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    国連制裁の免除まで取り付けた李在明政権、外交的な正当性を訴える材料を得る一方で遠のく南北対話

    福山 隆

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    2026.10.16(金)

    韓国・北朝鮮 安全保障

    中国やロシアとの関係を深める北朝鮮(写真は6月9日、訪朝日程を終えた中国の習近平国家主席を空港で見送る金正恩氏、写真:新華社/アフロ)

    約10億円の医療機器支援案に、北朝鮮が「政治的挑発」と反発

     約10億円相当の医療機器の支援案を準備した韓国に対し、北朝鮮から返ってきたのは感謝の言葉ではなく、激しい非難だった。

     10月8日、北朝鮮の金正恩総書記の妹、金与正氏は、韓国政府が進めている医療機器の提供計画を「政治的挑発」と非難し、受け入れを拒絶した。

     翌9日にも声明を発表し、韓国に対する非難を繰り返した。

     韓国が提供しようとしたのは、総額約675万ドル(約10億円)に相当する166種類1431点の医療機器である。X線撮影装置やCT(コンピューター断層撮影)装置、手術台などが含まれ、平壌市郊外の江東郡病院への提供を想定していた。

     しかも、韓国政府はすでに5月22日、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁委員会から、医療機器のうち制裁対象となる41品目について、制裁の適用免除の承認を得ていた。

     ところが、その準備が10月7日に報じられると、金与正氏は激しく反発した。医療機器の不足を理由に支援を申し出ること自体が、北朝鮮の尊厳を傷つけるというのである。

     そもそも金正恩総書記は、韓国をもはや統一を目指す同胞ではなく、敵対する別の国家として位置づけている。

     その方針を考えれば、北朝鮮が韓国からの支援を歓迎する可能性は低かった。韓国政府にも、それは十分に予想できたはずだ。

     では、なぜ李在明政権は、拒絶される可能性が高い医療支援を、国連の制裁免除まで取り付けて進めようとしたのか。

     そして、北朝鮮からの激しい反発によって、韓国は何を得て、何を失ったのだろうか。

    国連安保理の制裁免除まで取得した理由

     北朝鮮は核・ミサイル開発を理由に国連安保理の制裁を受けている。

     医療目的であっても、機器の種類によっては北朝鮮への輸出が規制される。そのため韓国政府は、制裁の対象となる41品目について、国連安保理の対北朝鮮制裁委員会、いわゆる「1718委員会」に適用免除を申請した。

     これは国連安保理が新たな決議を採択したという意味ではない。既存の制裁制度の下で、人道目的の物資を提供するために認められた例外措置である。

     韓国政府は、承認を得ただけではなかった。医療機器を仁川港から中国の丹東を経由して北朝鮮の南浦港へ運び、平壌の江東郡病院に届ける輸送計画まで用意していた。

     輸送を担う海運会社として現代峨山を暫定的に選定し、輸送費用も約3500ドルと見積もっていた。さらに、支援物資が本来の医療目的に使われているかを確認するため、韓国国際保健医療財団の職員3人と外部専門家3人からなる監視チームの派遣も想定していた。

     北朝鮮が韓国人の受け入れを拒む場合には、中国やモンゴルなど第三国の人員を通じて現地確認を行う案も盛り込まれていた。

     北朝鮮が受け入れに応じれば、支援を実施できるよう、細部にわたって準備を進めていたのである。ただし、北朝鮮が医療機器の受け取りに同意していたわけではない。

     なぜ、そこまでしたのか。

     第一に、北朝鮮の医療事情がある。北朝鮮では診断・治療に必要な機器や医薬品が不足しているとみられ、韓国政府も制裁免除の申請に際し、こうした医療事情の悪化を支援の理由として説明していた。

     だが、韓国政府にとって、この医療支援にはもう一つの意味があった。

     李在明政権は、北朝鮮との対話再開と朝鮮半島の緊張緩和を重要な政策目標に掲げている。韓国統一部が公表した2026年の政策方針でも、南北間の通信連絡経路の回復や保健・医療分野での協力などが打ち出されている。

     核兵器の放棄や軍事境界線をめぐる問題では直ちに合意できなくても、医療支援なら政治的対立を超えて協力できる余地がある。そうした小さな接点を積み重ね、閉ざされた南北対話の扉を少しずつ開いていく。

     これは韓国の歴代進歩派(革新系)政権が重視してきた、関与と交流を通じて関係改善を図るという政策の延長線上にある。

     さらに国連の制裁免除を取得すれば、国際社会との協調を維持しながら、人道支援を進めることができる。

     つまり李在明政権は、対北朝鮮関与と国際的な制裁の順守という二つの課題を両立させようとしていたのである。

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