中国の輸出は絶好調だ(写真は連雲港から輸出される中国車、8月25日撮影、写真:VCG/アフロ)
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2026年10月21日付)
上海在住の半導体エンジニアであるシュウさんは本来、中国版ニューエコノミーで「世界の支配者」になったような気がしているはずだ。
国の将来にとって不可欠で、国家から数十年にわたって多額の補助金を受けてきた業界で働き、悪くない給料を取っているからだ。
しかし、前途有望であるにもかかわらず、この29歳の男性はカネを派手に使うことに抵抗がある。
若者の失業率が高く、不動産価格は下落し続け、社会のセーフティーネット(安全網)もお粗末な環境にあって、自分の所得が日ごとに貴重になっていく気がしている。
本人によれば、最近はどこに行っても「消費降級」と悲観主義の雰囲気が漂っているそうだ。
「私も以前より強いプレッシャーにさらされている」とシュウさんは付け加えた。「だから、外出したいとか、お金を使いたいという気にはなれない」。
1990年代の日本で見た光景
このような消費意欲の消失には、ぞっとするほど見覚えがある。
シュウさんや彼のような数億の人々にとって、世界第2位の経済大国である中国は今、1990年の不動産バブル崩壊後に長期の景気低迷とデフレに見舞われた日本にますます似てきている。
人口動態の悪化からしつこいデフレ、弱々しい個人消費、瀕死の株式・不動産市場に至るまで、類似点は枚挙にいとまがない。
英国の調査会社キャピタル・エコノミクスの計算によれば、中国の債務残高(官民の合計)は国内総生産(GDP)比およそ300%に達しており、ここでも日本のレベルに迫りつつある。
中国の指導者層は、日本政府による不況対策を台無しにした政策の誤りを回避すべく、日本が経験したことを詳細に研究してきた。
だが、その努力にもかかわらず、元気のない消費者やデフレ圧力といった日本的な病の兆候は中国国内に広がり続けている。
ゴールドマン・サックスによれば、経済学者の故伊藤隆敏氏が最初に開発した「日本化指数」の改良版を見ると、中国がここ5年を通じて日本以上に「日本化」していたことが分かる。
こうした現象のすべてに暗い影を落としているのが、経済学者らの言う「人口動態の鉄の法則」だ。
日本では2009年に人口が減り始めた。中国の人口減少は2022年に始まり、日本より急傾斜になろうとしている。そのため中国経済の見通しも悪化している。
おかげで中国経済の頼れるかじ取り役だという習近平国家主席の評判も脅かされており、中国はあと10年か20年で米国を抜いて世界最大の経済になるとの予想が裏切られるとの見方が出ている(かつては日本が米国を抜くと考えた人もいた)。
ゾンビ企業が跋扈し、外食産業では価格破壊
折しも国際通貨基金(IMF)が先日、1990年代以降の日本の不振を思い出させる報告を行い、情け深い銀行のおかげで生きながらえているだけの「ゾンビ企業」がアジア各地で増えていると警鐘を鳴らした。
この現象はもう、多額の補助金が製造業に下りている中国経済全域で明白になっている。
優遇されていない業界の企業が投資をますます渋る一方で、家計は現金を使おうとせず貯め込んでいる。
1990年代の日本で作られた「就職氷河期」や「価格破壊」といった言葉が、中国の日常会話にも入り込んできている。
そして、経済学者が統計数値のなかに日本化の兆しを見出している一方、シュウさんは同じ兆しを朝食や昼食、夕食に感じ取っている。
中国全土のレストランや食堂が10元(約235円)で取れる食事の提供で競争を繰り広げているからだ。
「客は主に、料理自体の味や質よりも空腹を満たすことを考えているようだ」とシュウさんは言う。
この現象も日本化の進行を示唆している。日本ではデフレが定着した際、ますます縮んでいく個人消費を何とか呼び寄せようと、レストランが利益率を落として価格を下げる競争に突入した。
ある大手牛丼チェーンでは、牛丼の「並」が1990年末に1杯400円に値上がりした後、値下がりに転じた。400円に戻ったのは2021年になってからだ。
「あの当時、日本の対応は小さすぎるし遅すぎると批判された。必要だったドラスティックな手段を講じるのが遅く、痛みを引き受けることに消極的だった」
日本国際問題研究所の客員研究員で日中経済比較を専門とする津上俊哉氏はそう指摘する。
「中国は打てる対策をすべて打っているように見えるが、それでも症状にしか対処していない。実際、中国の問題はより大きく、深刻になりつつある」
イラン戦争を受けたエネルギー価格の上昇により、中国の生産者物価は先日、3年以上続いたデフレから抜け出したものの、需要の弱さは悪化し続けていると経済学者らは口をそろえる。
消費者はレバレッジの縮小(借り入れ削減)に取り組んでおり、銀行の消費者向け貸出残高は今年8月、史上初めて減少に転じた。
