山形県にある銀山温泉。温泉と旅館は日本の風物詩だ。thanyarat07/Getty Images
コロナ禍以降、ホテルに大きく差をつけられていた旅館が、急速に追い上げている。
訪日外国人の受け入れ再開や円安の進行を受けて、ここ数年、ホテル業界の経済活動は大きく改善している。一方、同じ宿泊業でも旅館の回復は緩やかだった【図1】。
旅館には、人材不足や宿泊需要の偏在といった課題があるものの、成長の余地は大きい。
旅館の経済活動の回復から、日本のインバウンド需要の変化と、観光業がさらに成長するための鍵が読み取れる。
【図1】旅館とホテルの活動指数の推移。ホテルと旅館の間にあった差が縮まってきている。画像:経済産業省「第3次産業活動指数」を基に筆者作成旅館がホテルを猛追
もともと旅館の回復が遅れていたのには理由がある。
そもそも、都市部を中心に増加した訪日外国人の宿泊需要は、比較的自由度の高い滞在が可能なホテルに集中しやすい。旅館は短期滞在が前提となる場合が多いことや、食事付きプランが中心であることなど、サービスとインバウンド需要が一致せず、インバウンド需要の恩恵を十分に取り込めていない傾向があった。
日本ならではの宿泊体験を提供できることは旅館の大きな強みであるものの、外国人旅行者にとっては、日本独自のルールや言語面での不安などが、宿泊先として選択する際の障壁となっていた可能性もある。
その後、2026年以降は旅館がホテルを猛追している。
大きな理由として考えられるのが、ホテルの稼働率上昇と民泊需要の減少だ。8割程度の稼働率は一見余裕があるようにも見える【図2】。ただ、宿泊需要には曜日や季節による偏りがあるため、繁忙期を中心に追加的な需要を受け入れる余地は限られている。
【図2】ホテルの種類別稼働率。画像:観光庁「宿泊旅行統計」を基に筆者作成
さらに、昨今の民泊規制強化の流れの中で、宿泊需要の一部が民泊から旅館に流出している可能性もある。
民泊は、Airbnbなどの民泊仲介サービスの普及やインバウンド需要の拡大によって、近年大きく数を増やしていた。住宅宿泊事業法に基づく届け出住宅数は2018年に2210件だったものが、直近では4万3037件となっている。
一方で、民泊の拡大に伴って騒音やごみの問題などで近隣住民とのトラブルも顕在化。新宿区では、住宅地や学校周辺などでの新規開業を禁止し、それ以外の地域についても営業日数の上限を短縮するなどの動きがみられる。大阪市でも苦情の増加を受けて、2026年5月に特区民泊の開業申請受付が終了された。
変わり始めた、インバウンド客の流れ
インバウンド客は有名観光地に集中しやすいが、一方で外国語対応などを進めることで、地方がその需要を取り込もうとする動きも出てきている。DPA/Picture Alliance via Reuters Connect
もちろん、旅館回復の理由は、単にホテルや民泊からの需要が流れてきたからだけではない。
英語への対応や食事時間の柔軟化など、海外需要への対応をはじめとして、従来提供してきたサービスの良さを維持しながら、旅行者の多様なニーズに応えるための取り組みが進められてきた。こうした旅館の地道な努力が、数字でもはっきりと分かる形で実を結んできているものとみられる。
旅館需要の拡大は、日本の観光産業全体にとってもプラスとなることが期待される。
インバウンドを巡っては、観光需要の急増を背景にオーバーツーリズムが課題となっている。とりわけ、外国人観光客が「ゴールデンルート」と呼ばれる日本の主要観光地に集中し、地域住民から苦情が寄せられる例は枚挙に暇がない。
そうした中、地域ごとに特色のある旅館の魅力を打ち出すことができれば、定番観光地だけでなく、地方に観光客を分散させることができ、無理なくインバウンド需要を拡大することが可能となる。
地方への宿泊需要の広がりは、飲食店や土産店、交通機関などにも恩恵が拡大することに繋がる。旅館が地域の魅力を発信する拠点となることで、地域経済の活性化を実現することは、人口減少に直面し、疲弊する地方経済にとって大きな追い風となる。
実際、兵庫県の豊岡市では、同地域の城崎温泉にある旅館と一体となって温泉街の魅力発信やインバウンド客の受け入れ体制の整備を実施することで、外国人宿泊者数が急増。2025年の実績で、コロナ前の2019年度で約6割増となる過去最高の10万人を超えた。
こうした取り組みは、旅館の魅力を活かした地方へのインバウンド誘致の成功例と言えるだろう。
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旅館「再成長」もいまだ残る根強い課題
