Surface Laptop Ultra
マイクロソフトの最新PCであり、本日10月16日から出荷が開始される「Surface Laptop Ultra」のレビューをお届けする。
Surface Laptop Ultraは、簡単にいえば「MacBook Pro対抗」である。ただし、多くの人がMacとだけ比較して購入するわけではないだろう。
Surface Laptop Ultra、ひいてはこの製品で使われているNVIDIAの「RTX Spark NX1」がどういう価値を持っているか、という点が重要だ。
マイクロソフトから、Surface Laptop Ultraの評価機材が提供された。今回使ったのは、20コアCPUと64GBのメモリーを搭載したモデルだ。短時間ではあるが、いくつかテストをして性能をチェックした。
Surface Laptop Ultra。カラーはナイトフォール。このほかにプラチナがあるArm系でさらに高性能 BlackwellアーキテクチャでMacBook Proに対抗
まずは、Surface Laptop Ultraの概要をおさらいしておこう。
現在、Windows PCには2つの方向性がある。
1つは、従来通り、x86系プロセッサーを使ったもの。これも、インテルとAMDのプロセッサーが改善し、性能向上が著しい。ソフトウェア互換性の問題も(当然だが)少ない。
もう1つがArm系プロセッサーを使ったものだ。こちらも登場からすでに9年近くが経過し、マイクロソフトの「Surface」の主力がArm系になって2年以上経つ。ゲームなどまで100%動くわけではなかったが、ソフトの互換性問題はかなり解決してきた。これまではQualcommのSnapdragonシリーズが使われていたが、一般的なPCとしての性能で見れば大きな問題はなく、インテルやAMDと競合しうる性能になっている。
とはいうものの、x86系を超えるコストパフォーマンスがあるわけではなく、「発熱の低さと消費電力で優位な、少しプレミアムなモバイルノートPC」という位置付けを超えるものではない。
別の言い方をすれば、「性能にこだわったWindows PCを用意するなら、x86+外付けタイプのGPU」という組み合わせが鉄板であることに変わりはない。そのなかで、PC市場ではNVIDIA=GPUだった。
だが、状況は色々変化している。
サーバーはx86系ばかりではないし、Macが使うAppleシリコンはArm系だ。後者は、一般向けでもハイエンドでも高い支持を得ている。
特にこの2年で、AI処理を念頭に、メモリーを大量に積んだ「Mac Studio」や「MacBook Pro」がAI向けに売れるようになってきている。
ここに競合する製品をどうするのか?
NVIDIAは昨年「DGX Spark」を発表、コンパクトなローカルAIサーバーという製品で1つの解決策を示した。ローカルAI勢にとっては、Mac Studioと並ぶ選択肢の1つだ。
DGX Spark
だがDGX SparkはPCではない。
Arm系Windows PCに欠けていた「ゲームにも対応できる性能」「ローカルでAI活用を考えられる能力」を満たすために生まれたのがRTX Sparkというプロセッサーであり、それを搭載したSurface Laptop Ultra、ということになる。
以前からマイクロソフトは、「Surface Book」や「Surface Laptop Studio」のような、x86系プロセッサー+外付けGPU、という製品を作ってきた。今もゲーミングノートPCで使われる形態だが、マイクロソフトとしては「より異なるもの」を求めて、今回開発を進めたのだろう。
高級感のある15インチノートPC
Surface Laptop Ultraは、外見的には「高級感のある15インチノートPC」だ。Surfaceはシリーズ全体で高級感をかなり重視しているが、その点はSurface Laptop Ultraも同様である。
キーボード部分。しっかりした作りでサイズにも余裕がある。
15インチクラスでパワー重視であるため、この製品は軽くはない。2kgとそれなりにずっしりくる重さだ。ただ、ライバルであるMacBook Proも、16インチモデルでは2.1kgを超えているので、大きな問題とは言えないかもしれない。
ボディを裏から見ると、二段重ねのようにも見える。これは冷却のためにエアフローを確保するのが目的だろう。プロセッサーのパフォーマンスこそが重要な製品なので、そのプロセッサーを「冷やす」のも性能のうちだ。
本体裏面。エアフローを意識した二段重ねに近いデザイン
本体左側。左からHDMI・USB Type-C×2、ヘッドホン。本体厚みは19.16mm
他のSurface同様、Surface Laptop Ultraはタッチパネルを採用している。ディスプレイはミニLED採用で、輝度もコントラストも高い。ハイエンドなら有機EL(OLED)では……という話もあろうが、OLEDは薄く・軽く作れる代わりに高くなる。バッテリー動作時間を突き詰めるわけでも、薄さを突き詰めるわけでもないこの製品なら、バランス的にはミニLEDでも問題ない。
面白いのは、電源に「マグネット コネクト」という機構を採用していることだ。
本体右側。右から電源(USB Type-C)、USB Type-A、SDカード
MacBook AirとMacBook Proでは、マグネットを使った電源専用コネクターである「MagSafe」が採用されている。簡単に付けられることと、ケーブルを引っ張った場合には外れてMacが落ちることを防止する、両方の役割を果たす。
欠点は「専用の端子であること」。USB Type-Cに電源をつないで充電する時に、MagSafeは無駄になってしまった。
しかしマグネット コネクトは、端子としてはUSB Type-C。マグネット コネクト専用ケーブルをつながない場合には、そのままUSB Type-Cコネクターになる。だから場所が無駄にならないのだ。
端子形状はUSB Type-Cだが、マグネットを内蔵
電源供給がなされているとランプがつく
ただし、マグネット コネクト専用ケーブル自体はUSB Type-Cコネクターと同じものではないので、スマートフォンなど、他の機器につないで使うことはできない。
マグネット コネクト対応の専用充電ケーブルはUSB Type-Cケーブルより細く、他のUSB Type-C機器の充電には使えないAI性能ではM5 Ultraを超える場面も
では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。
今回、比較対象には、ライバルであるAppleシリコンを使ったMacと、Arm系Windows 11 PCである「Surface Pro(2024年モデル)」を使った。Macについては、先日レビューした「Mac Studio(M5 Ultra/256GB)」と「Mac mini(M5 Pro/48GB)」のデータ、「MacBook Air 15インチ(M5/32GB)」のデータを参考として掲載している。
まずは、マルチプラットフォームベンチマークである「Geekbench 7」のデータをチェック。
Geekbench 7によるCPUテスト。ノートPCとしては高性能だが、それでもM5 Proに劣る
RTX Spark搭載とはいえ、結果的にはMac Studioに勝てていない。Mac Studioはデスクトップ型だし、使える電力も倍以上違う。プロセッサーの出自的にライバルではあるが、ちょっと比べるのが酷な部分はある。
とはいえ、CPUテストではM5 Proに届かないのは意外だった。
これがGPUになると、M5 ProとM5 Ultraの間くらいになる。プロセッサー規模を考えれば十分な性能と言えるだろう。
Geekbench 7でのGPUテスト。電力性能が異なるM5 Ultraには敵わないが、M5 Proよりは上だ
では、ローカルAI性能はどうか?
ここでは、「LM Studio Bionic」で2つのAIモデルを使い、画像に何が写っているのかを分析してもらうタスクを試した。
使ったのは、「Qwen 3.5 9B」(モデルサイズ5.9GB)と、「Qwen 3.8 27B」(同16GB)だ。前者は16GBのメモリーでも動作し、後者は32GBのメモリーでなんとか動作する。
こちらは、Geekbench 7とはまた違った結果が出た。
モデルが小さいQwen 3.5 9BはMac Studioが勝ったものの、大きいモデルを使うQwen 3.8 27Bでは、なんとSurface Laptop Ultraが勝っている。
Qwen 3.5 9Bでの画像解析にかかる時間を計測。M5 Ultraには負けたがM5 Proよりは速い
Qwen 3.8 27Bでの画像解析にかかる時間を計測。こちらではなんと、M5 Ultraより良い値が出た
単純な演算性能ならSurface Laptop Ultraが不利であるはずだが、より負荷の重いAIタスクでRTX SparkがM5 Ultraに勝った。これはおそらく、RTX Sparkが「CUDA」に対応しているからだろう。
CUDAはNVIDIAのGPUがサポートしているAI処理用の開発フレームワーク。多くのAIがCUDAを使って作られている。LM Studio BionicのAI処理に使う「llama.cpp」も、CUDA 13に最適化されたものがあり、今回のテストではそれを使っている。
llama.cppはArmとCUDA 13に最適化されたものを利用している
AI処理にも色々あり、メモリーの量と帯域が物を言うものもあれば、処理効率が重要なものもある。
今回のテストの場合には、CUDAに最適化された状態が有利に働くものだった、と考えることができる。ノートPCでこうした結果が出たのは、まさにNVIDIAやマイクロソフトの狙い通りではないかと思う。
なお、この時の最大消費電力は、簡易な消費電力計での計測だと120W程度。Mac Studioはピークだと200Wを超えていたので、かなり低い。ノートPCだからこの水準に抑えられているのだろうし、その範囲内でこれだけの性能が出ていれば十分驚きに値する。
冷静に考えてみれば、この種のゲーミングノートPCは、200Wクラスの巨大なACアダプターを使っている場合が多い。140Wの高効率品であるとはいえ、「相応に性能の高いGPUを搭載したノートPCのACアダプターが手のひらの上に収まる」ということが、ちょっとした驚きでもある。ここも、MacBook Proと同じレベルになってきた。
Surface Laptop UltraのACアダプター。USB PDによる140W供給。これだけのパフォーマンスを実現するPCのものとしては意外なほど小さいx86版Windowsのゲームが十分な性能で動作
もう1つ、性能面ではゲームのベンチマークをしている。
MacとWindows双方に提供されていて、ハイエンドなグラフィック設定もできるタイトルとして、今回は「サイバーパンク2077」を使った。ゲーム内にあるベンチマークでフレームレートを比較した。
「サイバーパンク2077」で、設定を「ミドル」でテスト
同じく設定を、最も厳しい「レイトレース・オーバードライブ」でテスト
グラフを見ると、トップはMac Studioだ。だが、重ねていうが、あちらはデスクトップ用でそもそもの余力が違う。それでも、RTX Sparkは「M5 ProとM5 Maxの間くらい」の性能になっているのが大きい。
これは、x86系のゲーミングPCで言えば、RTX 5060くらい、というところではないかと思う。デスクトップ型のゲーミングPC向けGPUには敵わないが、ノートPCクラスとしてはかなりのものだ。
今回あえてMacと比較したのは、Surface Laptop UltraがMacBook Proを強く意識しているから、という部分がある。
だがそれ以上に大きいのは、「ここでテストに使ったのはx86版Windows用のゲームである」という点にある。
一般的なビジネスアプリケーションやローカルAIツール、グラフィックツールなどはかなりArmネイティブ対応が進んできた。だが、ゲームにおいてはまだまだだ。これまでのArm版Windows搭載PCは、どれも「ゲーム以外の一般的な処理を軸にした製品」だったからだ。もちろん、Qualcommもマイクロソフトも努力してきたが、「ハイエンドのゲームを意識した性能」でないPCで、ゲームの動作を強化するのは難しい。
しかし、RTX Spark搭載機は、ゲーミングPCと十分に比肩しうる性能を備えるのが目標だ。だから、ゲームへの最適化も大きなテーマとなってくる。
ここで「x86系向けのゲームをArm版で動かす」という状況ながら一定の性能が出たというのは、「Arm版を選んでもゲームをちゃんと楽しめる」という世界に一歩近づいていることを意味する。
今回、2週間ほど前に発売されたばかりの『ACE COMBAT 8: WINGS OF THEVE』(バンダイナムコエンターテインメント)も動かしてみたが、見たところ問題なく動作していた。このゲームはオンラインモードがあるため、不正防止用の「アンチチートソフト」が組み込まれている。これまで、アンチチートソフトのArm版Windowsでの動作は大きな課題とされてきたが、とりあえず、Surface Laptop Ultraでは動作した。
ゲームをプレイすることだけが目的なら、やはりx86系プロセッサー+外付けGPUが有利かとは思う。だから、ゲームだけを目的にSurface Laptop Ultraを選ぶ人は少ないかもしれない。
しかし、「Macよりもプレイできるゲームの数が多い」という見方をすれば、Surface Laptop Ultraでゲームが十分にプレイできる、ということの価値は小さくない。
「持ち運べるCUDA」の大きな存在価値
こうして見ると、RTX Sparkは「見たこともない性能のプロセッサー」ではない、ということがわかってくる。
今回試用した機材は81万円。非常に高価な製品であり、目的を絞ると、もっと安価な選択肢があるのは事実だ。
しかし、Arm系Windows PCに欠けていたものを持っているPCではあり、「場合によってはハイエンドMacよりも高速である」可能性が高いPCでもある。「CUDAが使えて、どこにでも持ち運べて、消費電力もそこそこに収まるPC」の選択肢は少ない。まさに「NVIDIAのBlackwellが搭載されている」ことに価値があるのだ。
「可搬性が高くて、CUDAが動いてゲームも動いて、それでいてACアダプターまで持ち歩いてもさほど負担でない」というノートPCは、RTX Spark搭載製品だけだ。
そこにこのコストを払えるかどうかで判断するのがいいだろう。
