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    ノーベル化学賞受賞が決まり自宅前で取材に応じる白川英樹筑波大学名誉教授=2000年10月11日
    ノーベル化学賞受賞が決まり自宅前で取材に応じる白川英樹筑波大学名誉教授=2000年10月11日

     承認が一度取り消されたサリドマイドは、その後、血液のがんやハンセン病、全身に潰瘍ができる難病などの特効薬であることがわかった。1990年代から2000年代にかけ、妊娠する可能性がある女性や妊娠女性が間違って飲むことがないよう厳しい条件付きで日本やEU諸国などで再承認、米国では初承認された。

     サリドマイドの右手系、左手系の一方だけを純粋につくるのはさほど難しくないが、体内ではどうせ両者半々の混合物に化けてしまうから無駄だ。手間のかかるつくり分けをせず、以前と同じように普通につくって、両者が混ざった製品が売られている。そして、南米など管理の徹底していない地域でいまだに被害児が生まれているとされる。字が読めない人にもわかりやすいようサリドマイドの容器に、妊娠女性に「×」をした絵を付けたら、中絶薬だと思って飲んでしまったという悲惨な話もある。

     2001年のノーベル化学賞でもサリドマイドに関して「混合物しか作れないため、妊婦が服用して胎児に障害を起こし、世界的な悲劇を招いた」といった報道があった。

     問題はそもそもノーベル委員会の解説や専門の化学者の発言に、「つくり分け技術があればサリドマイド薬害は起きなかった」と誤解させるようなことを匂わすくだりがあることだ。また、メディアが誤解を広めていることに関しても放置している。「このつくり分け技術の業績の価値を高めるため、間違いとわかっていながら政治的な意図で故意に発信しているのではないか」とうがった見方をする薬学者もいる。

     電気を通すプラスチックの開発で2000年のノーベル化学賞を受賞した故・白川英樹さんに「つくり分け技術の有用性を示す例としてサリドマイド薬害を挙げることについてどう思いますか」と質問したことがある。白川さんは「極めて不適切な例です」と、とても不快そうな顔で答えた。少年のころから純粋に身近な自然と科学が好きだった白川さんにとって、科学的事実が政治的と思われる意図でゆがめられて伝わることは我慢できなかったのだろう。

    (朝日新聞記者・科学ジャーナリスト 鍛治信太郎)

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