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    秋晴れの葛生テストコース。心配された熊は現れず

    次世代ADAS試乗は高速周回路を使って行なわれた。

    10月17日、栃木県佐野市のスバル研究実験センター(SKC)は、見事な秋晴れだった。実は、この日の取材会にはちょっとした懸念があった。数日前、会場となる葛生テストコースで熊の目撃情報があったというのだ。もし熊が出没すれば、取材会は中止になると説明されていた。

    幸い熊は姿を現さず、予定どおり「SUBARU開発戦略 説明・取材会」が開催された。

    そして、この取材会は実に充実したものだった。

    新技術について、スバルのエンジニアがプレゼン、解説してくれた。

    次世代プラットフォーム、制御統合ECU、次世代アイサイト、BEV、そして新しい水平対向エンジン。現在開発中の技術について詳細な説明を受け、実物を見て、さらには開発車両に試乗する機会まで用意されていた。

    今回の取材会のテーマは「存在感と魅力ある企業を目指す開発戦略」。

    プレゼンテーションを担当したのは、SUBARU執行役員 技術本部副本部長の渡森孝有氏。最後のQ&Aセッションには、常務執行役員 CDCO(最高デジタルカー責任者)技術本部副本部長の柴田英司氏、原価・投資戦略室 室長兼技術本部 設計原価開発部 部長の相良賢治氏も登壇した。

    スバルが変えるもの、変えないもの

    今回、スバルが示した開発戦略は、実に明快だった。

    大切にしている「安心と愉しさ」を磨き続けながら、「変えていること」と「集中していること」を明確にするというものだ。

    変えているのは、開発手法とプロセスである。

    「ハード・ソフト・実車を一体で統合開発する」「分業しすぎない現場をつくる」「人の感性で磨き上げる」という3つを柱に、従来の開発の進め方を変えようとしている。

    なかでも印象的だったのは「分業しすぎない」という考え方だ。

    自動車開発の高度化、複雑化にともなって、開発組織は専門分野ごとに細分化されてきた。しかし、分業が進みすぎると、部門間の調整に時間がかかり、開発全体を俯瞰することも難しくなる。

    スバルはこれを見直し、設計、開発、生産、調達、サプライヤーなどが同じ情報を共有し、同じ目標に向かって開発を進める「大部屋開発」に取り組んでいる。

    その成果として、従来の約半分の期間で課題を解決できるようになったという。

    一方、技術資源を集中するのは、スバルらしさの源泉となる領域だ。

    自社開発BEV技術検証台車。

    エンジニアが見せている写真は、2025年のジャパン・モビリティショー2025に出展されたPerformance-E STI conceptだ。

    Performance-E STI concept

    具体的には「次世代プラットフォーム」「制御統合ECU/ADAS/E/Eアーキテクチャ」「次世代パワーソース」という3つの技術基盤である。

    これらを組み合わせ、車両の認識、判断、運動制御を統合することで、スバルが掲げる「世界一安心して移動できるクルマづくり」を目指す。

    今回の取材会では、それぞれの技術について詳細な説明があり、実物の展示も行なわれた。さらに、自社開発のBEV技術検証車両や、次世代アイサイトの開発車両にも試乗することができた。

    個々の技術については、今後、Motor Fan.TECHでジャーナリストによる詳細なレポートを順次掲載していく予定だ。

    ここでは、取材会の最後に行なわれたQ&Aセッションを紹介しよう。

    なぜ今、これだけ多くの開発中の技術を公開したのか?

    右から渡森孝有(わたもり たかもと)SUBARU執行役員 技術本部副本部長
    柴田英司SUBARU常務執行役員CDCO(最高デジタルカー責任者)技術本部副本部長
    相良賢治SUBARU原価・投資戦略室 室長兼技術本部設計原価開発部 部長

    Q:今日は非常に興味深い内容でした。これだけ多くの、しかも現在開発中の技術を、なぜ今、このタイミングで公開しようと考えたのでしょうか。

    渡森孝有氏:今日のプレゼンテーションの冒頭でも、非常に不確実な時代になってきていると申し上げました。やはり我々としては、この時代にあって、何かひとつに決めて、そこに集中して取り組むということは、逆に企業として非常に大きなリスクになってしまう。そういう厳しい時代になってきたという実感を持っています。

    改めて、この変化をポジティブに捉えて、我々自身がどういうふうに変化に柔軟に答えを出せるようになっていくのか。変化に強くなることが、我々が一番目指している『安心と愉しさ』をお客様に継続的に届けるために重要なんじゃないかと考えています。

    改めて、今、我々が変わっている、変わってきている、そしてさらに変わろうとしている。

    これをぜひ皆さんにご理解いただいて、SUBARUが元気よく、これからも走って楽しいクルマをつくるんだぜ、ということを理解していただけたらなという思いで、今日の会を実施しました。

    Q:今回紹介されたE/Eアーキテクチャや高度運転支援などは、他の自動車メーカーも積極的に取り組んでいる技術です。そのなかで、SUBARUならではの独自性、強みはどこにあるのでしょうか。

    渡森孝有氏:おっしゃるとおり、これらの個々の技術は、どのOEMも競争力を高めるために積極的に取り組んでいると認識しています。直近では、中国という大きなライバルがどんどん成長していることも認識しています。改めて、学ぶべきことは学んで、では我々の強みは何なのか。どこに集中すれば、お客様に選ばれる企業であり続けられるのか。どういうクルマを届けることが、お客様の幸せに一番つながるのか。

    それを真剣に考えてきました。

    そして改めて、我々はクルマの本質である『触れて感じる部分』、具体的に言えば、認識、判断、そして車両運動を統合して制御する技術、こういうところにもう一度きちんと軸足を置こうと。

    我々はそんなに大きな会社ではありませんので、ここに集中して、もう一度お客様に選んでいただけるクルマをきちんとつくり続けていこうと決めたわけです。

    ですから、これらの技術がひとつひとつどうなのかということではなく、ひとつにまとまってクルマという商品になったときに、お客様に選んでいただける『安心と愉しさ』になる。

    そこにきちんと軸足を置いて、今回『世界一安心して移動できるクルマ』という目標を掲げましたが、そこを目指して全社一丸となって、お客様に喜んでいただけるクルマをつくろうという思いです。

    「エンジニアの顔つきが変わった」大部屋開発がもたらした変化

    Q:今回、開発現場の皆さんからお話を聞いて、大部屋開発に対する手応えや充実感を強く感じました。社内の部門だけでなく、サプライヤーなども交えて進めることには、情報管理などの難しさもあったと思います。実際に大部屋開発を始めて、現場はどう変わったのでしょうか。また、経営・開発を指揮する立場から、どのような手応えを感じていますか。

    左が柴田英司SUBARU常務執行役員CDCO(最高デジタルカー責任者)技術本部副本部長

    柴田英司氏:そうですね。手応えは、今お話があったとおり、顔つきが変わるということですね。最初は顔つきはそのままだったんですよ。ただ、集めて議論する。何回か合宿を繰り返したんですが、そのなかで現状の認識というのが、30~40名集めたと思うんですが、だんだん『これはやばい』という顔になってきて、『じゃあどうするんだ』というふうに、自分ごとになっていく。

    旗を振った我々も、うまくいくかなと思いながら入っていったんですけど、だんだん顔つきが変わっていく。その合宿で中間報告を上げてもらうたびに、我々も現状認識が深まっていく。現場のメンバー全員がそれを共有していく。それを繰り返して、最後は顔つきが変わっていた。
    『これはやらなきゃ、全員一緒にやらなきゃまずい』というふうになっていた。

    今日のプレゼンテーションでもいろいろあったと思いますが、分業しすぎは良くない、もう少し戻したほうがいいんじゃないかというのは、本当にしみじみ、やってみて思いました。それで今日、バッテリーEVの試作車に乗っていただいたとおり、これはやらなきゃいけない、じゃあ集中して全員でやろうと。

    1年ぐらいかけて、デジタル開発であれがポンとできてきて、実はめちゃめちゃ驚いたんですよね。
    『これは一発目でこれが来るか』みたいになっちゃうんですよ。

    デジタル開発1年でできた試作車。

    それもそうですし、長年やっていて、乗って驚いたのがそのクルマと、あとは圧雪路で自動走行する動画を見ていただいたと思うんですけど、あれもそうです。

    SUBARUの美深のテストコースで、あれにも乗って、『こんな体験ができるんだな。久々だな。これはすごいな』と。昔、アイサイトの開発をやっていたんですが、衝突回避のシステムに初めて乗ったときも、テストコースで『これはすごい』と、自分でやりながら思ったんです。また雪上のあれで驚いて、バッテリーEVが出てきて、一発目であそこまでいって驚いて。驚きの連続で、これは面白い時代になってきたなと。

    そういうものができてきて、まだ発売のタイミングは明言できないんですけど、まずこの楽しい、ワクワクする体験を皆さんに早くご紹介しなきゃなと。

    シンプルにそういう思いで、いつ紹介できるんだろうと思いながら、後ろにいるスタッフがひとつひとつ考えてくれて、じゃあ今回やろう、というふうになっています。

    先ほど、どのメーカーもアプローチしている領域だけど、という質問がありました。

    今日ご紹介したどの技術も、今のクルマにとってはなくてはならない技術で、当然やらなきゃいけない。
    ただし、アプローチは各社ごとに違う。

    自動車メーカーは世界中にたくさんあって、その多くが、それぞれにお客様を持って生き残っているという実態があります。個人的な意見ですが、3万個以上の部品が組み合わさったクルマというのは、技術的にかなり複雑だと思います。

    それを誰でも運転できる。いろんな年齢層、いろんなところに住んでいる人が、アクセルとブレーキとステアリングでどこまでも行ける。150km/hで走るような場合でも、安全に快適に動かさなければならない。こんな複雑なシステムは、ほかにはほとんどないと思っています。

    多種多様な環境に対応し、いろんな年齢層、いろんな状況に対応していく。目で見て、手で触って、体でも感じられる。こんな商品はあまりないと思うんです。それだけ複雑で多様なので、いろんな価値観がひとつのクルマの中に詰まっている。おまけにメーカーごとに、工場の場所も、本社の場所も、生産台数も、エンジニアの人数も、全部違う。そのバリエーションがすごいんですよ。

    次世代のBEV用プラットフォーム

    なので、クルマという商品は徹底的に突き詰めれば突き詰めるほど、いろんな方向に分かれていくというか、いろんなお客様にベストマッチするものをつくれる余地が、すごくある商品なんです。

    何が言いたいかというと、同じ、クルマになくてはならない技術を開発しているんですけど、それだけバリエーションのあるクルマを徹底的に突き詰めると、SUBARUらしくなるんですよね。

    我々が今日お見せしたのは、この複雑なクルマをSUBARUのエンジニアが考えに考えると、こんな方向になっていく、というそのスタートだと思っています。

    最終的にその進化を体感いただくのは、やっぱり商品としてのクルマができてからです。

    今日乗っていただいたのは試作車だったり、すでに出しているものだったりしますが、ここから何年か後に商品がどうなるのか。今回いろんな技術やパネル、実物も見ていただきましたので、ぜひ期待していただければと思っています」

    渋谷のAI開発拠点と大部屋開発。その成果は次世代モデルで合流する

    Q:大部屋開発と、渋谷の開発拠点との関係について教えてください。渋谷の拠点は以前にも取材しましたが、その後、どのような成果が出ているのでしょうか。

    柴田英司氏:大部屋開発のスタートより前に、渋谷のラボが立ち上がっています。あれが2020年ですかね。今、もう6年目ぐらいになっています。そのなかで、同時並行してバッテリーEVの開発がスタートして、大部屋開発を始めた。大部屋のなかで一気に進んだのが、バッテリーEVだったり、E/Eアーキテクチャの開発です。

    ラボの主たる成果、狙っている成果は、アイサイトにAIを導入することです。そちらはソフトウェアの開発なんですよね。今、大部屋でまさに進めているのは、今日実物もありましたが、統合ECUとか、コンセプトを固めて、アイサイトを含め、いろんなシステムを統合したハードウェアをつくるプラットフォームです。

    同時並行してラボで進めているAIのソフトウェアが、そのプラットフォームに入ってくるという形になります。うまくこのふたつが合流するのが、次の商品だろうと思います」

    水平対向エンジンはどうなる?「好きなんですよね。エンジンを見るだけでワクワクする」

    次世代水平対向エンジンのシリンダーヘッド。過給エンジンとなる。

    最後に、もう一度質問する機会があった。

    今回の取材会では、電動化や知能化に関する技術だけでなく、新しい水平対向エンジンの開発についても説明があった。

    SUBARUにとって水平対向エンジンは、長年にわたってブランドを象徴してきた技術である。電動化が進むなかで、その将来をどう考えているのか、聞いてみたかった。

    渡森孝有SUBARU執行役員 技術本部副本部長 2002年入社以来、20年近く衝突安全および、その他安全領域の研究開発に従事してきた。車両開発統括などを経て、2005年より現職。

    Q:今日は新しいエンジンの技術も見せていただきました。SUBARUとして、今後、水平対向エンジンをどうしていこうと考えているのでしょうか。全体の開発戦略のなかでは一部かもしれませんが、エンジンに対する考え方を教えてください。

    渡森孝有氏:今日、新エンジンの開発をすでにスタートしているという話をさせていただきました。やはりバッテリーEVが思ったようには市場に浸透していない。

    改めて我々として理解できたのは、規制が世の中を動かすわけではなく、やはりお客様にどれだけ寄り添って、そして環境問題に向き合っていくか。まさに敵はカーボンであって、手段ではない、ということを我々としても十分理解できたと思っています。

    過給機は、可変ベーン式のターボチャージャーだ。

    そういう時代にあって、やはりお客様にアフォーダブルに『安心と愉しさ』を届けるためにも、エンジンという動力源は、本当に魅力的な、大切な、我々にとっての……ユニットという言い方も好きではないんですけれども、やっぱり動力源だなと、私自身も捉えています。

    正直に言いますよ。
    私自身も、エンジンを見るだけでやっぱりワクワクします。やっぱり好きなんですよね。好きなんですよね。

    この気持ちって、たぶん何にも変えられないものがあって、ここに来て僕らがもう一度、エンジンというものに魂を込めていきたい。とはいえ、環境問題は待ったなしです。いかにエネルギーを無駄に使わないか。きちんとそれを動力に変えていくか。

    これはバッテリーEVでも何でもそうですけれども、ここに集中して、バッテリーEVだろうが、ハイブリッドだろうが、エンジン車だろうが、きちんと向き合ってやっていこうと。

    今回、熱効率というひとつの目標を掲げましたけれども、大きな目標を持って、我々技術者として、社会にきちんと向き合って貢献していこうという思いのもとで、新しいエンジンの開発をスタートしました。やはり、いろんな多様な選択肢がある。それが豊かな社会だと考えていますので、ぜひ期待していただきたいと思っています」

    正直なところ、ここまで熱のこもった答えが返ってくるとは思っていなかった。

    今回の取材会は、電動化や知能化、開発プロセスの革新といった、これからの自動車開発に欠かせないテーマが中心だった。水平対向エンジンは、そのなかのひとつの技術にすぎないのかもしれない。

    しかし、渡森氏の回答からは、エンジンを単なる動力源としてではなく、スバルのクルマづくりを支える大切な存在として捉えていることが伝わってきた。

    「好きなんですよね。好きなんですよね」

    繰り返したこの言葉が、妙に印象に残っている。

    もちろん、エンジンが好きだからといって、環境問題を無視できるわけではない。渡森氏もそこは明確にしている。だからこそ、新しいエンジンでは熱効率50%という高い目標を掲げた。

    BEVも開発する。ハイブリッドも進化させる。そして水平対向エンジンも諦めない。

    不確実な時代にあって、何かひとつの技術に将来を賭けるのではなく、さまざまな選択肢を持ち続ける。そのうえで、SUBARUらしい「安心と愉しさ」を追求していく。

    次世代のSUBARU車が楽しみになった

    今回の取材会では、実に多くの技術が紹介された。

    それぞれの技術は興味深いものだった。しかし、今回の取材会を通じてもっとも強く感じたのは、これらの技術を組み合わせて生まれてくる次世代のSUBARU車への期待である。

    柴田氏は「クルマを徹底的に突き詰めると、SUBARUらしくなる」と語った。

    開発プロセスを変え、エンジニアたちの仕事の進め方を変え、技術を磨く。その成果は、最終的には一台のクルマとして結実する。

    電動化も知能化も進める。しかし、スバルが大切にしてきたクルマを走らせる愉しさは失わない。

    今回の取材会を終えて、これから登場する新世代のSUBARU車が楽しみになった。

    個々の技術については、Motor-Fan.jpで順次、詳しくレポートしていく。今回見せてもらった技術が、将来どんなクルマにつながっていくのか。ぜひ期待していただきたい。

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