公開:
2026年10月11日 at 2時16分 — 更新:
2026年10月11日 at 2時21分
アジアパラ競技大会を前に、10月9日、アーチェリー日本代表の公開練習と記者会見がナショナルトレーニングセンター(東京)で行われた。
ナショナルトレーニングセンター内のトップアスリート専用のアーチェリー場
快晴となったこの日、施設の屋上にあるアーチェリー場で選手たちが的に向かって順番に矢を放ち、コンディションを確かめた。
口で矢を引く大山
その後、アジアパラ競技大会に出場する日本代表選手7人、ヘッドコーチ、トレーナーが記者会見に臨んだ。
会見の冒頭で末武寛基ヘッドコーチは、「代表チームは、技術力の向上だけでなく、国際大会での安定した成績の向上を目指してきた。選手によって身体的な特徴やプレースタイルは大きく変わるので、コンディショニング、メンタル、体調管理など、選手それぞれに合わせた強化が大事。本番では、アーチェリーの魅力を観客に伝える機会にしていきたい」と話した。
大会に臨む選手たちそれぞれの思い
今大会に臨むのは、20代から50代までの男女7人。若手からベテランまで幅広い年代がメダルを争う。パラアーチェリーは、組織運営の問題を受けて解散した旧団体「日本身体障害者アーチェリー連盟」に代わり、現在では「全日本アーチェリー連盟」が事業を引き継いでおり、会見では新体制に対する思いを語った選手が多かったのが印象的だった。
上山友裕(リカーブ男子/三菱電機)
パラアーチェリーの第一人者、上山(左)とベテランの大塚(右)
39歳の上山は、日本のパラアーチェリーを代表する車いすの選手で、リオ・東京・パリと3大会連続でパラリンピックに出場。2022年の世界選手権では個人で金メダルも獲得しており、国内の選手たちからの目標にもなっている。金色の車いすがトレードマーク。
「連盟としていろいろあった中で、競技をこのまま続けられるのかと思ったこともあった。たくさんの助けがあってここまで来られたので、恩返しをしていきたい。
新体制の全日本アーチェリー連盟としてみんなで初めて出る総合大会。アジアパラでは4大会連続でメダルを獲得している競技なので、全員で勝ち上がりたい。
個人としても3回目のアジアパラで、3大会連続のメダルを狙っている。
息子からは「パパは1回しか世界大会で(メダル)獲ってない」とハッパをかけられているので、頑張らねば。」
大江佑弥(コンパウンド男子/倉敷市役所)
練習中の矢取り(打った矢を的から外す作業)をする大江
38歳の大江は、競技を始めて10年目。27歳の時に脳出血で半身麻痺になり、その後アーチェリーに出会った。立位のまま口で弓を引くスタイルで、パリパラリンピックにも出場した。
「パリでは、旧体制の中でどん底のような状態で、自分も精神的に不安定で1回戦敗退となってしまった。
今年の4月から新体制になり、3~4月の「2026 Hyundai World Archery Para Series」(タイ)ではミックスで銅メダルを獲得6月には自己ベストも更新できた。
たくさんの人に支えられたので、感謝の思いを胸に望みたい。
2年後のロスに向けたステップとなるように、チーム一丸となって戦いたい」
大塚忠胤(リカーブ男子/日本アムウェイ)
代表最年長の大塚
大塚は代表最年長の58歳。18歳の時に事故で右上肢機能が全廃し、犬歯で弓を引くスタイルでアーチェリーに取り組み続けている。
「最後に出た総合大会が2014年のアジアパラ競技大会(仁川)なので本当に久しぶり。
仁川ではコンパウンドだったが、今回はリカーブで出るので楽しみにしている。
代表の年齢層は幅広く、自分の子どもくらいの選手もいるが、新体制となりさらにたくさんの人に助けられて楽しくトレーニングができている。
リカーブに転向して目標にしてきたのが上山選手で、彼と大会で男子ダブルスを組めるのが光栄だ」
大山晃司(W1男子/パーク24)
大会期間中の10月21日に誕生日を迎える大山。自身へのバースデープレゼントに金メダルなるか
34歳の大山は、東京パラリンピックに出場。パリの出場は叶わなかったが、ロスを見据え、長く勤めた警視庁を退職。
今年9月から新しい職場でアスリート雇用のもと練習時間を確保し、技術の向上に打ち込んでいる。
「自身3回目のアジアパラ出場で、前回杭州では4位で終わったので、自国開催でこの悔しさをリベンジしたい。
代表チームとしてもみんなと苦楽をともにしてきた分、ワンチームと言える代表チームだと思っているので、代表の仲間のためにも、応援してくれているみなさんのためにも、みんなでメダルを1つでも多く取りたい」
三木春乃(リカーブ女子)
三木。タイでの反省を踏まえ、名古屋では暑さ対策と雨対策を万全に望む!
27歳の三木は代表最年少。中学・高校とバレー部に所属していたが、高校生の時に発症、21歳で再発した悪性腫瘍(ユーイング肉腫)により車いす生活となった。
体験会で出会ったアーチェリーで上山に出会い「頑張れば世界を目指せる」という言葉をかけられ、本格的に取り組むようになる。
「アーチェリーを始めて3年も経っておらず、国際大会そのものも今回が2回目。それを自国開催の大きな大会で迎えられるのは幸せ。
タイの大会では暑さでバテてしまったので、今回は環境面への反省点も糧にして練習通り臨めるように頑張りたい。
地域のクラブや家族、友人、連盟のみなさんなどたくさんの支えを感じているので、この大会を来年の世界選手権やロスパラリンピックにつなげられるよう頑張りたい」
渡邊大輔(コンパウンド男子/人・夢・技術グループ)
53歳の渡邊は、21歳から水泳や陸上、障害者野球に取り組み、2019年からパラアーチェリーに転向。
パラ陸上では円盤投げ(F46)の元日本記録保持者でもある。
「障害者になって32年目だが、ずっと目標にしてきたのは表彰台の一番高いところに上って君が代を歌うこと。
まだ君が代を歌ったことがないので、歌えるように頑張りたい。
合宿をするたびに皆さんが助けてくれて自分を成長させてくれているので、勝てるような気がしてきた。
自分が足を引っ張らなければ、大江選手との男子ダブルスもメダルを狙えるのではないかと思っている」
子どもが4人いる渡邊。「“シン・渡邊”として父親の姿を見せたい」と誓う
篠原彩(コンパウンド女子/大分トヨタ自動車)
女子のベテラン、篠原。コンパウンドで新たな活躍に注目
43歳の篠原は、2018年のアジアパラ競技大会(ジャカルタ)にて、W1で銀メダルを獲得。
今年3~4月の「2026 Hyundai World Archery Para Series」(タイ)では大江と組んだミックスダブルスで銅メダルを獲得した。
「コンパウンドに転向してからは初めての大きな国際大会の挑戦になる。
アジア各国は成長が著しいので、自分が今どのくらいの成績を出せるのか、しがみついて頑張っていきたい。
タイの大会では全日本アーチェリー連盟がすごく尽力してくださって、今の自分たちがある。
パラアーチェリーは、選手によって障害も打ち方が違う中で、どう点数を出そうとして工夫しているのかが魅力なので、関心を持って見ていただきたい。
自国開催でたくさんの人に見てもらえるので、応援を力に変えていきたい」
新体制でのポジティブな変化
末武ヘッドコーチ。自身もアーチェリーでロンドン五輪の候補だった実力の持ち主で、パラアーチェリー界で絶大な信頼を得ている
また、4月から全日本アーチェリー連盟のパラ部門として新たなスタートを切ったことについて、末武ヘッドコーチはこう話している。
「旧体制はどうしても健常のアーチェリー競技との垣根を感じていた。
練習環境やスタッフ、宿舎などが大きく変わったわけではないが、全日本アーチェリー連盟のみなさんがすごく声をかけてくださるようになったし、パラアーチェリーの選手も自分たちからも声をかけに行くようになった。」
象徴的だったのは、先月行われたアジア大会で中西絢哉選手が銀メダルを獲得したことについて(アジア大会でのアーチェリーのメダルは、日本勢として2006年以来の快挙)、金相勲コーチ(JOCナショナルコーチ)に大塚選手が「おめでとうございます」と声をかけ握手をしていたシーンがあった。オリパラが1つの団体になったんだなという感動を覚えた」。
心機一転のパラアーチェリーがどんな快進撃を見せるのか、注目だ。
アジアパラ競技大会のアーチェリーは、岡崎中央総合公園多目的広場で行われる。
<参考>
全日本アーチェリー連盟 第5回 アジアパラ競技大会(アーチェリー競技)
https://www.archery.or.jp/tournament/details/5_2026.html
アジアパラ競技大会公式サイト・パラアーチェリー
https://www.asianparagames-2026.org/ja/sport/para-archery/
(校正・佐々木延江)
Author: 久下 真以子
大阪府出身、千葉県在住。フリーアナウンサー、フォトジャーナリスト、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経てフリーアナウンサーへ。
2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラ取材を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。
2021年、車いすラグビー日本代表の羽賀理之と結婚。パリに向けて二人三脚で「金メダルへの貢献」を目指す。
メディア・家族の両方の立場からパラリンピックを応援。
