ドラマ『北の国から』『やすらぎの郷』『前略おふくろ様』などで知られる脚本家の倉本聰(くらもと・そう)さんが9月18日、91歳で死去しました。
多くの人に愛され続けている『北の国から』シリーズは連続ドラマと8本のスペシャル版があります。テレビドラマ・映画・演劇について取材、評論などを行い、『みんなの朝ドラ』をはじめ多数の著書があるライター・木俣冬さんにシリーズから名作3本をセレクトしてもらいました(以下、木俣さんの寄稿です)。
【画像】純と螢の兄妹を演じた当時のドラマ場面写真と、吉岡秀隆さん・中嶋朋子さんの現在のショットを見る/『北の国から』音楽担当のさだまさしさんの倉本聰さん追悼メッセージを読む「さようならは言いません」
演じる者と登場人物の人生が重なり合っていく、ドキュメンタリーのような味わい
1981年から2002年まで続いた倉本聰脚本の『北の国から』シリーズ。東京から北海道・富良野へ移り住んだ黒板五郎(田中邦衛)と、純(吉岡秀隆)、螢(中嶋朋子)の3人家族が、電気も水道もない過酷な大自然のなかでたくましく暮らしていく物語だ。
20年にわたって同じ役を演じ続けた吉岡と中嶋は、ドラマとともに子役から大人の俳優へと成長していった。演じる者と登場人物の人生が重なり合っていく、ドキュメンタリーのような味わいをもつ稀有なドラマ。その数えきれない名場面のなかから、筆者おすすめの3本を紹介しよう。
連続ドラマ『北の国から』(1981〜82年)謎めいた涼子先生
最初のシリーズ全24話のうち、第14〜20話にかけて描かれる、原田美枝子演じる教師・涼子と純、螢のエピソードは伝説のはじまりにふさわしい。
第14話ではテレビのなかでピンク・レディーが「UFO」を歌っている。ある晩、純と螢は山の中でUFOを目撃する。そのとき、その場には涼子先生の姿もあって……。「宇宙人と友達」とまことしやかに語る先生はUFOを見に行こうと純と螢を誘う。
謎めいた涼子先生。彼女の心に影を落としているのは、東京で教師をしていた学校で体験したある事件だった。
第18、19話で語られる「空じゅう全部が降るような星だった」という純のモノローグ、子どもたちが大きなサトイモの葉を傘にして歩く画、そして先生がUFOと邂逅する幻想的な場面。どれもが童話のようで、不思議な余韻を残す。単なるファンタジーではなく、五郎や純の生々しい男性性とが絶妙に絡み合っていて倉本聰のほとばしる筆力を感じる。
『北の国から’84夏』(1984年)「子供がまだ食ってる途中でしょうが!」
『北の国から』を語るとき、必ずといっていいほど取り上げられる名シーンがこの作品にある。閉店間際のラーメン屋で、五郎と純と蛍がラーメンを食べている。無愛想な店員(伊佐山ひろ子)が丼を下げようとすると、五郎が「子供がまだ食ってる途中でしょうが!」と怒鳴りつける。
五郎の丸太小屋の火事を発端に、加害と被害が絡み合う複雑な関係、罪悪感に苦しむ純の心情、そしてそれを受け止める父の思いが胸を強く打つ。
この場面では父子が被害者で、店員が悪役のように見える。だが実はこの店員には、家で待つ子どもがふたりいて、8時には帰りたかったという裏設定があったと、先日「情報7daysニュースキャスター」(TBS)で紹介されていた。物語のクライマックスでも、出来事の裏側には目に見えない事情が隠されている。出番が少ない登場人物も含め、ひとりひとりの人生を丹念に見つめ、編み込んだ、倉本聰の脚本の妙を味わえる一本だ。
『北の国から2002遺言』前後編(2002年)唐十郎が凄まじい
シリーズ最終作は圧巻。それぞれの20年の歴史を噛みしめる物語だが決してしんみりさせない。何だこれは!?というような猛アタックがある。
五郎は体調を崩し、純は羅臼で廃棄処理の仕事をしている。螢は、富良野を出ていった夫の帰りを子どもとともに待つ日々。3人とも暮らしは決して楽ではないが、懸命に生きている。そんななか、純は羅臼(らうす)で涼子(原田美枝子)と20年ぶりに再会する。
純は、涼子の知り合いである人妻・結(内田有紀)に惹かれていく。父に似て、スマートには生きられない不器用な大人になっている。結の義父で、トド撃ちの名人・高村吾平(唐十郎)は気性の荒い人物だから近づかないほうがいい、と純は知人に忠告される。この“トド”と呼ばれる男を演じる唐十郎が凄まじい。
唐十郎演じる“トド”こと吾平が、夕日を背に流氷の上を歩いて港に戻ってくる姿は、大陸へのロマンを描き続けたアングラ演劇の雄らしい荒々しいパワーに満ちている。これが本当にテレビなのか、映画ではないのか――。これほど迫力のある画をテレビで放送していた時代があったのだ。そして、そのあとに続く宴会シーン。何度見ても心が震える。
田中邦衛は2021年、唐十郎は2024年に亡くなっている。北海道の大地で暮らし続けた五郎を演じた田中、実際に富良野で暮らし続けた倉本、テント芝居をやり続けた唐のような、スケールの大きなクリエーターがいなくなっていくことを惜しみつつ、彼らの息吹が刻み込まれた映像が残り続けることに感謝したい。
なお、ネット上では、泥のついた1万円札のエピソードが書かれた『’87初恋』なども人気が高い。人の数だけ『北の国から』の思い出がある。奇(く)しくも連続ドラマの放送開始からちょうど45年の日である10月9日、追悼特別番組として『’83冬』がフジテレビ系で放送される。
<倉本聰さん追悼特別番組『北の国から ’83冬』>
■放送日時
10月9日(金) 21時~22時52分
※初回地上波放送日:1983年3月24日
■出演
田中邦衛、竹下景子、吉岡秀隆、中嶋朋子、地井武男、岩城滉一、今井和子、清水まゆみ、中沢佳仁、大犮柳太朗、ガッツ石松、風吹ジュン、林 美智子、大滝秀治、笠 智衆 ほか
■スタッフ
脚本:倉本 聰
音楽:さだまさし
プロデュース:中村敏夫
監督:杉田成道
制作:フジテレビ
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