40歳では70%でコリバクチンによる変異シグネチャーが確認された(プレスリリースより引用)
毒素によるダメージはがんの発生に関わる重要な遺伝子(APCやBRAF、TP53といったドライバー遺伝子)に及んでいる。一例では、APCはその発がんのきっかけとなる最初の遺伝子異常が、10歳未満という幼少期にすでに起きている可能性が示された。つまり、子供の頃からお腹の中にいる特定の細菌が、何十年もかけて少しずつDNAを傷つけ続け、最終的に大腸がんを引き起こしている可能性が示唆された。

コリバクチン産生大腸菌が放つ毒素が細胞のDNAにダメージを与えて大腸がんを引き起こす一連のメカニズム(プレスリリースより引用)
また、このコリバクチンによる遺伝子の変異は1965年以降に生まれた世代で多く見られ、若い世代で大腸がんが増加していることと関連がある可能性がある。
さらに腸内細菌のAI解析により、大腸がんは4つのグループに分けられることが判明。コリバクチンを原因とするタイプは、これまで注目されてきたフソバクテリウムなどの細菌によるものとは違い、別の発がんルートをたどることも示唆された。
Source and Image Credits: Shiba, S., Yachida, S., Mizutani, S. et al. Prevalence and chronology of colibactin-associated mutational processes and their microbiome spectra in Japanese colorectal cancer. Nat Genet 58, 2211–2225 (2026). https://doi.org/10.1038/s41588-026-02692-x
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2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
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