Mark Anderson
Patrick Howell O’Neill
Alastair Gale
2026.10.30 10:51

(ブルームバーグ):日本がAIを駆使したサイバー攻撃の激しい波に見舞われており、世界有数の経済大国が新たなタイプのハッキングに対して抱える脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りになっている。
証券会社から配送業者に至るまで、企業が被害を受ける事案が数十件発生し、情報流出が日常的な出来事となっている。経済産業省は28日、電力・ガス取引監視等委員会のウェブサイトへの不正アクセスがあったと発表した。その数日前には、ハッカーが、外国為替取引などのプラットフォームを運営するGMOインターネットグループから機密性の高い顧客情報を大量に盗み出し、公開したと主張していた。
これに先立ち先週、PHPと呼ばれる一般的なプログラミング言語の脆弱性が明らかになり、政府や企業が対応を急いだ。みずほフィナンシャルグループなどは緊急措置を講じた。
日本の大手企業は世界のテクノロジー供給網の重要な一角を担い、日本の貯蓄資産は世界で2番目の規模を誇る。いずれもハッカーにとって日本を魅力的な標的にする要因だ。この危機を受け、高市早苗首相は、日本のサイバーセキュリティーを他の主要国並みの水準に引き上げる計画の加速も迫られている。外部の脅威に対する国の強靱(きょうじん)化を掲げる首相の政策の一環だ。
トレンドマイクロの一部門TrendAIでAIセキュリティー・脅威研究担当バイスプレジデントを務めるトム・ケラーマン氏は、日本では今年、サイバー犯罪が異例なほど急増していると指摘した。同氏によると、多くの攻撃はLockBit(ロックビット)やQilin(キリン)といったロシア語圏のサイバー犯罪集団によるもので、一部では北朝鮮のハッカーと連携している疑いもある。
専門家によると、AIエージェントやオープンソースのハッキングツールの登場により、犯罪集団が日本の旧式のインフラを悪用し、日本語の壁を乗り越えることがかつてないほど容易になった。ケラーマン氏によると、ハッカーはAIを使って能力を高め、複雑なネットワークを分析し、脆弱な標的を見つけ出して攻撃する一方、検知を回避している。
GMOサイバーセキュリティbyイエラエで、GMOサイバー犯罪対策センター局長を務める福森大喜氏によると、最近の攻撃の多くには、中国で開発されたサイバー防御テスト用のAIツール「ARTEX」が関わっている。同じツールは先月、韓国の金融機関で相次いだ不正侵入にも関与していたという。
独立系シンクタンク、マクニカ セキュリティ研究センターの瀬治山豊・センター長補佐によると、相次ぐ攻撃で日本のサイバーセキュリティーを巡る状況は一変し、リスクが広範に及ぶとの懸念が広がっている。同氏は、公開されているウェブシステム、とりわけ個人情報を扱うシステムがハッカーによる無差別な攻撃を受けていると指摘。ハッカーは脆弱なウェブサイトから手に入る情報を手当たり次第に盗んでいると語った。
はるかに脆弱
日本がサイバー脅威にさらされるリスクは、長年にわたり懸念されてきた。昨年、壊滅的なランサムウエア攻撃によりアサヒグループホールディングスの一部業務が停止し、アスクルでもシステム障害が発生した。2020年には、中国軍のハッカーが日本の防衛ネットワークに侵入した。米紙ワシントン・ポストによると、米政府当局者はその後、日本側の関係者に侵入を知らせるため東京を訪れた。
今回の危機は、高市首相が夏にサイバーセキュリティーを国家の優先課題に格上げし、重要インフラの保護に重点を置いた後に起きた。日本はこれまで主に事後調査や対応に重点を置いてきたが、現在はオンラインの通信トラフィックを監視して潜在的な脅威を特定し、無力化を図るという、より積極的な姿勢へと転換しつつある。
慶応大学大学院政策・メディア研究科教授で、政府のサイバーセキュリティーに関する諮問委員会のメンバーでもある土屋大洋氏は、日本は他のG7諸国に比べて「はるかに弱い」と述べた。日本は米国、オーストラリア、英国の安全保障当局から訓練や助言を受けているという。
土屋氏によると、日本がサイバーセキュリティーで他国に後れを取っている主な理由の一つは、海外からの通信を含め、政府による通信監視に対する憲法上および法律上の制約にある。ただ、新たな法律によってこうした制約は解除され、その一部は今月に入って施行されたばかりだ。
喫緊の課題
日本はサイバーセキュリティー予算を積み増したが、十分な経験を持つ人材の確保が引き続き課題となっている。木原稔官房長官は29日、「深刻化していくサイバー空間の脅威、それに的確に対応・対処するために優秀なサイバー人材を育成・確保をしていくということは喫緊の課題だ」と述べた。
ウェブメディア開発を手掛ける合同会社アイディーテックスの代表を務める花弥善行氏は、ここ半年ほどの間にAIを利用したサイバー攻撃が急増していると語った。先週はPHPソフトウエアのパッチが夜遅くに公開されるのに備えるため、出張先から急いで戻った。その後、数日間にわたり顧客からの依頼への対応に追われたという。花弥氏は食事やトイレ、入浴、睡眠以外は、ほぼずっとパソコンの前にいると語った。
サイバーセキュリティーを専門とするマイアミ大学のベンジャミン・バートレット教授によると、日本には、資金力がありながらITセキュリティー対策が不十分な中小企業が数多く存在するため、ハッカーにとって引き続き魅力的な標的となっている。同教授によると、現在相次いでいる攻撃では、こうした企業が金銭目的のハッカーに狙われるケースが大半を占めている。
バートレット氏は「日本企業は特に状況が悪いというより、むしろ今後起こることの先行指標だ」と指摘。「この事態に備えができている人は誰もいないと思う」と述べた。
原題:Japan’s Cyberattack Surge Tests Its Push to Strengthen Defenses(抜粋)
–取材協力:望月崇、ヒルトン セーラ、Mayumi Negishi.
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