今季屈指の好ペースを示しながら、決勝ではわずか5周で2台ともリタイヤしたアストンマーティン・ホンダ。2026年F1第19戦メキシコGPで発生したエネルギー回生システム(ERS)の冷却トラブルは、一見すると車体側の放熱不足を疑わせる出来事にも思われた。
だが実際には、ボディワークの冷却性能ではなく、特定の走行条件下で生じたエンジンの作動・制御上の問題が引き金になったようだ。
ホンダは高地に位置するエルマノス・ロドリゲス・サーキット特有のコンディションに備えていたものの、予選で深刻な問題が表面化。決勝でもパワーユニット(PU)の圧力値に異常が生じ、フェルナンド・アロンソはピットに戻り、ランス・ストロールはバッテリーの損傷を避けるためコース上に停止した。
メキシコシティは標高約2,285mの高地に位置するため、海抜0m地点と比較して気圧が約20%も低い。これはF1カレンダーの中では抜きん出た数値であり、実際、2番目に高い海抜800mのインテルラゴスより1,500m近くも標高が高い。
Courtesy Of Honda Motor Co., Ltd
ランス・ストロールのAMR26を前に決勝レース前の国歌斉唱に臨むアストンマーティンとホンダ・レーシングのチーム関係者、2026年11月1日(日) F1メキシコGP決勝(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)
車体冷却とは別問題? 特殊条件で「異常な挙動」
ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネージャー兼チーフエンジニアによれば、この問題はタイヤを温めるための予選でのプレップラップや、決勝に向けてグリッドに向かうためのラップなど、特定の条件下で発生していた。
こうした条件下では、他のマシンに追従する際のオーバーヒートや、ボディワークの冷却用開口部のセッティングが問題になるとは考えにくい。
実際、否応なく集団の中で走行することになるフリー走行では、2台のAMR26は周回を続けていた。フリー走行1回目(FP1)に参加した際にジャック・クロフォードが抱えた問題は、予選と決勝で発生したトラブルとは別の性質のものだったとされる。
スペインのモータースポーツ専門メディア『SoyMotor』によると、折原TGMは「そうした特殊な条件下で、エンジンが想定とは少し異なる異常な挙動を示しました。エンジンからERSの冷却系統に負荷がかかり、その後、MGU-Kに故障が発生しました」と説明した。
エンジンのどういった挙動が、どのような経路で冷却回路に負荷を与えたのかは明らかにされていない。ただ、折原TGMによれば、エンジンの異常挙動を誘発したのは標高の高さだった。
特定の個体に起因する問題だった可能性は低そうだ。MGU-Kの交換後や、異なるエンジン個体でも同様の問題が発生したためだ。こうした状況を踏まえ、チーフ・トラックサイド・オフィサーを務めるマイク・クラックは、「より全般的な問題」である可能性に言及している。
折原TGMによれば、今回の問題はシミュレーションでは検出できなかったものの、実際にエンジンや関連機器などのハードウェアを稼働させるダイナモテストでは検出可能だという。そのため、イギリスのモータースポーツ専門メディア『The Race』は、「物理的な相互作用に関係する問題」であると指摘している。
メキシコで打つ手なく、サンパウロで対策
メキシコの決勝中も、チームは問題の抑制を試みた。2台を3周目の終わりにピットインさせたのは、集団から離してクリーンエアを確保するためだった。ギアの使用方法を変えたり、出力を引き下げたりする対応も用意されていたとされるが、それらを実行に移すことなく走行を終えた。
「対応のための選択肢はいくつか用意していた。だが、それらでは不十分だということがすぐに分かった。そうなると、もう打つ手がなかった」とクラックは振り返った。もっとも、レース開始以前の段階ですでに、2台とも完走できない可能性をチームとして認識していたという。それだけに、なおさらボディワークの冷却性能不足が原因となった可能性は低いと言えるだろう。
ホンダは今週末の第20戦サンパウロGPに向け、ソフトウエア、キャリブレーション、ハードウエアの各面で対策を持ち込んだ。インテルラゴス・サーキットはカレンダー上で2番目の高地コースだ。
折原TGMは「メキシコでは、冷却システムに加えてターボラグやドライバビリティについても、今後に生かせる多くのデータを得ることができました。インテルラゴス・サーキットも標高が高く、メキシコほどシビアな環境ではないものの、パワーユニットへの影響を考慮して最適化を行う必要があります」と語る。
メキシコでは、スタート時のターボラグも想定以上に深刻だった。排気エネルギーが少なく、過給圧が低下する条件に対し、折原TGMはソフトウエア側の対応にも不足があったと認めている。ホンダは今回の故障とターボラグから得た知見を、2027年に向けた開発にも反映していくことになる。
