左からサントリーマーケティング本部ワイン部部長 宮下 弘至氏、マンズワイン代表取締役社長 島崎 大氏、メルシャン シャトー・メルシャン事業本部 本部長 小林 弘憲氏
夢の共演か?
サントリー、メルシャン、マンズワインの3社が日本ワインをもっと知ってもらおうということで手を組んだ。まずは、東京・丸の内で11月8日まで開催中の「丸の内 日本ワインWeeks2026」(三菱地所主催)に参画する(というかもうしている)。
以降、新酒のイベント(いわゆるボジョレー・ヌーヴォーの日本版だ)をはじめとした各種のイベント(ワインと食だけでなくアートなどもふくめ)や、アグリツーリズムなどで、ひとまず3年間、協力して動いていく予定だという。
素晴らしい一歩だとおもう反面、拠点も近いこの三者の仲が良いことは業界にいれば十分察することができ、また、トヨタと日産とホンダが共創プロジェクトを立ち上げました!というほどのライバル同士が手を組んだ!的なインパクトは弱い、と私は感じる。
あるいは、トヨタと日産とホンダがLFA、GT-R、NSXを富士スピードウェイに持ち寄って、どのクルマが日本で一番早いか勝負!なんていうのはクルマ好きにはグッとくるし、なんならそこに、ポルシェやフェラーリ、マクラーレン、メルセデス・ベンツやアウディ、BMWなどのスーパーマシンが混ざれば、もう夢の共演だ。
自動車レースというのは、そういうイベントなわけだけれど、ワインもなにかそのくらいのことになればいいなぁとおもうし、だったらこのチームにもっと、あのワイナリー、このワイナリーも参加してほしい、ともおもう。なによりまず、サッポロビールの日本ワイン「グランポレール」には参加してほしいところ。とはいえ、このチームは排他的性格をもったものではないそうなので、今後、参加ワイナリーは増えていくかもしれない。
左からサントリーの「SUNTORY FROM FARM」、マンズワインの「酵母の泡 粋翔(すいしょう)」と「SOLARIS」、メルシャンの「シャトー・メルシャン」ブランドの作品たち
日本のワインに貢献した偉大なる造り手
もちろん、私はこれにケチをつけたいわけではない。まずこの3ワイナリーがいかに偉大かを私なりに紹介しよう。
サントリーは日本を代表する飲料大手だけれど、オートグラフでも何度も紹介しているとおりで、1907年に発売した「赤玉ポートワイン」を祖業とするという点でワインの造り手だ。また「日本ワインぶどうの父」川上善兵衛氏とともに、日本ワインの創生に深く関わった会社でもある。現在、サントリーの日本ワインづくりの拠点となっている山梨県甲斐市の「登美の丘」も川上善兵衛氏の協力があって生まれたものだ。日本ワインの一大生産者として、質、量、両面に積極的な投資をつづけているのは頼もしいかぎり。
メルシャンのルーツは1877年創立の日本初の民間ワイン醸造所「大日本山梨葡萄酒会社」にさかのぼる。日本ワインぶどうの一大産地である山梨県勝沼から、日本ワインの歴史を切り開いた。フランス語でありがとうを意味するMerciと、人を表すanを組み合わせたメルシャンという名前のワインは1949年に、戦後初の本格ワインの名前として誕生した。日本のブドウ品種「甲州」が世界に通用するワインブドウ品種となるにあたっての大きな貢献を筆頭に、栽培、醸造に関して研究と挑戦を重ね、日本ワイン全体のレベルを引き上げている存在だ。
マンズワインは、上記2社よりは後発で1962年創立の「勝沼洋酒株式会社」を起源とする。山梨県勝沼のほか、長野県小諸でも有名なワイナリーだ。マンズワインの名前は1964年に親会社キッコーマンのマンと、天から授かった食物「マナ」をにちなんで名付けられた。「マンズ・レインカット垣根栽培方式」という日本の風土にあわせた栽培法の開発者としても有名で、この技術はブドウだけでなく、他の果樹栽培にも利用されている。個人的に、この数年でさらに大きくワインの品質を向上させたワイナリーだとおもっている。
日本ワイン普及に必要なのは……
いち日本のワイン好きとして、あんまりネガティブなことを言いたくはないのだけれど、日本ワインはいま、売れていない。ワイン業界が全体的にダウントレンド傾向なので、これは日本ワインに限った話でもないのだけれど、日本ワインの場合、この10年でワイナリー数は200場以上増加、2025年に500場を突破し、輸出数量も3.5倍(輸出上位10カ国を計算した場合)になった一方で、購入者数は2022年の約314万人から、2025年には約216万人に減少したのだという。これをなんとかしよう、まずはとにかく300万人規模の市場に戻そう、というのが、この偉大なる3者のプロジェクトのKPIだ。
そしてそのための方策が、冒頭に挙げた、新酒のイベントをはじめとした各種のイベントや、アグリツーリズムなどでの協力なのだけれど、なによりとにかくまず、日本ワインを飲んだことがない人、ここ数年飲んでいないな、という人に飲んでもらうことが大切だ。
あなたもぜひ! 地元にワイナリー、ありますよね? そこ、本当においしくなっていますよ。
今の日本ワインの質は、ホントに高い。しかも、スパークリングワインからブルゴーニュ風、ボルドー風、自然派、イタリア風……なんでもある。ただ、日本はブティックワイナリーみたいな小さなワイナリーが全国にどんどんできているので、一期一会みたいなワインが正直多いし、価格は残念ながら、ちょっと高めだ。ここは明確に弱点だとおもう。
2000円から3000円で買えて、ちゃんとおいしいワイン。ほしいとおもったときにすぐ買えるワイン。そういうワインがもっともっとあるべきだ。世界のワイン市場とワイン文化を支えているのはそういう、なんでもないフツーのワインであって、ボルドーの五大シャトーも、ナパ・ヴァレーのカルトワインも、ブルゴーニュのグラン・クリュも、シャンパーニュのプレステージキュヴェも、ワイン全体に占める数量的シェアは数%にすぎない。日本人はその数%のワインが好きだし、日本の造り手は意識が高いから、どうせならそういうワインを造りたいという気持ちはわかる。私には、そういうワインばっかり紹介していることへの反省もある。
ただ、こうして、日本を代表する造り手たちが手を組むのであれば、私が望むのは、むしろ量だ。DiscoverするまでもないJapan Wine。日本中のコンビニやスーパーで、いつでも買えるメジャーブランドの日本ワインというのができないものか。
